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世界の異常気象(5)

2022年12月05日 | 文化・文明
世界の異常気象(5) 森林火災と凍土の氷解

酷暑から一転、朝晩冷え込みが続くようになり、テレビで気象予報士が「晴天が続いているので、放射冷却によって気温が下がります」と言う解説を耳にする事が多くなった。
気象庁ホームぺージの説明によると、地球温暖化による異常気象はこの「放射冷却」と「温室効果ガス」が深く関与している事が分る。
地球が冷え切った宇宙の中で暖かいのは、太陽光線として熱エネルギーを吸収しているからであるが、地球が太陽光線を受け続けても熱くなり過ぎないのは、赤外線の形で熱を宇宙に放出(放射冷却)している事による。しかもその吸収と放出のバランスを保っているのが「温室効果ガス」と言うことになる。
太陽が発する太陽光の内(エックス線)は殆どが大気で遮断され、有害な(紫外線)も90%以上が成層圏のオゾン層でカットされ(可視光線、赤外光線)も4割強が大気圏で弱められ地上に到達する。
受け取ったエネルギーは45%が熱に変換され、雨・風と言った気候現象の駆動力となり、20%は海中に貯えられ、30%は宇宙に反射されるが、最終的には、赤外線や可視光などの電磁波として宇宙へ再放射される。温室効果が無かった場合、地球の表面の温度は氷点下19℃と見積もられているが、(水蒸気、二酸化炭素(co2)、メタン、一酸化2窒素(n2O)、人工的に作られたフロンガス(オゾン層破壊物質))などの温室効果ガスが(地球の掛布団)のような役割を果たし、赤外線の放射を吸収し(更にこれを地球に再放射して)大気を温める為、現在の世界の平均気温は温暖な凡そ14℃となっているのである。この様に地球の温度は極めて微妙なバランスの上に立って維持されていることになるが、最近話題となっている異常気象を招く地球温暖化は産業活動の活発化に端を発し、温室効果ガスの排出が増え続け(掛布団が必要以上に厚くなり)より多くの熱を吸収する為、放射冷却を弱めたことによるものと考えられている。 
一度温暖化が進んでしまうと、温暖化を加速・増幅させるフィードバック過程が、気候システム内で次々と起こってしまう可能性がある事はブログ・「世界の異常気象」初回で触れたが、このような悪循環の中でも今後より大きな影響を受けると考えられているのが、氷雪の溶解による温暖化の加速である。
北半球の陸域には永久凍土が広く分布するが、此処には過去から蓄積された有機物(主に動植物の死骸)が、氷河時代以来凍りつき低温の中で長期に亙って分解されず閉じ込められている。気温上昇によって永久凍土が融解すると、土壌に閉じ込められていた有機物が分解され、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが放出される。又永久凍土には堆積物の他に巨大な氷塊が存在し、この氷の中にある気泡のガス濃度を測定すると、メタン濃度が大気中の何千倍もあることが研究者によるアラスカ調査で判明して居り、この氷解も高濃度メタンガスの放出も懸念され、将来どの程度永久凍土が融解するのか、それによってどの程度温室効果ガスが放出されるのかが、非常に重要な問題と考えられている。
世界各地で異常気象による森林火災の頻発が報じられているが、永久凍土氷解の加速が懸念されているのがシベリヤ、アラスカのツンドラ地帯やタイガ(針葉樹林滞)の火災である。これらの地域は人口希薄で火災が発生しても放置されたままで消火活動は殆ど行われない。アラスカ州は日本の4.5倍の土地に僅か70万人しか住んで居らず、森林火災の殆どは無人地帯で発生し、消火活動をせず自然沈火を待つのが常態で、米国の気象専門家はアラスカ州の温暖化ガス排出量は2012~14年の期間で全米商業部門の年間排出量2億2千万トンに達したとの調査結果を発表している。隣のカナダは6割が北方林だが太平洋岸のブリテイッシュ・コロンビア州が北米異常熱波で森林火災が多発している。
北方林火災は大きな問題である。北方林火災による温暖化ガスの排出に加え、その地中に眠る炭素が凍土氷解により放出され、経済活動による温暖化ガス抑制努力を無意味にしてしまう怖れがある。
より深刻なのはロシアのシベリヤにおける大規模森林火災である。昨年日本の面積の半分が焼失したと国際環境団体グリーンピースが推計している。大気不安定による落雷が発火原因だが、冬の積雪や低温にも拘わらず、雪や氷の下で火災が越冬し気候が緩めば本格的に燃え広がると言う様な事が繰り返されているとも報じられている。ロシアはシベリアを中心に6割強が永久凍土で、その氷解による温暖化ガスの排出による環境破壊は深刻である。プーチンはウクライナ侵攻に気を取られ環境破壊はおろか、シベリア住民のの居住環境の悪化にも手が回らぬ状況である。

永久凍土の氷解には新たなリスクも取り沙汰されている。
凍土が溶解すると、氷と永久凍土に閉じ込められていた古い土壌微生物が空気中に放出されて活性化する。それが予期せぬ結果をもたらすかもしれないというのである。
2016年シベリアのヤマル半島で、炭疽菌による感染症で男児が死亡した。研究者によると、この炭疽菌は75年前に死亡した鹿の死体で生き続けていた。同じ年に起こった熱波の後、鹿の体が埋まっていた永久凍土が溶け、閉じ込められていた病原菌の胞子が大気中に放出され、それが感染源だと言うのである。
類似の事例は他にも報告されている。1997年、ある科学者グループがアラスカの集団墓地に埋葬されていた遺体からスペイン風邪の痕跡を発見した。1918~19年にこのインフルエンザは大流行し、世界中で数千万人の命を奪った。アラスカの先住の人々は永久凍土層を貯蔵庫や墓地として利用して来たが、第一次世界大戦中の1918年、僅か5日間に人口150人の小さな村の半数が謎の病(後にスペイン風邪と判明)で急死し埋葬され、遺体は凍結保存されて来た。1世紀近く経た1997年、発掘された遺体の肺から見つかったのは、鳥インフルエンザとそっくりなウイルスであった。鳥インフルエンザウイルスがヒトに初めて感染するように変異したことで、猛威を振るったと考えられている。スペイン風邪の原因解明に凍土の凍結保存機能が役立ったが、その機能が新たな脅威、即ち温暖化により現代人が免疫を持っていない未知のウイルスや病原菌が活性化し、世界に拡散するリスクがあると言うのである。例えば米国と中国の研究者は、チベット高原から取り出した氷の試料、氷床コアから33種類のウイルスを解析している。凍土の融解は「感染症の時限爆弾」とまで言われ始めている。
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