これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

二代目生徒

2013年01月13日 21時12分28秒 | エッセイ
 11月から1月にかけて、私の勤務校では4回、学校説明会を実施する。
 今年は人手不足で、すべて参加する破目になったが、思いがけない出会いもあった。
 2回目のときだ。説明会のあとで、背の高いお母さんが近づいてきた。
「あのう、もしかして、i高校に勤めていませんでしたか」
 i高校とは、私の2校目の勤務先である。だいぶ前に統廃合され、今はもう残っていない。
「はい、もう20年ほど前になりますが」
「私、卒業生なんです。ニシオカといいます」
「えっ、ユカ!?」
 ニシオカユカのことはよくおぼえている。バスケットボール部だったが、白ではなくピンクのワイシャツを着て登校したり、校内で喫煙して自宅謹慎になったりと、校則違反の常習犯だった。それが今や、中学生のママとなり、子供に付き添って私の学校に来ている。変われば変わるものだ。
「おぼえていてくれたんですね」
 ユカもうれしそうに笑った。こんな再会も悪くはない。
 そして先日、4回目の説明会を終えた。この日は個別相談会もあり、何組かの親子の入試相談を担当した。
「先生、推薦入試のときに、この身だしなみでは問題がありますか」
 挨拶を交わしたあと、母親からいきなり、娘の服装へのアドバイスを求められた。
「前髪が長いので切ったほうがいいです。スカート丈はいいですね。眉毛を描くのはダメですよ。剃らずに伸ばしてください」
 よくしゃべる母親に、無口な娘という組み合わせのようだ。親子仲はいいようだが、母親は日ごろから娘の身だしなみに不満を持っており、私に同意を求めているように見えた。
「成績が悪いのに、勉強している姿もほとんど見ていません。入試まであとちょっとなのに、何をさせればいいんでしょう」
「内申は決まっているので、やはり面接対策ですね」
「そうですよね」
 母親は娘のほうを向き、そちらにも話しかける。
「お母さんが面接官の役やるから、今日から面接の練習もしよう。テレビは我慢しなくちゃ」
 中学生も親も不安なのだ。どうやったら合格できるのか、何をすればいいのかを知りたがっている。決して「大丈夫です」とは言えないが、何か力になりたいとは思う。10分ほどそんなやり取りを続け、ひと段落したあと、「ちょっと変なことをお聞きしますが」と別の話題を切り出された。
「先生は、U高校にいらっしゃいませんでしたか?」
 U高校は、教員になって最初の学校である。予期せぬ問いに、私は言葉を失った。
「私、平成4年に卒業したムトウといいますが、見覚えのある名前だと思いまして……」
「平成4年なら、私もいましたよ。きっとお会いしていますね」
 残念ながらムトウさんの記憶はなかったが、家でアルバムを開いてみた。
 いたいた。そこには、あのお母さんが若返ったような、可愛らしい女子高生が写っていた。しかし、染めたような髪を束ねておらず、唇もやけに赤い。きっと、教員に何度も指導を受けたに違いない。自分のことはさておき、娘の服装を注意するあたりが面白い。
 ニシオカさんとムトウさんが合格すれば、4月からは親子二代で生徒になる。
 私もそういう歳になった。
 ちなみに来年は、一年の担任に入る予定なのだが……。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (14)
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