星野道夫さんの著作は、かなり以前に読んだ「魔法のことば」という本以来になりますから久しぶりになりますね。
こちらは、未完に終わった雑誌の連載に日誌を加えて一冊の本に作り上げられたものです。
私とは全く違った世界に生きた星野さんの思考や行動に触れると、(その瞬間だけでしかないのが情けないのですが、)大いに励起されるものがありますね。
さて、今回の旅の舞台はもちろん“アラスカ”。星野さんは氷河に囲まれたインディアンの部族を巡り、そこに伝わる神話を訪ねます。
アラスカの大河ユーコン川の川沿いのミントウ村に住むアサバスカンインディアンの古老ピーター・ジョンから、物々交換のために500キロ歩くことも厭わない昔のインディアンの生活の様子を聞いた星野さんは、こんなことに気づいたのでした。
(p232より引用) ぼくはかつてアラスカの未踏の原野に魅かれていた。セスナで何時間も飛び続けながら、まったく人気のない原野を驚嘆をもって見下ろしていたものだった。が、それは大きなまちがいだった。太古の昔から、アラスカの原野は足跡を残さぬ人々の物語で満ちているのだ。北方アジアから渡ってきたモンゴロイドが、この壮大な原野を越えていったことが、今、手にとるように想像できる。
同じ“ワタリガラスの伝説”をもつアジア大陸のモンゴロイドと北アメリカ大陸のインディアンとの繋がりに星野さんは思いを馳せ、それを確かめる旅を続けました。
それは、星野さんの最後の旅になりました。