松岡氏の本は、ここ1~2年でも「17歳のための世界と日本の見方」「日本という方法」「脳と日本人」「白川静 漢字の世界観」「多読術」等々を手にとっていますが、今回の「日本力」は、松岡氏の著作の中でも比較的読みやすいものだと思います。
エバット・ブラウン氏とのベクトルを一にした対談が基軸になっていることがその大きな理由でしょう。
とはいえ、松岡氏の従来からの主張もあちらこちらに見られますし、その独特の言い回しも健在です。
たとえば、「西の文化」と「東の文化」をその始原から対比させた解説は、その典型例だと思います。
(p37より引用) 西の文化は一神教的社会で、二分法で善と悪、光と闇、男と女というふうにしっかりと分けて、そしてロジカルに考える。たいへん言葉・論理を大事にする。これは一神教の多くが砂漠的な風土に生まれたからなんです。・・・
それに対して東の文化は多神多仏教的社会で、いわば森林型の文化なんです。・・・そういったなかから仏教の多様性が出てきていて、「待つ」ということのなかから、瞑想とか座禅がでてくるわけです。
また、「日本の職人」の章での「未完成」の価値を語ったくだりも面白いものです。
(p158より引用) どこかちょっと違ったなとか、動きというかゆらめきがあるから、未完成のままで、それが次のものを生んでいく。そのことが今の日本が失いつつあるものの中で、とても大事です。
職人の感性の堆積が、文化の厚みとなって人の営みの中に通底していくのだと思います。
松岡氏の著作を読んで、私自身とても勉強になるのが、「物の見方」です。
古今東西、重層的な知識を礎に、独自の「視座」から大きく投網をかけたような「視野」で対象をとらえ、そこから新たな「コンセプト」を紡ぎ出す方法は、私にとっての高い目標です。
(p184より引用) たしかに30年使える焼きものや漆器は高い。けれども、いったん技術とともにそれを失ったら、価値観はもちろんのこと、それまでそこに蓄積されてきた膨大な時間をも失ってしまうということを忘れてはいけないんです。
伝統的なものを失うことは「蓄積された時間を失う」ことだ、取り返しのつかないことだ、というメッセージは、まさに正鵠を得たものだと思います。
さて、最後に、松岡氏・ブラウン氏お二人から「今の日本人への提言」です。
(p197より引用) 日本の今の社会文化には、いろいろと足りないことがありますが、そのひとつがホーム・ポジションを持つという意識なんだと思っているんです。自分の原点、美意識や価値観の源泉を、ひとりひとり違っててもいいのだから、持つべきですね。
これは、まさに「アイデンティティの礎」になるものです。
広く日本を見渡して、過去からの歴史を振り返って、謙虚に自分の立ち位置を認識する営みは、言うまでもなくとても大切なことです。
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