本書で主張しているのは、この世界的不況を乗り切る方法の指南ではありません。この不況期の次に訪れる経営環境を見極め、そのために、今何を為すべきかを説いています。
景気後退期、企業はありとあらゆる事業分野のコスト削減に取り組みます。縮小均衡でなんとか不況を乗り越えようともくろむのです。
しかし、すべての分野に対して、「一律的なコスト削減」の営みでよいのでしょうか。
(p22より引用) 「マーケティング支出の縮小」という対策は逆効果を招きかねない。過去の例からも明らかだが、景気後退期に製品やサービスのマーケティングと販促活動を継続した企業のほうが、軽率にマーケティング費用の大幅削減に踏み切った企業より、景気回復後に好業績を上げている。
景気後退期にマーケティング/販促活動を継続すべきとはいっても、漫然と今までと同じことを続けるのではありません。
(p220より引用) それよりずっと賢明なやり方-ただし、実行するのはもっと難しいが-は、マーケティング/営業支出を脱平均化し、最も高い価値を生み出す領域(市場、セグメント、チャネル)に資金を再配分することである。
卓越した企業は、景気後退期に長期的な優位を築く手立てを講じるのです。まさに「将来への投資」です。
(p54より引用) いま、製品開発、ITや生産技術などの分野に投資しても、多くの場合、実を結ぶのはあくまで不況が過ぎ去った後である。しかし、そのような投資に二の足を踏むと、景気回復期に訪れるチャンスを生かす能力が損なわれかねない。しかも、いまなら経営資源をめぐる競争が沈静化しているため、投資コストも低くなるはずだ。
本書は、欧米を中心に活動している「資本市場・M&A」「金融」を専門とするコンサルタントが執筆したレポートを編集したものです。そのため、議論の前提となる経済環境やそれに対する施策は、必ずしも「日本」にそのまま適合されるものではありません。そのあたり、やはり、いわゆる「戦略コンサルタント」の「定見的アドバイス集」という香りは払拭されないように思います。
(p102より引用) 最高のM&Aは、景気低迷期にこそ行われる。・・・いまが業界再編やコスト・シナジーを狙ってM&Aを仕掛ける絶好のタイミングといえる。
とはいえ、不況期に「目先のこと」のみに囚われず、「不況期」というタイミングを活かした危機脱却後の「将来的な布石」をも打っておくべきという主張は正しいものです。
(p100より引用) 外部環境の大きな変動がある時こそ、これまでは社内外のステークホルダーの抵抗から手がつけられなかった事業構造の抜本的改革のチャンスなのだ。
いずれにしても、本書を読みこなすには、私の経済・金融に関する知識はあまりに貧弱だったようです。
ところどころ日本に関する記述もありますが、直接的に日本をテーマした章は、
(p171より引用) 日本:前回の危機からの学習があるとはいえ、今後も問題に直面
とのリードがある数ページだけです。
内容のほとんどが欧米の環境を舞台としたもので、その影響が日本の経済環境・企業経営においてどのような影響を与えるものか、残念ながら私には、ほとんど想起することができませんでした。
国際経済や国際金融に造詣の深い読み手であれば、有益な示唆が多く含まれていた本なのだと思います。
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不況後の競争はもう始まっている―景気後退期の戦略行動とは何か 価格:¥ 2,100(税込) 発売日:2009-07-31 |
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