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五重塔 (幸田 露伴)

2009-05-15 22:06:42 | 本と雑誌

Gojyunotou  今年は年初に、少しでも読書の食わず嫌いを減らそうと決意したのですが、その一環として、この歳になって初めて幸田露伴を読んでみました。

 腕は一流だが世渡り下手で頑固一徹な大工の「のっそり十兵衛」が、東京谷中の感応寺に五重塔が建立されるという話を聞きつけ、魔物に憑かれたように一心にその仕事を買って出て見事に成し遂げる、その間の様々な人間模様を描いた短編作品です。

 作品の中から、いくつかの印象的な場面をご紹介します。

 まずは、「五重塔の仕事を求めた大工十兵衛と感応寺朗円上人との対面の場」の描写です。

 
(p22より引用) さあ十兵衛殿とやら老衲について此方へ可来、とんだ気の毒な目に遇わせました、と万人に尊敬ひ慕はるる人はまた格別の心の行き方、未学を軽んぜず下司をも侮らず、親切に温和しく先に立て静に導きたまふ後について、迂闊な根性にも慈悲の浸み透れば感涙とどめあへぬ十兵衛、・・・

 
 源太か十兵衛か、いづれが塔を任されるのか、「上人の沙汰を待つ十兵衛の姿」です。

 
(p32より引用) ああいぢらしや十兵衛が辛くも上げし面には、・・・額の皺の幾条の溝にはに沁出し熱汗を湛え、鼻の頭にも珠を湧かせば腋の下には雨なるべし。膝に載きたる骨太の掌指は枯れたる松枝ごとき岩畳作りにありながら、一本ごとにそれさへも戦々顫へて一心に唯上人の一言を一期の大事と待つ笑止さ。

 
 上人の意を汲み「五重塔を二人で建てよう」と持ちかけた親方源太。それを断る十兵衛。

 
(p48より引用) 先刻より無言の仏となりし十兵衛何ともなほ言はず、再度三度かきくどけど黙々としてなほ言はざりしが、やがて垂れたる首を擡げ、どうも十兵衛それは厭でござりまする、と無愛想に放つ一言、吐胸をついて驚く女房。なんと、と一声烈しく鋭く、頚骨反らす一、二寸、眼に角たててのつそりを驀向よりして瞰下す源太。

 
 源太の情は分りつつも、それを拒んだ「十兵衛の道理」です。

 
(p62より引用) 自分が主でもない癖に自己の葉色を際立てて異つた風を誇顔の寄生木は十兵衛の虫が好かぬ、人の仕事に寄生木となるも厭なら我が仕事に寄生木を容るるも虫が嫌へば是非がない、和しい源太親方が義理人情を噛み砕いて態々慫慂て下さるは我にも解つてありがたいが、なまじひ我の心を生して寄生木あしらひは情ない、十兵衛は馬鹿でものつそりでもよい、寄生木になつて栄えるは嫌ぢゃ、・・・

 
 作者の幸田露伴(1867~1947)は、江戸生まれの明治~昭和期の小説家です。この「五重塔」で文名が高まり、明治期を代表する作家として尾崎紅葉とならび称されました。

 しかし、この「五重塔」という作品。活劇を観ているような場面場面の切り出し、緊迫感溢れる子気味の良い文体はとても刺激的でした。
 齋藤孝氏ではありませんが、まさに「音読」するためのテキストです。
 これが、露伴25歳のときの作とのこと。全くの驚きです。
 
 

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