「自助論」の薦めは、極めてオーソドックスな教えです。
諭し方も直球勝負ですし、具体的な例示も分かりやすいものが選ばれています。
言わば「当たり前」の薦めです。
ただ、ときに「おやっ」という新たな気付きの教えがあったり、「そういう言い方もあるか」という逆説的な説示があったりします。
「本からの知識」についての以下のフレーズは、読書の意味を踏まえつつも、それよりも遥かに大事な姿勢として「行動」「経験」があることを教えています。
(p169より引用) 単なる知識の所有は、知恵や理解力の体得とはまったく別物だ。知恵や理解力は、読書よりもはるかに高度な訓練を通じてのみ得られる。一方、読書から知識を吸収するのは、他人の思想をうのみにするようなもので、自分の考えを積極的に発展させようとする姿勢とは大違いだ。
つまり、いくら万巻の書物を読もうとも、それは酒をちびちび飲むような知的たしなみにすぎない。そのときは快適な酔い心地を味わえるものの、少しも心の滋養にはならないし、人格を高める役にも立たない。
「実」のある知恵は、「自ら」考え行動しない体得できないという現実論です。
そこには常に「自己の意思」があります。
(p171より引用) 実践的な知恵は、自己修養と克己心を通じてのみ得られる。この両者の根底には自尊心が横たわっている。
こちらは「なるほど」という指摘です。
有名なイソップの寓話をベースにして、視点を変え、受け手側への忠告に転換しています。
(p180より引用) 成功や繁栄のほうが、むしろ弱い人間にとっては危険なワナとなる場合が多い。世間の冷たい風に外套を吹き飛ばされるのは、心の弱い人間だけだ。ふつうの人間は逆に、太陽から暖かすぎる日差しを浴びると外套を脱ぎ捨て、そのままどこかへ置き忘れてしまう。その意味では、逆境の中で耐えるより幸運の中で耐えるほうが、はるかに強い自制心を必要とする。
安易な受身への戒めです。
さて、最後に、本書で紹介されている政治思想家バークの言葉です。
(p181より引用) 「困難と闘いながら、人間は勇気を高め、才能をみがき上げていく。われわれの敵は、実はわれわれの味方なのだ」
自助論―自分に負けない生き方 価格:¥ 1,529(税込) 発売日:1995-03 |