本書は、稲盛氏の経営哲学を開陳したものでもありますが、実際の経営において実践したマネジメント手法も列挙されています。
それらの手法は、稲盛哲学と密結合のものもあれば、どの企業においても参考になるHow To的なものもあります。(ただ、稲盛氏に言わせれば、後者のように見えるものも、氏の経営哲学あっての手法なのでしょうが)
ここでは、ちょっと稲盛色の漂うHow To的な手法や考え方をいくつかご紹介します。
ひとつめは、「時間当り採算制度」です。
これは、アメーバ組織の基本的管理手法です。
具体的には、独立採算組織としての収入と費用の差を「付加価値」とし、それを「労働時間」で除した数値をあらゆる計画・実績管理に用いるものです。
「労働時間」を分母にしているのは、組織の生産性を捉えるのに適しているのと、アメーバリーダがコントロールできる経営要素であるからです。
「時間」の意識を高めることは、生産性向上の王道です。
京セラでは、この方法で「日々」の採算管理を実施していると言います。
また、同社では、この「時間当り採算制度」の他にもいくつかのベーシックなルールが尊重されています。
たとえば、お金と伝票の動きを一体のものとするための「一対一対応の原則」や業務の信頼性を高める「ダブルチェックの原則」等です。
ふたつめは、「効率的な営業部隊」についての考え方です。
ラインとしての営業部隊をもつか、ワンストップの営業部隊とするかの問題です。
(p112より引用) 事業本部ごとに専任の営業担当者を置くべきか、業務効率を優先して兼任の営業担当とするべきか、その判断はたいへん難しい問題である。しかし、業務効率ばかり考えていても、売上がいつまでも横ばいのままであれば仕方がない。たとえ、いまの受注が小さくても、専任の営業担当者を置いて、大きな受注に結びつけていくことがあるべき姿である。
お客様から見たワンストップのよさは肯定しつつも、稲盛氏はこう断じます。曰く、
(p111より引用) たしかに、兼任の営業を置いたほうが効率的に見える。
ところが、、営業をひとりにしてしまうと、楽に注文がとれる製品に注力しがちになる。その営業担当者にとってはどの事業本部の製品で注文をとっても構わないからだ。したがって、努力と時間を要する新規顧客や新市場の開拓に身が入らない。
アメーバ経営―ひとりひとりの社員が主役 価格:¥ 1,575(税込) 発売日:2006-09 |