(兵法家伝書(柳生 宗矩)p22より引用) 治まれる時乱をわすれざる、是兵法也。国の機を見て、みだれむ事をしり、いまだみだれざるに治むる、是又兵法也。
本書は、巻末の解説によると、「新陰柳生流の基本的伝書」で、1632年、柳生但馬守宗矩が62歳のときに完成されたとのことです。
本論にあたるのは、「習いの外の別伝」とも言われる「殺人(せつにん)刀」「活人剣」の2部で、新陰柳生流の技法・心法上の理論的体系を詳しく記したものです。
内容は表層的なHow Toの伝授にとどまらず、むしろ人が人ともしくは何がしかの対象と相対する際の基本的姿勢を著しています。
具体的な剣法の指南書的な部分においても、その根底には、「禅」「能」等に出自のある思想が流れているのです。
二代将軍秀忠の世に「将軍家兵法師範」となり、また三代将軍家光とは生涯にわたる親密な交わりを交わした宗矩は、「乱世には世を治めるために殺人刀を用い、治世には人を生かすために活人剣を用いる」との心で伝書を残したのでした。