ワニと読むミステリ( 笑う警官)

読むと、もうばれないと思ってもなかなかそうはいきません。

(マイ・シューヴァル & ペール・ヴァールー著)
 スウェーデンのミステリは初めて読みました。
 マルティン・ベックのシリーズはもう10巻に及ぶそうで、全部読みたいですね。
ただ、スウェーデンの地名や人の名前が覚えにくいです、あまりなじみがないので。
異常な止まり方をしている路線バスから発見されたのは、大量殺人。
ここまで読んで血なまぐさい話になるのかなとワニは恐れたのですが、そうでもなく、ストックホルム殺人課の警部や刑事の軽妙なやりとりで笑いも誘います。それぞれに特技があり、それを生かして捜査をします。
ただ、たくさんの警官がでてくるので、ワニ頭では覚えきれず、ついに最後まで誰がどんな特技があるのか、しっかり把握しきれませんでした。
バスの中の大量の銃殺体の中から、若手刑事ステンストルムの死体が発見されたことから、捜査はステンストルムが関係していた事件がきっかけではないかと思われ、彼の事件を調べますが、ここ最近はこれといった事件は捜査していないことが判明します。が、同居している女性には、事件の解明で忙しいといって土日も出勤していたとか。
いったい何をしていたのか首をひねる同僚たちですが、彼の残した資料からだんだんと昔の迷宮入りになりそうな事件が浮かび上がってきます。
このだんだんとわかってくるところが、早く先を読みたい気にさせて、飽きることがありません。
NWA賞最優秀長編賞を受賞しているだけに、珠玉のできです。

主人公: マルティン・ベック(ストックホルム警察殺人課主任警部)
場所:  スウェーデン、ストックホルメ
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 中

笑う警官 (角川文庫 赤 520-2)
マイ・シューヴァル,ペール・ヴァールー
角川グループパブリッシング

警察ものの好きなかたに
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ワニと読むミステリ(沙蘭の迷路)

読むと、腐敗は限りなし。

(ロバート・ファン・ヒューリック著)
ディー判事たち一行は、蘭坊へ赴任しました。
ここも成長に腐敗が横行し、またもやディー判事とその腹心たちは町を支配する地元の豪族たちと戦うことになります。
密室殺人。
遺産として残された一幅の絵に秘められた謎。
そして今回の目玉は、迷路。
ディー判事たちもこの迷路には悩まされます。

ディー判事のシリーズでは、時系列から言うとあとのほうにあたるのですが、これがロバート・ファン・ヒューリックの処女作だそうです。ゆえに、腹心の部下たち、洪亮、馬栄、喬泰、陶侃は全員揃っています。
作品リストが最後の方にあるので、読書に抜けがないかチェックしましょう。

■あとがきなど
 今回の作品では最初の序文と最後の解説などが実に興味深いので、みなさん飛ばさずにしっかりと読んでください。
   
   序文: 松本清張です。作品の時代背景や作者の中国への思い入れなどを語っています。また作者との歓談の様子、その後作者の亡きあと未亡人宅を訪問した話、子息との再会について簡潔ながら味わいのある序文です。
   
著者あとがき: ロバート・ファン・ヒューリックがどこから着想を得たのか、解説しています。
           中国の古典に精通していますね。
   解説: 江戸川乱歩による解説です。ロバート・ファン・ヒューリックの作品を知ることになったきっかけやその親交について語っています。乱歩の解説なんて、もう見られませんね。貴重です。
   訳者あとがき: 和爾桃子さんによる新訳になったいきさつや、訳の工夫、蘭坊の地の解説、中国の風習など盛りだくさんです。唐代の中央アジアについて簡単な説明や図があるので、大変参考になります。
   特別付録 沙上の一献: 酒とギョウザのこぼれ話。中国の酒について、それぞれの特徴や飲み方などが細かに記されています。それらにまつわるエピソードも一緒に味わってください。 そのあとはギョウザのうんちくです。中国のギョウザだけでなく、ロシアやモンゴル、はては番外編としてイタリアのギョウザまでが語られています。

ワニとしては、この最後の部分がとても面白かったです。
 
主人公: ディー判事(判事)
場所:  中国、蘭坊県
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 小

沙蘭の迷路 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1823)
ロバート・ファン・ヒューリック
早川書房

ディー判事のお話とおまけ
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ワニと読むミステリ(黒い山)

読むと、正体を隠すにはそれ相当の工夫がいります。

(レックス・スタウト著)
 ネロ・ウルフが、外国にでます!
 それだけでショッキングですね。あの巨体を運ばないといけないのですから。
 我が屍を乗り越えよで、ネロ・ウルフに養女がいることが判明しますが、この作品でもその養女カルラがきっかけになります。
 ネロ・ウルフと同郷で親友のニューヨークでレストランを経営していたマルコが路上で何者かによって射殺されます。この射殺事件は、ネロ・ウルフとマルコの故郷であるモンテネグロでの民族抵抗運動に元があるらしく、それに加担しているカルラは、支援要請を断ったネロ・ウルフを激しく非難したあげく、単身モンテネグロにとんでしまいます。そしてネロ・ウルフの元に届いたのはカルラの訃報。
 ネロ・ウルフはアーチーを伴ってモンテネグロに潜入するのですが、いかんせんあの巨体ですから移動がもっとも困難な課題です。それにあの体ではすぐにネロ・ウルフとばれてしまうでしょう。
 それでもウルフは、我が故郷モンテネグロに帰り、2人を殺した犯人を捕まえようと奮闘します。昔よく知った黒い山を登り、犯人を追い詰めていきます。
 若いころは文字通り駆け回っていた黒い山も今のネロ・ウルフには厳しい山です。ネロ・ウルフが巨体に鞭打って必死に山を動き回るのは、なかなか笑えます。
 アーチーも言葉のわからない中で相変わらずかわいい女の子を誘惑しようとしたりして、性はどこへいっても変わりませんね。
 ちょっと異色作ですが、ネロ・ウルフのファンとしては見逃せません。

主人公: ネロ・ウルフ(私立探偵)
場所:  USA、ニューヨーク。
モンテネグロ、モンテネグロの国内
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 小

黒い山 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1828)
レックス・スタウト
早川書房

ネロ・ウルフ旅に出る
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ワニと読むミステリ(人類博物館の死体)

読むと、動機は古くて新しいです。

(ジャック・ミリエズ著)
フランス冒険小説大賞受賞作だそうです。
フランスのパリと韓国のソウルで事件の捜査が行われるというこれまであまり例のない場所の組み合わせの設定でのミステリです。
事件が起こるのはパリ。人類博物館で発掘調査部長のアラン・ギャランに会いたいという女性が現れ、アランが会いにテラスに上ってみると、そこには女性の死体がありました。身元を特定できるようなものは身に着けておらず、ただポケットからはみだしているのは、アランの論文が載った新聞のみ。彼女とこの論文とどういう関係があるのか。
アジア人らしき女性が持っていたのはハングル文字で書かれた住所、ソウルの店のブックマッチ、狐の頭のマーク。
《フランス=ソワール》紙の記者の記者でピエール・ジャスマン警視の友人でもあるマルク・クールは事件のことを知るや、さっそくソウルに飛んで調査を始めます。マルクの訪ねたクリニックでは、クローン技術の最先端をいき、世界中から注目されています。また、サイバーカフェでは、日夜ゲームが進みマルクも参加して被害者の手がかりを掴もうとします。
人類博物館から始まったので、てっきりそっち方面の話に展開するかと思いきや、現在最先端技術のクローンやES細胞作製についての研究がこのミステリの中心をなしています。クローンやES細胞って何?という向きには、とても良い入門書になっています。マルクとともに事件の謎を追いながら、それぞれの技術についての基礎知識と関連を知ることができます。啓蒙書ですね。
著者は、パリ第六大学の産婦人科学教授で、サン=タントワーヌ病院で産婦人科部長を務める現役の医師です。また、「均衡とと人口」という非政府組織(開発途上国の、おもに少女や女性の教育と健康のための有効な援助を推進する団体)の事務局長、また国際婦人科連盟倫理委員会のメンバーでもあります。
確かな知識に裏打ちされたミステリですから、最先端技術についての説明などじっくりとかみしめて理解しましょう。これでクローンについての理解が深まることと思います。

■人類学
 人類博物館から始まったので、ワニは、人類学教授ギデオン・オリヴァーのフランス版かと思ってしまいました。
 こちらは古い骨について学ぶことができます。
 骨の島
 水底の骨
 骨の城
 密林の骨
 原始の骨
 
主人公: マルク・クール(《フランス=ソワール》紙の記者)
場所:  フランス、パリ。韓国、ソウル。
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 中



人類博物館の死体 (ハヤカワ文庫NV)
ジャック ミリエズ
早川書房

最先端技術の入門書でもあります
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ワニと読むミステリ(水底の妖)

読むと、使命か愛情か。

(ロバート・ファン・ヒューリック著)
 ディー判事のシリーズです。初期の作品の新訳です。
 この作品の中で、ディー判事の腹心の部下の一人、陶侃(タオガン)がいかにしてディー判事に従うことになったのかが明かされます。ディー判事シリーズのファンとしては絶対に知っておきたいところです。
 ディー判事は漢源(ハンユアン)の任につき、今日は地元の名士による歓迎の宴が催されています。なにやらこの地に来てから不穏な空気を感じてどのようにそれを解明しようかと気に病んでいるディー判事はなかなかこの宴会を楽しむことができません。誰もかれも何か腹に一物ありそうで。
 その中で、芸妓杏花は、ディー判事に囁きます、このまちでは目下剣呑な陰謀が進行中であると。
会もたけなわとなり注目の美しい芸妓、杏花の息を飲むような美しい舞が始まりました。さすがのディー判事も感じ入ってその舞いを見つめていますが、宴席の面々もそれぞれ杏花にたいする思い入れは様々なようです。
そして舞が終わって杏花の姿が見えないのをいぶかしんで探してみると、水に沈んだ杏花の水死体が発見されます。何故に杏花は殺されねばならなかったのか。
さらに、新婚の夜に死んだ花嫁の死因は何なのか。そして棺桶に納めて寺に置かれていた花嫁の死体はどこへ消えたのか。その代わりに入っていた男の死体は誰なのか。
中国の政庁を揺るがすような陰謀もだんだんと明らかとなり、ディー判事は中央政庁の裁断を仰ぐことになります。 
 なかなかハラハラする展開です。
 冒頭に書かれている出来事も、読み終わってから再読すると胸に深くくるところがあります。

主人公: ディー判事(判事)
場所:  中国、漢源
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 小

水底の妖(ハヤカワ・ポケット・ミステリ1829)
ロバート・ファン・ヒューリック
早川書房

ディー判事ものは見逃せません
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ワニと読むミステリ(探偵学入門)

読むと、ミステリはすぐ身近にあります。

(マイクル・Z・リューイン著)
短篇集です。15篇の。
どれも面白いのですが、とりわけワニが気に入ったのは、
「探偵をやってみたら」: 税金対策で探偵事務所をやってる振りだけしていたのに、依頼がきてしまった
「夜勤」: パウダー警部補のなかなか狡猾な立ち回り方
「まちがい電話」: ありそうで空恐ろしい
「恩人の手」: のら犬ローヴァーにはガッツがあるし知恵もある
「偶然が重なるときには」: どうして陪審員になるのを必死で逃れようとするのか。被告の無実を信じるものにはつらい選択
「少女と老人のおはなし」: これは使えるかもしれない
「ミスター・ハード・マン」: 善玉なんだか悪玉なんだか、判断に迷うけどそんなことどうでもよいのかも
といったところです。
でも、全部おもしろいことにかわりはないです。

主人公: いろいろ
場所:  いろいろ
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 中

現代短篇の名手たち5 探偵学入門 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
マイクル・Z・リューイン
早川書房

ミステリファンなら必須
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ワニと読むミステリ(冬そして夜)

読むと、隠したくなりますが、過去は消えません。

(S・J・ローザン著)
ビルとリディアの私立探偵シリーズです。もう8作目だそうですが、ワニは全部は読んでいません。
今回はビルを中心としたミステリです。
主題は重いので、こころして読みましょう。でも、リディアとビルの軽いおしゃべりが救いです。
ビルは夜中に警察からの電話で起こされます。思いもよらぬことに、ビルの甥、妹ヘレンの息子が、酔っぱらいのポケットを探っているところを保護されたとか。もう何年も会っていない甥が、ニューヨークへ来て警察に保護され、しかもビルの名前をだして助けを求めたというのはどういうことか。
甥のゲイリーを連れ帰ったビルですが、その夜にゲイリーは逃げ出してしまいます。ゲイリーに何があったのか、最新の居所もわからないような関係の妹の連絡先を探しだし、ビルは甥のゲイリーがニューヨークで何をしようとしているのか、知ろうとします。そのビルの前に立ちはだかるのは、小さな町ワレンズタウンのフットボールチームへの狂おしいまでの思い入れ。ゲイリーの行方を捜すうちに、ビルは23年前に起きたレイプ事件が、今回の少女死亡事件に酷似しているのを知り、過去へさかのぼることになります。
ワレンズタウンは、フットボールが支配しています。
試合に勝つためならば、何があってもおかしくない。
選手にとってはコーチは絶対君主的な存在です。学校ではどこでも同じですね、この構図は。
ビルの父親とのかかわりがだんだんと明かされ、現代アメリカの闇の部分にも踏み込んでいきます。
MWA賞を受けただけあって、読者をそらさぬ語り口は徹夜もしてしまいそうです。
しかし23年の長き年月はビルたち真実を求めるものの前に立ちはだかり、なかなかすっきりした解決策は得られません。
どうしたものか。

主人公: ビル・スミス(私立探偵)
場所:  USA、ニューヨークとワレンズタウン
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 小

冬そして夜 (創元推理文庫)
S.J. ローザン
東京創元社

世界は外にもあるといってあげたい
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ワニと読むミステリ(世界名探偵倶楽部)

読むと、象徴するものが解明できればあとは単純。

(パブロ・デ・サンティス著)
ミステリの舞台は、1889年のパリ万博。
 十二人の名探偵倶楽部なるものが、パリ万博開催に合わせて総会を開き、各探偵にまつわる品を展示しようというのです。12人の探偵にはそれぞれユニークな助手がつき、探偵たちが腕を競うなら、助手たちもけん制しあっています。
 探偵たちの出身地は、ブエノスアイレス、パリのポーランド人、フランス人、ポルトガル人、イタリア人などで、日本人も含まれます。サカワ氏とその助手オカノ。日本人は謎めいた禅的存在として描かれていますが、こういったところが日本人に対するステレオタイプなのかもしれません。やたら思索にふける日本人なんて、どこにも存在しませんね。
 ブエノスアイレスの探偵クライグは名探偵倶楽部設立のメンバーですが、体調思わしくなく総会を欠席するかわりに助手のサルバトリオを送り込みます。クレイグの探偵としての象徴である仕込み杖を展示品としてアルザキー探偵に届けるという大役も担っています。
 エッフェル塔は建築途中で、パリではうろんなやからがエッフェル塔反対運動を起こしています。
 そのエッフェル塔の階段から落ちて、探偵の1人が亡くなってしむのです。黒い油にまみれて。
 殺人か、事故か。
 総会に集まった探偵たちの推理合戦が始まります。
 助手たちもいっせいに色めきたって自分たちの仕える探偵の手柄にしようと、どこまで探偵たちの推理が進んでいるか、探るのに一生懸命です。
 そこで今度は女優が殺されて。
 最初の探偵の死と女優の死に関連はあるのか!?
 話は、大変奇妙な具合に語られていきます。本当のことなのか、あるいは著者の想像の中のできごとなのか、ひどくあいまいで、不思議な世界に迷い込んでしまったような気持ちになります。中南米のミステリは珍しいです。
 名探偵たちのうち、誰がこの謎を解くことができるでしょうか。
 
■パブロ・デ・サンティス
 著者は、1963年ブエノスアイレス生まれ。ブエノスアイレス国立大学で文学を学び、新聞記者、脚本家、編集者として活躍し、十数冊の児童書や一般書を書いているそうです。
 プラネタ・カサメリカ賞 2007年第1回受賞作。
 この賞は、他国になかなか紹介されにくい中南米スペイン語圏文学をもっと普及させたいという意図のもとに創設されたそうです。
 
アメリカやヨーロッパのミステリとはまたずいぶんと違った味わいがあります。
  
主人公: ジグムンド・サルバトリオ(靴屋の息子。クライグの助手)
場所:  フランス、パリ
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 小

世界名探偵倶楽部 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
パブロ・デ サンティス
早川書房

名探偵と競いたい
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ワニと読むミステリ( 騙し絵)

読むと、左右対称でも違いはあります。

(マルセル・F・ラントーム著)
 1946年に出版されたミステリです。著者のラントームが捕虜収容所にいる間に書いた3冊のミステリのうちの1冊です。第2次世界大戦のときの話ですから、もう60年以上前になりますね。
 しかし、まったく古さは感じないですね。ミステリとしての質が高いせいでしょうか。
 事件は、1939年5月パリで起こります。
 アリーヌ・プイヤンジュが祖父から相続した253カラットのダイヤモンド、ケープタウンの星。
 アリーヌの結婚の日に、パリのモンソー通りの屋敷で彼女の後見人がダイヤモンドの展示を行うことにしました。
大きすぎるダイヤモンドに世界6カ国の保険会社は6者共同で保険を引き受けることとなり、それぞれの国から警備要員を派遣しました。
 部屋の真ん中で燦然と輝くダイヤモンド。
 部屋は厳重に警備されています。
 披露宴に集まった客たちがダイヤモンドを楽しんで、いざ保管金庫へ運ぼうと展示の箱を開けたところ、なんと、ダイヤモンドは偽物にすり替えられていました。
 隔離されたような部屋で、6人もの警備がいたのに、いったいどうやってダイヤモンドはすり替えられたのでしょう。
 さらにアリーヌの夫の発明品が盗まれたり、別の屋敷から他殺体が見つかったりと、事件はだんだん混迷の度をましてきます。
 いいですね、密室ものは。
 終りのところには読者への挑戦がありますから、みなさんがんばりましょう。
 鍵としては、屋敷の構造ですね。
 詐欺師っぽい新興宗教の導師、ありえないようなものを発明しながら広く資金集めする男、主人にダメ投資を進めてリベートをたんまり稼いでいる秘書、ほとんどしゃべらないし表情もない召使、など、怪しい人物には事欠きません。
 ラントームがたった3冊しかミステリを書いてないなんて、大変残念です。
 残りの2冊も早く刊行してほしいものです。

■その他のフランス・ミステリ
 あまりフランスのミステリは読んでないような気がしていたのですが、実は結構ありました。
 ジャン=フランソワ・パロのニコラ警視のシリーズ、
  鉛を呑まされた男
  ブラン・マントー通りの謎
 フレッド・ヴァルガスのアダムスベルグ警察署長。ニコラと似て、ぼんやりしています。三聖人のシリーズもあります。
  青チョークの男
  論理は右手に
 グルメ誌の覆面調査員パ氏もフランスで活躍しています。
  パンプルムース氏の晩餐会
  パンプルムース氏とホテルの秘密
 ポール・アルテのツイスト博士シリーズ。
  赤髯王の呪い
  狂人の部屋

 そして、パリ警視庁賞をいただいた作品の数々。
  悪魔のヴァイオリン
  第七の女
  ヴェルサイユの影
  カタコンベの復讐者
 
主人公: ボブ・スローマン(有名なアマチュア探偵)
場所:  フランス、パリ
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 小



騙し絵 (創元推理文庫)
マルセル・ラントーム
東京創元社

本格もののミステリ・ファン必携
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ワニと読むミステリ(ジャンピング・ジェニイ)

読むと、誰が何をしたかなんて誰にもわからない。

(アントニイ・バークリー著)
探偵小説黄金期のアントニイ・バークリーの作品です。
ミステリ・ファンならば、見逃せない1冊です。
1933年刊だそうですから、もう70年以上前の作品ですが、刊行の時期はまったく問題になりませんね。
探偵は、ロジャー・シェリンガム。推理は迷走し、その場の思いつきで手を加えるので、事件は本来の形とだんだん変わっていってしまいます。これでも名探偵?
ロンドン近郊にあるカントリー・ハウス“セッジ・パーク”で仮装パーティが行われています。それぞれ世に有名な殺人者か犠牲者に扮すること。ミステリ・ファンならばおなじみの殺人者の仮装が見られます。
パーティの主催者ロナルドの趣向で、屋上平屋根に3人の絞首刑を模した藁人形がぶら下がっています。
女がひとりと男がふたり。
と聞くと不気味な感じがしますが、そこはさらりとした語り口で、むしろ滑稽な感じすらします。
パーティに招かれた客の中には、自己顕示欲が異常に強く、誰彼を傷つけるウソをついてまわり、どうにも鼻もちならない女性がいます。ロジャーは興味を持ってこの女性を見ていますが、実際に話をする機会を得てみると、すぐにそれを後悔するような気分になっています。
パーティもお開きに近い頃、この女性の行方がしれず、みんなで探し回ると、絞首台で人形の代わりにぶらさがっているのが発見されます。
犯人が実行するところは最初から描写され、読者はそれを知っているのですが、この犯人が実に好人物なので、なんとかこの犯行はばれないでくれと、ロジャーの推理が進むにつれて犯人の味方をしたくなり、それだけでドキドキします。
しかし、ロジャーは、まったく別の人物を犯人と思い込み、その推定犯人を守るためにいろいろと工作をするのですが、検視審問でロジャーの予期しない人物が、せっかくロジャーが用意した他の証言を揺るがすような事実を語ったり、ハラハラします。
すっかり犯人はわかっているつもりになって読んでいるのですが、最後にとんでもない結末が待っていますよ。
こんなうれしい裏切りは大歓迎です。

アントニイ・バークリーの復刊、新訳もっと続いてほしいです。

■アパッシュダンス
 元来パリのやくざ連中が始めたふたりで踊る乱暴な踊りのことだそうです。
 たたいたり殴ったりするふりをして、男性が女性を持ち上げたり投げ出したり、女性がもがくのを持ち上げて運んだり、かなり乱暴なダンスのようです。それに対して、女性も反撃するようです。
 すさまじいです。
 
主人公: ロジャー・シェリンガム(小説家。探偵。)
場所:  イギリス、ロンドン近郊
グルメ: なし
動物:  なし
ユーモア: 中

ジャンピング・ジェニイ (創元推理文庫)
アントニイ・バークリー
東京創元社

絶対読むべし
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