Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol218:eLC活用事例研究会【熊本大学の巻】

2007年03月22日 | 大学のeラーニング
前々からお伝えしようと思っていたのですが、まとめる時間がなくて遅
くなってしまいました。すみません。

去る2月23日(金)に日本イーラーニングコンソシアム(eLC)の活用事
例委員会主催で、「eラーニングで学ぶeラーニング」と題して、熊本大
学大学院教授システム学専攻の北村士朗助教授に、同大学院の1年を振
り返って色々とお話をいただきました。

当日の参加者は10人弱でしたが、教育子会社の方の参加が多く、自社の
社員教育の中で本専攻を活用できないかという関心から参加されていた
のが特徴的でした。人数が少なかったことも幸いし、かなり突っ込んだ
質問も飛び出すスリリングな2時間でした。

お話の概要につきましては、後日eLCのサイトから、当日のパワーポイン
ト資料がダウンロードできるようになると思いますので、本メルマガで
は、当日盛り上がったトピックを抜き出してお伝えします。

「ないものは作るしかない」(設立のきっかけ)
「どうしてこの専攻を作ることになったのか?」
「なぜ熊本大学なのか?」
こうした疑問に対し、北村先生は以下のように説明されています。

熊本大学では平成15年度から、文部科学省の「特色ある大学教育支援
プログラム(特色GP)」として「IT環境を用いた自立学習支援システ
ム」という活動を行っていた。その中で、「サポート体制の確立」が
eラーニング推進上の大きな課題であることに気づいた。
IT面のサポートについては総合情報基盤センター等が担える。しかし教
育面でのサポートをする組織やスタッフが当時熊本大学にはなかった。
おそらくインストラクショナルデザイナーと呼ばれる人たちが、それを
担ってくれるはずだが、日本にはその人材がいない。いないのなら自分
達の大学で育成しよう!というのが本専攻設立のきっかけとなった。

筆者はこの話を聞いて、サッポロビールのミュージカルCM
「ないものは作るしかない」を思い出しました。
http://www.sapporobeer.jp/naimono/
話は全然飛びますが、このCMに出演している人達って全員サッポロビー
ルの社員の方だったって知ってました?

教授システム学の4つのIの内、IMって何を教えるの?
熊本大学では「教授システム学」を「高品質なeラーニングによる教授
システムを、開発する上で必要不可欠な関連領域「4つのI」を体系化
したもの」と定義しています。
ID=(Instructional Design)インストラクショナル・デザイン
IT=(Information Technology)情報通信技術
IP=(Intellectual Property)知的財産権
IM=(Instructional Management)マネジメント

上の3つは分かりやすいのですが、IMとは具体的には何を教えるのか?

単なる技術屋でなくマネジメントを心得た人を育てたい。それがIMにこ
められた思想である。
サスティナブルなeラーニングを目指す上で、利益とコストの話は欠かせ
ない。よってその中には「お金のマネジメント」も含まれる。また、プ
ロジェクトマネジメント、マーケティング等、様々な視点から「教育」
を捉える視座を養うのがIMのねらうところである。

といった趣旨の説明をいただきました。(本当はもっと軽い口調でしたが)

eラーニングの専門家なの?教育の専門家なの?
ISD(インストラクショナルシステムデザイン)を標榜するのであれば、
eラーニングだけができる専門家を育てても役には立たない。なので専攻
のカリキュラムはeラーニングという学習手段に限定したIDerを育てるの
でなく、トータルな教育全体が設計できる専門家を育てることが大前提。
しかし、あまり広げてしまうと、教育学や教育社会学や認知心理学等他
の専攻との差別化ができなくなってしまう。よってeラーニングを看板と
して掲げている。なお、「院生が出してきた修士論文のテーマには全て
「eラーニング」が絡んでいる」とのことです。

実際、筆者が担当している「教育ビジネス経営論」のユニットでは、
eラーニングに特化した内容はせいぜい3割ぐらいでした。教える側とし
てもeラーニングはあまり意識せず、たまたま学習の流れの中でeラーニ
ングが出てくるという感じでコンテンツを作成しました。

紺屋の白袴回避モデル
IDを教える専攻で、IDに基づいてプログラムを設計しなかったら意味が
ない。そうした観点から、本専攻では相当手間隙をかけてプログラムを
開発している。
カリキュラム間の関係(前提科目の設置)や、評価基準の明確化、科目
共通のシラバスガイドラインの設置、教育の質保証のための取り組み等
IDの知見にもとづくプログラム開発でのご苦労について説明いただきま
した。

といったところが主なトピックでした。その他詳細につきましては、後
日、日本eラーニングコンソーシアムにUPされる予定の当日資料および下
記のWebサイト(熊本大学大学院教授システム学専攻)をご覧ください。
http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/index.html

1年を振り返り
筆者も、非常勤講師という形で本専攻にかかわり、やっと1年が終わり
ました。大学職員をやりながら、講師を務め、一方で学生もやっている
という三足の草鞋状態は、なかなかハードなものがありましたが、本専
攻の立ち上げの一年目に部分的とはいえ関わらせていただいたのは貴重
な体験となりました。
来年は20人の新大学院生が入学すると聞いております。2006年の経験を
踏まえ、2007年はよりよい授業に改善しなくてはと心に誓うのでありま
した。

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