Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

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vol.286:そろそろ授業の話しをしましょう---その1「チーム学習ゼミ」

2009年01月19日 | 大学のeラーニング
大学の教員になってはや10ヵ月。後期の授業もあとわずかとなってきました。前期は慣れないせいもあって、時間が流れがとても遅く感じていたのですが、後期に入り多少落ち着いてくると時間があっという間に過ぎ去るようになってきました。

今まで本メルマガでは、筆者がどんな授業をやっているのかをお伝えしてきませんでしたが、やっと落ち着いてきたので、自分の振り返りの意味も込めてまとめてみようと思います。今回は1年生を担当に実施した「チーム学習ゼミ」についてお伝えします。

概要
このゼミは1年生の必修科目で、15人の教員で担当しています。一クラスの履修者数は26~27人、履修者は4~5人のチームを作り、前半と後半で2つのテーマについて調査・研究を行い、その結果を発表します。

学習目標
ゼミの名称の通り、グループによる協調作業能力の習得を目指しています。グループにおける協調作業を円滑に進めるために必要と思われる、コミュニケーション能力やスケジューリング能力を実際の作業を通じて鍛えるとともに、論理的思考力、レポートの書き方、スライドを効率よく使用したプレゼンテーションの技法を身につけることを目標としています。

進め方の特徴
このゼミでは、受講生は授業時間以外にもグループで時間を調整してミーティングを行ったり、資料収集をしたりする必要があります。そうした授業外の活動を支援し、活動を「見える化」するため、GWEと呼ばれる本学内部で開発した協調学習支援Webツールを活用しています。

チーム全員参加の実現
このゼミ最大のポイントは「チーム全員参加をいかに実現するか」という点です。欠席は問題外ですが、授業に出席していてもチームのディスカッションや成果物作成に積極的に参加しないいわゆる「フリーライダー」が出現します。そうしたフリーライダーを減らし、チーム一丸となって課題に取り組ませることが学習目標を達成する上で重要です。

本年度の授業では
「協同活動のフレームワークの提示」
「全員が興味を持って参画できるテーマ設定」
「チーム学習スキルの提示」
の3つを心がけることで「チーム全員参加」を目指しました。

協同活動のフレームワーク
「協同活動のフレームワークの提示」とは活動スケジュールや検討結果をまとめる枠組みを学習者に提示し「いつまでに、何をやるのか」を明確にしてあげることです。社会人であれば、そうした事を自分達で考える事こそがチーム活動の基本なのですが、大学1年生の彼らにはまだ荷が重すぎると筆者は判断しました。

まずは「粘土からフリーハンドで彫刻を作らせる」のでなく「設計図と部品がそろっているプラモデルを組み立てさせる」ようなところから始めました。自分達で設計図を作り、部品を集められるようになるのは2年3年になってからでも遅くありません。初年次クリアすべきは決められたフレームに沿って充実した協同活動ができる事と筆者は考えています。

全員が興味を持って参画できるテーマ設定
次の「全員が興味を持って参画できるテーマ設定」これが最も苦慮しました。前半のテーマについては下記6つのテーマを提示し、そこから各班が選択するという方法をとりました。

・たばこ1箱1,000円に値上げ?
・成人が18歳になる?
・消費税率10%引き上げ?
・産婦人科医が激減している?
・日本では25%の食料が廃棄されている?
・20代の若者の約半分が国民年金未納?

選択したテーマは、
「たばこ」2チーム、
「成人」1チーム、
「食料廃棄」2チーム、
「年金」が1チームでした。

まあ、なんとかレポートをまとめ発表までこぎ着けたのですが、その発表内容は「インターネット上で意見を探してきてそれをまとめただけ」「レポートやパワポ作成がどうしても特定の人間に依存してしまう」という課題が浮き彫りになってきました。それでも、今まで知らなかったこと、考えてみなかったテーマに触れることで、彼らにとっては、なんらかの気づきがあったようです。

そこで後半は、「産能大版人生ゲーム」という変わったテーマに着手させました。来年の新入生に対し、産業能率大学での4年間の学生生活を教えるために実施するという設定でゲームを検討・開発させました。このテーマならインターネット上に答えはありませんし、Word文書を書いたりパワポを作るのが得意な人に仕事が集中することはありません。

まず上級生に「楽しかった事」「つらかった事」をインタビューさせることから開始しました。それらの情報を元にマスの文章を作り、スタート(入学)からゴール(卒業)までの間にSP(産能ポイント)をいかに多く貯めるかで競わせるゲームを製作させました。例えば「必修の授業の単位を落とす」といったマスであればSPがマイナスになるといった具合でゲームは進みます。

発表会(というか新春ゲーム大会)が1月5日の授業であったため、年末の休みにわざわざ大学に来て人生ゲームを作成するチームもありました。実際に完成した「産能大人生ゲーム」はどれも予想を超えるすばらしい完成度でした。

下記は優勝チームの作品ですが紙幣が笑っちゃうぐらいに完成度高し


次は準優勝チーム。こちらは解説書つき。しかも立体感のある盤面がリアル

またゲームを開発するプロセスで、学生達は「大学4年間でこれからどんなイベントが待っているのか」「大学生活の中で大切にしなくてはならないのは何なのか」「4年間は意外と早く過ぎていく」といったことに対して気づくことができたようで、単なる「遊び」に終わらない活動となりました。

チーム学習スキルの提示
これは前半のテーマの時に行ったのですが、基本的なグループワークのコツのようなものを実習を交えて伝授しました。例えばホワイトボードを活用したグループ討議の進め方、グループワークする時の机の並べ方、積極的傾聴、発問のスキル、などです。このあたりは社会人教育で20年飯を食ってきたので、まあなんとかなりました。

それと授業外の活動については前述のGWEというツールを活用して情報の共有を図っていたのですが、残念ながら私のクラスではあまりうまく活用できたチームはありませんでした。せいぜい発表用のパワポファイルを共有するぐらいに留まってしまったことが、eラーニングを生業としてきた筆者としては悔しい点ではありました。しかし、対面のディスカッションがきちんとできる事がコンピューター上での協調学習を推進する上で大前提になると言うことも今回改めて確認することができました。

反省
一番の反省点は、成果発表会後の振り返り時間がなく、中途半端な終わり方になってしまったことです。コルブの経験学習理論を持ち出すまでもなく、やったことを振り返り、そこから教訓を導き出すところまでやって実習型の授業は完了と考えています。そこで最終回の授業終了後、振り返りレポートを全員に書かせ、その中で活動の振り返りと教訓をまとめるようにはしています。できればそうした個人の意見をグループや教室全体で共有化したかったなあと反省しております。

今後の展開(企業内教育での活用、コンテストの実施)
この「人生ゲームづくり」は企業内教育でも応用できそうだと考えています。例えば新入社員のフォロー研修あたりで、入社から退職までの「○○株式会社版人生ゲーム」を作成させるのはどうでしょうか?

また、個人的には、この「大学版人生ゲーム」づくりを自大学や他大学でも広げ、ゼミ対抗、あるいは大学対抗の「◎◎版人生ゲームコンテスト」みたいなことをやってみたいと考えています。本記事を読んで授業の詳細について興味をお持ちになった他大学の教員の方、企業内教育担当の方、ご連絡いただければ幸いです。

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