Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

VOL222:e-learning等のITを活用した教育に関する調査報告書

2007年04月21日 | 大学のeラーニング
メディア教育開発センターで、2005年度より実施している上記調査の2006年
度版報告書が公開されました。
http://www.nime.ac.jp/reports/001/
NIMEのTOPページから上記報告書のダウンロードサイトに辿りつくのは、至
難の業なので、資料ページに直リンクを張らせていただきました。

>調査の概要
この調査は、大学をはじめとした高等教育機関でのITを活用した教育の実態
を調査しています。1,276の全国高等教育機関に調査票を送付し回答があっ
たのは915機関。7割を超える回収率だったそうです。しかも国立大学87機関
については100%の回収率ということで、本調査への関心の高さがうかがえ
ます。
各質問項目に関して、機関の種別(大学、短大、高専)、設置者別(国立、
公立、私立)、規模別(5学部以上、2~4学部、単科)でクロス集計してい
ます。

>調査の読み方「IT活用教育」と「eラーニング」のカンケイ
この調査を読む上で、唯一分かりにくい点は「IT活用教育」と「eラーニン
グ」という2つの言葉を用いている点です。同調査の附録にある「本調査で
使用する用語解説」によると、

【IT活用教育】
コンピュータやインターネット、モバイル端末等の情報技術〔IT (Informat
ion technology)〕を用いた教育を指す。以下に示す「IT 活用による授業改
善」と、「e ラーニング」「インターネット等を用いた遠隔教育」を含む。
【eラーニング】
コンピュータやインターネット、モバイル端末等の情報技術〔IT (Informat
ion technology)〕を用いて、学習者が主体的に学習できる環境による学習
形態をいう。教員がリアルタイムで指導する場合と、学習者がオンデマンド
的に学習できる場合がある。教授者と学習者の距離は問わない。

ということで、「eラーニング」は「IT活用教育」の部分集合と理解でき
ます。分からないのは、「IT活用教育」から「eラーニング」を引いた残
りの部分「eラーニングを用いないIT活用教育」に含まれるのはどの範囲
までか?という事です。たとえば、授業の中でパワーポイントを用いたプレ
ゼンを行うことも「IT活用教育」入っているような気がするものの、
【問22】「IT 活用教育にあたって、導入しているユーザー認証のシス
テムは次のうちどれですか。」
といった設問を見ると、もしかしたら違うのかなあなどとも思ってしまいます。
「どこまでをeラーニングと呼ぶか」というの議論は活用シーンや時代に
よって変化し、厳格な定義を作るのが難しい一面があるため、仕方がないと
言えばそうなんですが、ちょっと気にある点ではあります。

>IT活用教育をどのぐらい活用しているのか?
IT活用教育の導入状況については、国立大学で96.6%、公立大学で68.6%、
私立大学で83.8%で、全体では74.6%の機関で導入されているという結果が
出ています。昨年の調査(http://www.nime.ac.jp/reports/001/2005/)で
は、国立大学で76.0%、公立大学で27.0%、私立大学で48%で、全体では50.
96%の機関が導入していると回答しているため、この一年間で飛躍的に導入
が進んだと言えそうです。ただ、あまりにも伸び率が高いので、回答者側が
IT活用教育として認識する範囲自体が昨年より広がってしまった可能性も考
えられます。

>IT活用教育実施にあたっての課題
IT活用教育の実施にあたっての課題としては、
「システムやコンテンツを作成、維持するための人員が不足」(61.2%)
「教員のIT活用教育に関するスキルが不十分」(54.5%)
「eラーニング講義のシステム開発に関するノウハウが不十分」(43.8%)
といずれも人員やスキルに関する不足が課題となっているようです。熊本方
面の先生が見たら喜びそうなデータですね。
それに関連して、インストラクショナル・デザイン(ID)の導入状況に関し
て見てみると、「IDを採り入れていない」と回答した機関が69.8%に達して
いました。この数字を未導入機関が多いとみるか?それとも、既に3割もの
機関がIDを導入していると見るかは微妙なところです。(個人的には後者で
すが)

>eラーニングの導入状況
やっとメインのeラーニングの導入状況についてです。
高等教育機関全体のeラーニングの実施率は46.1%。大学設置者別では国立
大学で86.2%、公立大学で37.3%、私立大学で52.6%だったそうです。
国立が高く私立が低いという傾向は海の向こうのアメリカでも同じで、SLOA
N Consortiumの『Making the Grade: Online Education in the United Sta
tes, 2006』という調査によると、アメリカの公立大学でオンラインプログ
ラムやコースを提供している率は9割を超えているのに対し、私立では46%
にとどまっています。
http://www.sloan-c.org/publications/survey/survey06.asp
日本はアメリカに5年遅れているといわれていましたが、国立の導入率だけ
を見るとほぼ追いついたようです。

また単位認定を行う講座があるかどうかという問いに対しては、昨年16.5%
でしたが、今年は20.3%と上昇しています。そして今後は「すべての(e
ラーニング)授業科目で単位認定を行っていく」と回答した機関が35.5%に
達していることなどから、慎重な姿勢をとる機関が多いものの、今後その率
も徐々に増えていくことが予想されます。

>利用しているLMS
ちょっとドキッとしますが、製品名の実名入りでLMSの利用率の結果が公表
されています。結果については直接報告書を見てのお楽しみということで。

>全体の感想
今回の調査で印象に残ったのは、国立大学でのeラーニングおよびIT活用教
育の導入率の高さです。全体の9割を超える機関で活用している結果は、普
通の教育ツールとして市民権を得たという域に達したのではないでしょう
か?このようにeラーニングが当たり前の環境で学んできた大学生が企業に
入社してくる訳ですから、企業内教育でももっと普通に利用するようになら
ないと・・・と感じた次第です。

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