Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.319:CIEC 2009PC conference参加記(その2)

2009年09月14日 | セミナー学会研究会見聞録
今週は前週に引き続き、CIEC 2009PC conferenceについて、2日目に開催された分科会と3日目のセミナーの模様をお伝えしたいと思います。なお今回の発表の論文についてはすべてWeb上で公開されております。詳細につきましてはURLのリンク先からPDFファイルをダウンロードしご参照願います。

アナログとデジタルを融合したeラーニング授業の展開 奥田雅信 大手前大学
https://www.gakkai-center.jp/pcc/2009/papers/pdf/143.pdf

次週のメルマガでは、8月19~21日に開催された教育システム情報学会全国大会の参加記についてお伝えしようと思っているのですが、そちらでも大手前大学の方が多数eラーニングの取り組みについて発表されていました。以前本メルマガ「vol.312:次世代大学教育研究会at大手前大学」でも取り上げましたが、今後大手前大学はeラーニング取組の新たな中心地になるかもしれませんね。
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/a4146b73c36ba90d7ad455ef38a2dc20

さて、発表では英語教育でのeラーニング教材活用についてお話しいただきました。ポイントは「書き取り」学習のための「学習記録シート」を開発した点にあります。このシートには、学習活動の自己評価チェックリスト(Can-Do リスト)、eラーニングでの成績表、ユニットごとの学習の振り返りを記入させる欄等が用意されています。

成績表などは、LMS側ですべて記録が残っているのだから、わざわざ紙に転記させる必要がないのではと思われるかもしれませんが、学習者自らが手を動かして「書く」ことで肉体的にも視覚的にも記憶が残り、学習そのものにじっくり取り組むことができると発表の中で述べられていました。

【コメント】
最近「eポートフォリオ」が大学eラーニングの中で流行の兆しを見せています。しかし、学習ポートフォリオで何を目指すのかを実践の中で熟慮していくと、こうした「アナログ」な仕組みが欠かせないのではないかと、筆者も日々の授業運営から考えていました。学生に書かせ、それに対して教員やTAが赤字でコメントを入れる、こうした「赤ペン先生」のハイタッチな部分が学習に対する動機付けに寄与する部分が大きいのですよね。

SNSを活用した産学連携授業の実践と成果 筒井洋一 京都精華大学
https://www.gakkai-center.jp/pcc/2009/papers/pdf/110.pdf

京都精華大学で実施している産学連携授業についての報告です。授業のテーマは「クリエイティブの可能性」。大学コンソーシアム京都のコーディネート科目のため、京都の21大学の学生がこの授業に参加しているそうです。京都コンソーシアムの提供科目の中で広告関係の授業は少なく、大人気な授業となっています。

授業は月1度程度、3コマ連続授業で計5回実施しているそうです。運営は今回発表された筒井先生と、現在最先端の広告やクリエイティブな仕事にかかわっている石川先生の2人で行い、毎回違った分野のゲスト講師(昨年度は、マガジンハウス社元編集長、フジテレビ映像プロデューサー、前電通アートディレクター、カフェ・空間プロデューサーなどなど)が参加。ワークショップ的な展開も取り入れているとのことです。

そして、月1回の授業と授業の合間を埋めるのがSNSの存在です。この授業専用のSNSサイトを構築し、履修者は「実名」で参加し、企業やクライアントを想定した実践的な意見交換を行っているそうです。偉いなあと思ったのが、本授業を担当している石川先生が多忙な仕事の合間をぬって、学生すべての発言やプロフィールを点検し、コメントを返しているということです。平均すると1日60回はコメントや日記を書いているというそうですから驚異的です。

【コメント】
筆者も含め、授業やゼミで活用しようと思い立ち上げたSNSが活性しないと悩んでいる教員が多いのではないかと考えます。しかし教員ががんばって書き込みを続けていくことがまずは大前提なのだと認識しました。

セントレア活性化のための学生プロジェクト 渡邊みなみ 金城学院大学
https://www.gakkai-center.jp/pcc/2009/papers/pdf/25.pdf
この発表の日、カジュアルな夏服に身を包んだ女子大生の姿を分科会の会場で見かけるようになりました。通常夏の学会というと、ノーネクタイのYシャツにスラックス(あるいはチノパン)姿のおじさんが大半を占めるので不思議だと思っていたら、実はこの発表の関係者が大挙して大会に参加していたためのようです。なんと10人近くの現役女子大生による合同発表。学会版AKB48状態というか、とにかく新鮮でした。

発表内容は、名古屋のセントレア空港活性化のため、金城学院の中田ゼミの学生さん達が空港内の店舗の紹介動画を作成し、YouTube内の「金城ポッドウォーク」というチャネルで公開しているというものです。例えば下記は空港内にある「柿安柿次郎」というお店の紹介です。
http://www.youtube.com/user/podwalkkinjo#play/uploads/5/U93x8w89vfs

学生さんがすべて企画・アポを取り・撮影・編集・公開までを行っており、なんとセントレア空港からは一銭もいただかないで自主的に取り組んでいるとのことです。下記はセントレア活性化プロジェクトのWebサイトです。
http://sites.google.com/site/kinjoinfocentrair/Home

【コメント】
発表内容のみならず、CIECという学会が多くの人に開かれているのだということを一番印象づける発表でした。またYouTubeやBlogger.com等のWeb上で無料で活用できるサイトを授業の中で有効に活用されているのがとても参考になりました。

eラーニング関連の学会の場合、そういったシステムを開発することをテーマとした発表が多いのですが、昨今我々が授業で活用しようと思うシステムは、既にWeb上で無償で提供されているケースが多いのです(いわゆるクラウドコンピューティング)。とすると新たにシステム開発する必要が本当にあるのだろうかと筆者は前々から疑問を感じており、今回金城学院の学生さんの発表を聴き、うまく活用すれば金をかけずに色々なことが出来るんだと思った次第です。

授業内容改善に結びつくクリッカーの活用 青野透 金沢大学
https://www.gakkai-center.jp/pcc/2009/papers/pdf/43.pdf

今回の学会では、シンポジウム等を開催する大講義室にクリッカーが置かれていたこともあり、何かと注目を集めていたのがクリッカーです。本発表では金沢大学でのクリッカーの活用した授業について学生の感想を中心に報告していただきました。
具体的な感想につきましては、上記URLをクリックして大会の論文集をご覧いただきたいと思いますが、総じて学生の授業参加意識を高めるものになっているようです。

青野先生はクリッカーで出来る質問を
・知識を問う
・理解度を問う
・賛否を問う
の3つに分類されていました。中でも「理解度を問う」については、匿名で回答するので、自分の理解度を他の学生の理解度と比較して知ることが可能となり、それが大きな刺激になっているそうです。

同時に教員がその場で教室全体の理解度を把握できることを重要な点として指摘しています。これにより即時の授業改善の可能性が広がるからです。例えば事前にいくつかのPowerPointスライドを用意し、クリッカーによる理解度に応じて、利用するスライドを変える等、従来「静的」であった授業をより「動的」に構成することが可能となるからです。

しかし青野先生は「クリッカーは教師力の程度を自分自身に(容赦なく)突きつけてくる」と述べています。予想外の回答結果にどう立ち向かうのか?フレキシブルな授業を実現するため、今までより多くの教材を用意する手間に耐えられるのか?等新たな課題に教員が立ち向かう必要があるからです。

【コメント】
実は本学でもクリッカーがかなり前から導入されています。
株式会社ICブレインズ「ソクラテック導入事例」
http://www.icbrains.com/example/
しかし、最近はあまり活用しなくなってしまっています。一つにはこれを活用する授業を準備する手間の問題があるのではないかと考えています。以前は教室据え置きタイプのものしかなかったのですが、最近様々な教室に移動して使えるタイプのものを用意していると聞いたので、後期の授業では筆者自身どこかの授業で活用してみたいと考えています。

学生の情報教育に対する意識はなぜ変化したのか? 司会 辰島裕美 北陸学院大学
http://gakkai.univcoop.or.jp/pcc/2009/project.html#a9

3日目最後のセミナーです。CIECでは高校で実施されている教科「情報」の履修状況について2006年から調査を行っています。調査は全国の大学1年生向けに行われているのですが、さすがに最近は教科「情報」の未履修といった問題は少なくなってきたようです。その代わり今回の調査では、大学新入生が大学の情報に関する各分野に対して「学びたい」と考える学生が極端に減少しているという分析結果が得られたそうです。この分析結果についてフロアと一緒になって考察していくというセミナーでした。

会場にはクリッカーが設置され、その場でのアンケートを適宜織り交ぜながら活発なディスカッションが行われました。実は当日司会を担当した辰島先生は、私の桜美林大学院のゼミ仲間でして「前日は緊張して飲んでも全然酔わなかった」と後で感想をもらしていました。

しかし、出口の見えにくいテーマの課題に対し、普段使い慣れないクリッカーを用いながら、大人数の会場を仕切るという大役を上手にこなしており大変素晴らしい司会ぶりでした。

【コメント】
筆者自身としては、以前本メルマガでも書いたとおり「今年の1年生は真面目」と思っていたので、「情報関連の科目を学ぶ意欲が低下している」という今回の調査結果はやや意外でした(「vol.298:今年の新入生の傾向と対策」参照のこと)。
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/8496e0c169aef494ed3dcd27f033db80

そこで、その事を早速クリッカーを用いて会場でアンケートしてもらったの
ですが、「真面目」かもしれないが「意欲」はどうか?と考える意見が多く、
なかなか考えさせられました。

授業評価アンケートの信憑性 産業能率大学 古賀暁彦
https://www.gakkai-center.jp/pcc/2009/papers/pdf/6.pdf

おまけに筆者の発表を少しだけ紹介しておきます。内容は授業評価アンケートの結果は信じられるのか?という事に対し、従来の先行研究の結果をまとめ、自分の授業の中で携帯電話を用いて授業評価アンケートのアンケートを実施した結果を発表しました。会場では東北大学の学生さんから

「以前、声の小さい先生の授業評価で『講義の声が小さい』をチェックしました。他の学生も同様にチェックしていました。しかし翌年同じ授業を履修した後輩に聞いてみると、声は小さいままでした。大学では授業評価の結果をどう改善に結びつけているのですか」

という鋭い質問をいただきました。もっと学生視点でを考えていかないといけないと気づき、多様な立場の人が参加するCIECという学会に参加でき大変有益な3日間を過ごす事ができました。

まとめ
CIECの大会が開催されたのが8月9~11日だったので、既に一か月が経ってしまいました。もっと迅速に皆様に情報提供できれば良かったのですが、申し訳ございませんでした。なにはともあれ、最近参加した学会の中では最もエキサイティングで実り多い場であったことを再度強調しておきたいと思います。

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2 コメント

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男性のノーネクタイは、非常識で見苦しい (男性のノーネクタイは、失礼でカッコ悪い)
2009-09-14 10:02:56
そもそもネクタイと上着が洋服でワイシャツって下着だよ。西洋から来たスーツは暑くともきちんと着る文化なんだからクールビズなんて発展途上国みたいで洋服ではないよ。せいぜい和服・人民服・民族衣装などの部類だよ。
ノーネクタイはみっともないし、失礼で見苦しいから見たくないからやめていただけませんか?失礼の以前の問題としてご自分が恥ずかしい格好であることを忘れないでくださいね。
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興味深い発表ばかりです (lamb_labo)
2009-09-15 01:22:07
参加レポートありがとうございます。発表内容はもちろん、その場に流れる空気感のようなものがとってもよく分かりました。
次回は日程が合えばぜひ行きたいと思う内容の学会だなあと思いました。

>授業評価
実は私、授業評価結果を教員にフィードバックする(まあ、結果の用紙を送るだけといえばそうなんですが;;)係(委員会の中では一番下っ端!)でして。。。ちょうど今日、前期実施分を大量に教員宛に発送したところです。
年に2回この作業をしますが、全体的な結果を見つつ、また、結構な肉体労働(発送作業)をしつつ、これを実施する意味・意義などについて考えていました。

大きな声ではいえませんが、「FDのための授業調査」「とりあえずやったという事実が大切」というものになってしまっているのが現実かも。

真面目な学生からは
「書いた結果をどう改善に結びつけているのか。変わらない先生も多い」と言われ。
一般企業の方からは
「学生からの評価を人事考課にどう結び付けているの?」と言われ。

本音で説明しようとすると、言葉に窮しますね。
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