Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.411:モチベーション3.0

2011年06月26日 | eラーニングに関係ないかもしれない1冊
モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか
ダニエル・ピンク
講談社



ここで頑張らねば日本の復興はないという「ガンバロウ日本」的なムードが
ある一方、表には出せないものの、

「どうも最近やる気がしないんだよなあ~」

と心の中で思っている人いませんか?

東日本大震災の後、生活のリズムを崩してしまったからか
あるいは自分がやってきた仕事に疑念を持ってしまったからか

理由は色々と考えられますが、「大震災プチ後遺症」のようなものが、我々
の心の中に少しずつこびり付いていて、それらが微妙に日々のやる気に影響
しているのではないかとコガは考えています。

今回は、そんなやる気に関して書かれた本『モチベーション3.0』を紹介し
ます。

先日ある方に聞いたのですが、モチベーションという言葉はあまり米国では
使わないそうで、その代わりに、本書の原題であるDriveやEmpowerment、あ
るいはIgnite(車のイグニッションと同じ意味)という言葉が用いられてい
るそうです。でも『モチベーション3.0』という邦訳もなかなかイケている
と思いませんか?

本書では、モチベーションの源となる仕組みをパソコンのOS(オペレーショ
ンシステム)に例えて、モチベーション1.0、モチベーション2.0、モチベー
ション3.0の3つの段階で説明しています。

モチベーション1.0
人類の歴史がまだ浅い頃、食料を集めるためにサバンナを歩き回ったり、生
理的動因が人間のほとんどの行動を決めていた時のOSのことです。

モチベーション2.0
人間が集団で行動するようになり、他人の夕食をくすねたり、人妻を奪った
りするという生理的欲求を時には抑制する必要がでてきたために登場したOS
です。一言でいえば、良いことをすれば報酬があり、悪いことをすれば罰が
与えられるという外発的動機付けをベースとした仕組みのことです。

モチベーション3.0
外からの強制や報酬によって動くのでなく、自分の内側からの欲求をエネル
ギーの源とするOSのことです。

さてここまで書くと、1.0はさておいて、2.0と3.0の違いというのは、昔か
ら心理学の世界で言われている「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の
違いと一緒ではないかと思われる方も多いと思います。また、マクレガーの
X理論とY理論や、マズローの欲求5段階説ともなんとなく似ています。もし
かしたら、ICTの世界でよく見られる中身は変わらないのに言葉を換えて流
行らそうとしている『アレ』と一緒なのかも?例えばネットワーク・コンピ
ューティングがASPになって、その後SaaSと呼ばれて、今ではクラウドコン
ピューティングと呼ばれているような『アレ』のことです。

ある意味そう捉えられなくもありませんが、このピンクの著書は、以下の3
点において単なる言葉の言い換えの域を超えています。それは

1)2.0がなぜだめなのかを、分かりやすく、しかも今日的な文脈(業績主
義人事制度が破綻しつつある現在)の中で説明している。

2)モチベーション3.0の要素を「自律性」「マスタリー(熟達)」「目
的」という3つの軸で分かりやすく説明している。

3)実行に移すためのツールを紹介している。

という点です。

そして、なによりもピンクの筆力+大前氏の翻訳力こそが、この本の最大の
魅力となっています。彼の言葉の巧みさと引用や例示の絶妙さには本当に驚
かされます。

コガが気に入ったの例示の一つに「10ドルを渡すゲーム」というのがあるの
で、ちょっと紹介します。ゲームの条件は以下のようになっています。

・まずAさんがあなたに「10ドル差し上げます」と提案してきます。
・Aさんから10ドル貰うには条件があります。
・10ドルをあなたと一緒にいるBさんと分けなくてはいけないと言う条件です。
・分配方法は自由です。5ドルずつでも、全部あなたが貰っても、その逆でも構いません。
・Bさんとあなたの間で分配の交渉が成立すれば、10ドルが貰えます。
・しかしBさんがあなたの提案する金額を拒否したら10ドルは貰えません。

さて、ここからがポイントです。
Bさんに6ドル渡したらどうでしょう?
ほぼ確実にBさんは6ドルを貰い、交渉成立です。

ではBさんに2ドル渡すとしたらどうでしょう?





世界中でこの実験をしたところ、2ドル以下の場合、Bさんとの交渉は大抵決
裂し、10ドルは貰えないという実験結果が出たそうです。この結果はよく考
えるとあまり道理に合いません。仮にAさんから10ドル貰う部分を隠してBさ
んに、「2ドルあげるけど、貰ってくれる?」としたら、懐疑心を抜きにす
ればBさんは貰う筈だからです。

しかし、あなたが8ドル貰う状況に対し、2ドルしか貰えないBさんは、苛立
たしい思いを感じ、それが合理的な判断にブレを生じさせているのです。

この実験結果は「人とは不合理なものである」という事を物語っています。
本書はそこから、合理的・機械的に富を最大化するモチベーション2.0の欠
陥を示します。他にも、ある実験で被験者に報酬を与えたことにより、逆
に成果が下がった事例なども紹介し、モチベーション2.0の限界を説いてい
ます。

ピンクは
「(報酬は)興味深い仕事を、決まり切った退屈な仕事に変えてしまう。遊
びを仕事に変えてしまう場合もある」と述べ、そして『トムソーヤの冒険』
の著者として有名なマーク・トウェインの言葉を紹介します。

「"仕事"とは、"しなくてはいけない"からすることで、"遊び"とは、しなく
てもいいのにすることである」

どうも震災後の我々の生活の中には、この"遊び"の視点が欠落してしまい、
「どうも最近やる気がしないんだよなあ~」モードに陥ってしまっているの
ではないかとコガは考えております。

ペンキ塗りという仕事を「遊び」に変えてしまったトム・ソーヤのように、
我々も今やっている仕事を別の視点から見つめ直す必要があるのかもしれま
せん(文責コガ)。

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