Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.416:授業設計マニュアル

2011年08月15日 | eラーニングに関係ないかもしれない1冊
授業設計マニュアル―教師のためのインストラクショナルデザイン
稲垣 忠、鈴木克明 編著
北大路書房


私(シバタ)が産業医科大学で担当している「授業設計」という講義の最大
のプレッシャーは、当のその講義がイケてるかどうか。つまり、ID
(Instructional Design)の3大柱である「効果・効率・魅力」的であるか、
ということです。それは、カラオケ教室の先生が音痴であってはシャレにな
らないことと通じます。

卒後教育部門にいる関係上、受講者の多くは学部学生ではなく、自主的参加
の社会人のため、私の「教員」というポジションパワーなど効きません。
「センセー、そんな偉そう言うても、お前のこの授業はどないやねん」
と誰かが怒鳴り出しはしないかという妄想に常におののきながら教壇に立っ
ています。その真剣さももっともで、皆さん、例えば「来週、院内で糖尿病
講座やらねばならない」「来月、嘱託先の企業でメタボ対策教室開くことに
なっている」という現実的な課題をお持ちですから、単位欲しさの学部学生
とはいささか勝手が違います。しかも「大学教員発」ということで、実施技
術だけでなく、歴史的・学問的背景もセットで紹介することも明に暗に求め
られます。

それら技術と理論の両方を一気に紹介しているのが、今回の1冊。著者は我
らが親分、熊大の鈴木克明先生ら9人の先生方です。類書「教材設計マニュ
アル」がIDを使って独学教材を作るための指南書であったのに対し、こち
らは文字通り、クラスルームの授業の指南書です。これまで世のIDに関す
る書籍はeラーニングを中心にした独学教材ものが多くを占めていたため、
関係者にとっては垂涎の1冊といえましょう。

内容は、IDとは何か、目標の明確化、教材研究、指導案、評価、魅力ある
授業、研究授業などなどと、少なくとも私が「教職課程で教わった記憶がな
い」珠玉な事柄が山積です。

中でも出色だったのが、第4章の学力観でした。ブルームのタキソノミーか
ら、直近の文科省学習指導要領まで、「学力」の捉え方について内外の研究
を総覧していきます。私はこれを再度整理できたことが、授業を設計する時、
あるいはその種の会議が混沌としている時、大変役立っています。

1つ面白い発見がありました。もはや諸悪の根源のように扱われがちな「ゆ
とり教育」の基となった「総合的な学習」が育てる学力について、寺西和子
先生の著を引用し次のように紹介されています。
  ・知識・認識:生きて働く知識、想像力、身体化された知識
  ・技能:情報活用力、コミュニケーション力、表現・交流
  ・思考:構成力・総合力、問題解決、関係思考 (後略)
おや、何かに似てませんか?そう、私にはこれが例の社会人基礎力の一卵性
双生児とも思えるのです。「ゆとり教育」で育ったナットラン若者たちを、
極似の「社会人基礎力」で鍛え直す。うーむ、どこでボタンの掛け違い
が、、、。

その検証と解決策にも大きな力を貸してくれる1冊です。
(文責 シバタ)


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