プレイフル・シンキング上田 信行宣伝会議このアイテムの詳細を見る |
以前教育工学会の全国大会の記事(下記Blog)でご紹介した上田先生の本です。
vol.322:日本教育工学会 第25回全国大会 参加記1「ワークショップ」
上田先生は長年「どうやったら人は夢中になって学ぶのだろうか?」ということを研究と実践を通じて追究されてきました。そして前述のBlogで紹介したワークショップなど「他者や道具を最大限に活用することで、ワクワクする学びの場を創り出す」ことに成功してきました。その理論を「仕事」に応用することで「働く場も楽しくすることができるのではないか」と考えたのが本書です。
筆者は、この本の「はじめに」の2ページでガツーンとやられました。上田先生曰く。
「この本がみなさんのプレイフル・エンジンをスパークし、ゆさぶることができれば幸せだ! 学びはロックンロールなのだから」
いいですねえ。ロック魂ですよ。
学習とか勉強とか訓練とか研修とか教育とか業務とか仕事とかって、どうしても「暗い」「まじめ」「つまんない」「できれば避けたい」というネガティブな先入観でみてしまいますよね。でも上田先生は違います。これらを「楽しいものなんだ」「ロックンロールなんだ」と前向きに捉えるための心のあり方(=グロウスマインドセット)をこの本の中で提唱しています。
最も成長した経験は?と訊かれると「つらかった出来事を乗り越えた時」をあげる社会人が多いそうです。それに対し上田先生は「幸いにも試練を乗り越えられれば成長できるのかもしれないが、苦しみに押しつぶされてしまっては成長どころの話ではない。『もっとプレイフルに成長していこうよ!』とこの本では伝えていきたい」と述べています。
本音としては「こんなつまらない書評を読んでいる暇があるのなら、この本買って読んでください」と書いて書評を終わりにしたいところなのですが、最後に筆者が読んでいて特に面白かった点を3つだけご紹介します。
◆ブリコラージュ p.55
「ブリコラージュというのは、設計図をもとに必要な素材を集めて作る『エンジニアリン』とは対称的に、その場で手に入る素材をうまく組み合わせて、創意工夫して必要なものを創り上げる手作業のことである」と上田先生は述べています。○○が足りないからできないと不満を述べるのでなく、現状の制約の中で最高のパフォーマンスをあげるにはどうすれば良いかを考えるそういう姿勢がプレイフルなワークには大切と述べています。
前述のワークショップの時に、先生はパイプクリーナー(通称モール)を用いていたのですが、これも海外での学会でワークショップを実施する時、大きな荷物を海外に持って行くわけにいかず、荷物にならないでワークショップに使える素材はなにかないか?と考えていくうちに思いついたそうです。まさにプリコラージュな発想ですよね。
◆認知的ハイヒール p.58
この本の中では「メタ認知」という概念がよく出てきます。メタ認知とは、自分の置かれた状況をちょっと離れた視点から見つめ直してみることを指します。人はメタ認知によって物事の全体像が把握でき、自分の関わっている活動の意味合いが明確になり、活動を通じて何を学べばよいかが理解できるようになります。そんなメタ認知のことを上田先生は「魔法のハイヒール」あるいは「認知的ハイヒール」といった言葉で説明しています。ちょっと高いところから状況を見てみる雰囲気がよく出ている表現だと思いませんか。
◆何をやるかより 誰とやるか p.136
上田先生は「『何をやるか』は大切だけれど、あまりにガチガチに固めてしまうと、そこから逆算してゴールに向かっていくことになり、仕事のおもしろさは半減してしまう。『誰とやるか』によって仕事のやり方やクオリティが変わってくるのであれば、それによって『何をするか』も微妙に変化していいはずである」と述べています。これは筆者にとって目から鱗が落ちるようなフレーズでした。仕事で完璧な仲間に恵まれることは希です。自分自身だって相手にとっては「もうちょっとましな奴と組みたかった」と思われているかもしれません。でもそう思ってしまっては仕事はつまらなくなるだけです。そこでブリコラージュして、やり方を変えるというのは確かに大事な発想ですよね。
これら3点以外にも、仕事をプレイフルにする考え方満載の本です。この時期何かと仕事が忙しくなり疲弊しがちですが、ぜひこの本を読んでワクワクしながら仕事をこなしてみませんか。
(文責:コガ)