いとゆうの読書日記

本の感想を中心に、日々の雑感、その他をつづります。

日本の女帝の物語    橋本治 著

2014年03月06日 | その他
この冬は関東でも大変な大雪に見舞われましたが、まだ寒い日が多いとは言え、桃の節句も過ぎて何となく陽射しも春めいてきました。さて今回は橋本治先生の「日本の女帝の物語」です。

これは推古天皇から孝謙天皇までの飛鳥奈良時代の6人の女帝と聖武天皇即位の背景について書かれています。

もっとも有能な女帝と言われる持統天皇ですが母としての強さが浮かび上がります。草壁皇子の子つまり孫である文武天皇即位のために自らがまず即位したということのようでしたが、天皇としての権力を築いていきます。そして日本で最初の上皇は持統天皇でした。

以前このブログでも記事にした永井路子氏の小説「美貌の女帝」を読んで元正天皇とその母である元明天皇の即位の背景や長屋王の事件についてはその後少し調べてみたりしていたのですが、この本は小説ではないので系図と実際に起きたと思われる歴史上の事件に基づく考察という点では非常に興味深いものでした。天武天皇と持統天皇の息子である草壁皇子の妻であった元明天皇、その娘の元正天皇の即位は将来の聖武天皇の即位の為であったにもかかわらず、父方をたどれば天武天皇の孫である長屋王にも即位の危険性を持たせてしまったというねじれ現象についての見解はなるほどと思いました。

ですから女帝ではありませんが奈良の大仏建立で小中学生のころから教科書にも登場して名前だけはお馴染みの聖武天皇は祖母(元明天皇)と叔母(元正天皇)と娘(孝謙天皇)が女帝で系図上の鍵となる人物です。

天武天皇の孫の長屋王の妻は持統天皇の孫であり草壁皇子と元明天皇の娘の吉備内親王です。系図で見ると即位の可能性もないとは言えなかったのです。聖武天皇の母は臣下である藤原氏の娘であり、光明皇后もまた藤原氏の娘なのです。ですから聖武天皇の時代に天皇家の娘でなければ皇后になれないという形体が崩れます。

次に続く孝謙天皇は聖武天皇と光明皇后の娘です。皇太子となり帝王教育を受けた孝謙天皇は周囲の陰謀と権力者の孤独の中で強権を発し、さらにねじれた社会が続きましたが53歳でこの世を去ります。孝謙天皇は独身であったので子供はなく以後長い間女性天皇は出現しませんでした。

橋本先生は最後に<男にとって「女の心理が」が難しいのと同様に女にとっても「世の中を構成している男達の心理」は難解だということです。女が上に立って、「世の中を構成している男達」を「なんてバカなのかしら」と思ってしまえば、その時から彼女は「エゴイスティックな権力者」になります。そして「女だって権力を手にしていいんだ」という、その「エゴイスティックな理解」が女達の間に当たり前に広がっていけば世の中はいくらでも騒がしくなるでしょう。それは現代にも通用する「真理」であるのかもしれません。>と結ばれています。

確かにそうなのですが、橋本先生の<・・・>の部分の男と女の文字をすべて「人間」に入れ替えても同じ理論が発生するような気がします。つまり、男と女の心理に平均的な違いは絶対存在するとは思いますが、現代は民主主義における自由と平等の社会だからこそ、もっと複雑な心理が公民権を得ようと新たな騒がしさが生まれてきているのかもしれないと思うからです。

それはともかくこの本は古典を読む上での基礎知識としてはたいへん参考になりました。古代の日本で大和朝廷が確立していく過程の複雑な権力争いの渦中に生きた人々のことを思うとこれからは万葉集の歌も新たな視点で捉えることが出来るかもしれないと思います。