いとゆうの読書日記

本の感想を中心に、日々の雑感、その他をつづります。

博士の愛した数式  小川洋子著

2007年07月05日 | 小説
 先日、友人の一人に「何か面白い本ない?」と聞かれて、(彼女はフィクション派だったので)「もしまだ読んでなかったら、博士の愛した数式かな」と答えました。そして家に帰って久しぶりに読み返して見ました。

 この本を最初に読んだのはもう1年半位前のことです。題名にちょっと魅かれて手にとって見ました。最後の方を開くと解説文を書かれたのは藤原正彦先生でした。小川洋子さんがこの小説を書かれる前に藤原正彦先生のところへ取材に行かれたことを知ってもっと興味を持ちました。以前このブログの記事にも書いた藤原正彦先生の「国家の品格」は当時出版されていたかどうか覚えていませんが・・。私はこの小説の方を先に読みました。しばらくすると本屋の文庫や新書の新刊コーナーには藤原先生の本が次々並んでちょっと驚きました。

 さて、話をもとに戻します。この小説の何だか少しロマンチックなイメージの題名と、文学と数学の組み合わせに興味を持ちました。設定からすると現実にありそうでやはり絶対にありえないという感じもしないではないのですが・・。数式がファンタスチックなイメージを膨らませ、ちょっと切なくもあり、また、ふと心温まるような展開です。

 当時映画化もされていました。映画の評判もいいようですが、寺尾聡さんの博士役のイメージが私が小川洋子さんの文章から受けた博士のイメージと随分と違っていたので、(寺尾さんは素敵な俳優だと思いますが・・)本のイメージをしばらく温めていたくて映画はまだ見ていません。何しろこの小説の最初の方の説明に「64歳の元大学教師・・・、ひどい猫背のために160cmほどしかない身長がますます小さく見え・・」とあったとので以後ずっとこのイメージを持ち続けてしまったものですから。寺尾さんの博士役はちょっとかっこ良すぎるのではと思ってしまって・・・。

 博士は数学の博士号を持っていますが、47歳の時に巻き込まれた交通事故のために脳にダメージを受けて記憶が1975年で停止し、以後80分しか新しい記憶を留めておくことができなくなってしまったという人です。物語は、博士に√(ルート)というニックネームを付けられた少年の母(語り手の私)が家政婦として雇われていくところから展開します。

シングルマザーで家政婦である語り手の私は息子を連れて博士の家に通うようになります。

新しい家政婦さん その息子10歳 √
 
記憶しておくことが出来ない博士は自分の体に貼り付けているメモに書き加えます。

 日頃、ご無沙汰している数学も 小説の中は中学生にも充分理解できる範囲なので気楽に楽しみながら読むことができます。
素数は美しいという博士。余談ですが十代の頃私は素数が嫌いでした。受験番号が素数でないことを念じてから、送られてきた受験票の封筒を開けたものでした。割り切れる方が何だかすっきり合格するような錯覚に見舞われていたからです。でも、これを読むと単純にも素数に個性を感じたりしてしまいます。

 数々のハプニングに見舞われながら、切なくも微笑ましくもある三人。最後は思いがけず博士の過去も知ってしまう語り手の私と博士と√の三人の間で出来上がっていく三角形のイメージが次第に広がっていきました。