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エンボス加工され手彩色を施された怪美版『新富町多与里』30部本
紐でくくられた紅いビロード製パンティーは着脱可能 その下は……
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裏表紙には型押しされたピカソ風抽象的な女性の姿
水曜荘と青園荘、共同作業の中では一番の出来栄え
『新富町多与里』は、斎藤昌三の「書物展望」編集後記を抜粋したもので、第八番目の随筆集です。芋小屋山房主人・森山太郎が300部限定で1950年(昭和25年)1月1日に刊行しました。表紙に活版印刷で使用した紙型を応用し、ダンボール製の箱がついています。ユニークな装訂でしたが、読者の受けがいまひとつだったようで、販売は不調、倉庫に在庫を抱えていたらしいのです。それを見た酒井徳男が悪巧み。悪友の内藤政勝に誘いをかけて、大人のエロを前面に出したちょっとにやりとする装訂の本を創ったのです。
30部だけを倉庫から持ち出し、青園荘が製本の腕をふるって出来上がったのが、紅いパンティー付きの怪美版『新富町多与里』一本で御座います。別に添付された封筒の中には「逆三角形の黒い毛で出来たモノ」が入っており、それをどう使うのかは本の持ち主自身が各自で判断するようになっておりました。これも発禁を恐れた創意工夫なのでしょうか。芋小屋山房・森山太郎は、腰巻やパンツをはかせたエロ本を何冊かをアンダーグラウンドで発行しておりますが、怪美版『新富町多与里』の芸術性には足元にも及ばぬ出来栄えです。
怪美版『新富町多与里』は稀本です。私は神保町のY書店で20年前に偶然入手。紙型版の普及本300部の方は、古書展で昔はよく見かけました。ダンボール製の箱がいかにも安っぽく、紙型表紙も新聞社が書籍出版でよく使うやり口で新鮮味もなく、群を抜いたデザインでもないため、私の触手は動きませんでした。それも今から20年近く前の話です。