林間教育通信(「東大式個別ゼミ」改め「シリウス英語個別塾」)

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プログレス21で、『トム・ソーヤー』から削除されたものーー黒人奴隷の子、ネズミの死体

2010年12月11日 | 教養英語
『プログレス21』の2年生用の教材の中には、マーク・トゥエイン『トム・ソーヤーの冒険』の一番最初のほう(第二章)にある、もっとも有名なエピソード「ペンキ塗り」の話が、クラスで劇をやる作品として取り上げられている。

いくつか不明な点があったので、大久保訳の『トム-ソーヤー』(新潮文庫)と、 Gutennbergを調べてみた。すると、どう言った点が改編されているのかが判って興味深かった。本来は、私の別のブログ(プログレス・ノート)の方に書くべきであるが、このブログにも書いていきたいと思う。

このエピソードはすでにご承知の方は多いと思うので、ちょっとだけ説明しておく。ある土曜日、トムはペンキ塗りの仕事を言いつけられてしまった。そこでトムは、いかにもこの仕事は楽しくてしょうがないというふりをする。さらに、誰にでもできる仕事ではないんだぞ、もしどうしてもやらせてほしいならば、何か代償をよこせといいくるめ、他の子供たちにやらせてしまうというものだ。


トムがペンキを塗っているときにまず最初に通りかかる少年がジミーである。改変バージョンでは、ジミーはお母さんに仕事を言いつけられているので、ペンキ塗りの仕事はできないというふうになっている。しかし原作はちょっと全然違う。ジミーに仕事を売りつけているのはお母さんではなくて「奥様」(Ole Missies)である。そして、ジミーはトムに対して「トムさん」(Mars Tom)と敬語を使っている。事情はイラスト付きの原作を見れば一目瞭然である。ジミーは黒人少年だったのである。 

19世紀の南部アメリカでは、子供時代は黒人と白人の子供が一緒に遊んでいるのだということを偲ばせるものである。それが抜け落ちたわけだ。


三番目に来る少年はジョニーである。原作では、ジョニーとトムとの間にはほとんど会話はないが、改変バージョンでは長い会話が繰り広げられる。ここで不思議に思ったのが「モデル・カーをあげるよ」という言葉であった。舞台は1820年代から30年代の南部アメリカなのだから、当然のことながら自動車は存在しない。この時代のモデル・カーとはいったいいかなる意味だろうかと考えて本文を調べたのだ。やはり「モデル・カー」というのは、現代的に書き換えられたモノで、原作にはそれにあたる言葉はなかった。それどころか、ジョニー少年が代金として支払ったのは、「死んだネズミ」と「ネズミを振り回すための紐」であった。実際『トム・ソーヤー』や『ハックルベリー』といった本を読むと、少年たちの宝物として死んだネズミや猫であること事を知ることできる。


この二つのエピソードであるが、中学校に2年生用と考えると少々刺激が強すぎるのかもしれない。しかし、少々古い小説を読む楽しみや驚きが、『プログレス21』から削除されてしまっていることは疑えない事実である。そのあたりを、我々は確認しておきたい。


なお、あまり重要な要素ではないかもしれないが、原作ではトムの柵のペンキ塗りの仕事は「昼すぎに」終わったのに対し、改変版では「午前中に」終わったことになっている。昔の子どもが命令される仕事のハードさは、もはや現代的ではないということなのだろうか。

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2 コメント

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ありがとうございます (kirakira)
2010-12-13 22:44:45
 初めまして。公立中学校の英語教員です。
 ハックルベリーとトム・ソーヤーは時間ができたら是非原作を読みたいものだと思いながら未だ読んでいません。このペンキ塗りのシーンはずっと昔ニューホライズンの教科書に出ていたものを猫のぬいぐるみやらナイフを持っていき演じさせていました。プログレスとは比べようもない単純な英語ですが、それでも楽しいシーンでした。しかしこのブログを読んでますますもって面白いシーンとわかりました。ありがとうございます。
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レスありがとうございました (rinkaan)
2010-12-14 00:46:02
kirakiraさん、コメントありがとうございました。

私は今年の夏から秋にかけて『ハックル・ベリー』と『トム』を日本語で読みました。後者は世界文学で、前車は子供向けと成っていますが、どちらも読むに値する作品です。(とはいえ前者のほうが面白い)。

後者が面白く読めたのは、車のない時代のアメリカの世界なんだなというイメージをもてこと。前者はヨーロッパの影響をうけているアメリカの文学だなあというのが収穫でした。
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