★ reiGの『日記シックスは2人いた』 ★

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読書日記(2008年夏)

2008-09-30 | 
○しらみつぶしの時計/法月綸太郎
 法月久しぶりの短編集。
 表題作は、ある意味『CUBE』的なシチュエーションもの。
 その論理展開には目を見張るものがあるが、読んで付き合うのは疲れる。
 かと思いきや、オチは単なるコントだった。
 収録作品は本格ものだけでなくバラエティに富んでおり、楽しく読めた。

○鬼蟻村マジック/二階堂黎人
 二階堂黎人久々の、本格的推理小説。
 水乃サトルものだが、今回は横溝正史風の因縁うずまく旧家が舞台。
 どう考えても、探偵役は蘭子の方が合う気がした。明らかにミスマッチ。
 しかしプロットがありきたりなのはまあ良いとして、
 この小物感漂うトリックはなんなのだろう。
 土曜ワイド劇場でも、もうちょっと気の利いたトリックを使っている。
「吸血の家」「悪霊の館」等で僕らをあっと驚かせてくれた稀代のトリックメーカーは、
 どこへ行ってしまったのか。
 犯行の動機も、横溝のいくつかの名作を混ぜ合わせました!みたいな理由で、
 現代に通じる話ではないね。
 ハッキリ言って凡作。

○月の扉/石持浅海
 閉塞状況のサスペンスと論理的推理が融合した、
 本格推理の新次元(と、いえなくもない)。
 殺人事件の解決には多少の肩透かし感も漂うが、ロジカルでスリリングな推理過程、
 サスペンスフルなハイジャック部分は実に面白い。
 「師匠」ってホントにスゴイのかもしれないけど、各キャラクターの造型が甘く、
 描写も不足気味のため、そのスゴさがあまり伝わってこなかった気はする。

○水の迷宮/石持浅海
 「感動の名作」との売り文句につられて買ったが、これで感動してしまって良いのか?
 個人的には、あまりの解決に「そりゃないよ」と言いたい。
 確かにラストの情景はそりゃ美しい(んだろう)し、「月の扉」同様、
 サスペンス溢れる状況と論理に根ざした推理の対比は面白いが、
 犯人だけでなく主人公・被害者ら多くのキャラクターの思考があまりにも飛躍していて、
 ちょっと感情移入しかねた。
 
○狐火の家/貴志祐介
 作者初の推理もの「硝子のハンマー」に続き、
 防犯コンサルタント・榎本と弁護士・純子の凸凹コンビが活躍する短編集。
 表題作はまずまず面白く読めたが、探偵ペアのやりとりはユーモラスなのに、
 舞台は怪奇的な雰囲気を醸し出そうとしているチグハグさが気になった。
 他の作品は、ハッキリ言ってやっつけ仕事。失望しました。

○厭魅の如き憑くもの・首無の如き祟るもの/三津田信三
 最近注目のミステリー作家、三津田信三の本格ホラーミステリー。
 その禍々しい世界観・雰囲気は非常に好みだが、終盤にどんでん返しを多用したり、
 未解決な超自然的要素を残すなどの手法が、真相の印象を薄くしてしまっている。
 それによって読者を幻惑するのが、
 ホラーとミステリーの融合を標榜する作者の意図であるのだろうが、
 それならそれで、もう少しスマートなやり方もあると思う。

○崖の館/佐々木丸美
 悲運の作者の代表的作品、久し振りの復刊。
 超少女趣味的一人称が赤面ものだが、
 十二分なまでに館ものミステリー(しかも過去の不可解な事件の因縁あり)。
 新本格前夜の幻の名作といえる。
 淡々としていながらカタストロフィに突き進んでいく切迫感が良い。

○東京(とうけい)異聞/小野不由美
 パラレルワールドの日本、明治開化時代を舞台にした伝奇ミステリー小説。
 圧倒的な想像力・文章力で組み上げた異世界は、あまりにも魅力的。
 文楽人形と黒衣の恐ろしくも妖しげな絡みは素晴らしい。
 解決が急転直下なうえにあまりにも意外すぎるため、
 個人的にはちょっとガッカリきた。

○凶笑面/北森鴻
 本邦初の本格的民族学ミステリーとのふれ込みだが、
 かつて流行った伝奇推理ものと大差無いような気が。
 まあ確かに、民俗学部分の話はけっこう面白い。
 純粋にミステリーとしての評価は、まあまあってとこ。

○狂乱廿四考/北森鴻
 明治初期の歌舞伎界を舞台とした歴史ミステリーで、鮎川哲也賞受賞作。
 実在の人物・絵画をもとに、虚実ないまぜで作り上げたストーリーはお見事。
 文庫版は、原型となった短編「狂斎幽霊画考」を併載している。
 プロットが微妙に違い、これが非常に興味深い。
 というか、どちらかというとこっちのほうが好みかも。

○狙った獣/マーガレット・ミラー
 心理サスペンスの古典的名作(こう書くこと自体がネタバレのような気はするが)。
 ストーリー・トリックは、今では類似作品多数(というかもう古い)だが、
 当時はかなり衝撃的だったんだろう。
 かなりイヤらしい話だけど、ラストの恐ろしくも美しい一行の文章に惹かれました。

○ポドロ島/ハートリー
 古典的怪奇小説とモダン・ホラーの懸け橋的作者の短編集。
 なかでも表題作「ポドロ島」は、得体の知れない不条理な恐怖を描いた傑作。
 この島には何が居たのか(何が起きたのか)ということを、いつまでも考えてしまう。
 他にも「動く棺桶」「島」など、佳作揃い。特に「W・S」は有名だ。