元インドネシア代表監督、スリランカ代表監督(野中寿人- 66番の部屋)

インドネシア野球、アジア途上国の野球、国際大会、日本のアマチュア野球、プロ野球情報、日大三高時代の面白エピソードを発信

インドネシア代表ナショナルチーム崩壊の危機

2007年08月12日 13時46分07秒 | インドネシア代表ナショナルチーム(国際大会など)
壮大すぎる相手を前にし、ただ膝間付き降参せざるしかなかった。
野球と言う形態の中で後にも先にもこの様な思いをしたことはない。

その日の夜のミーティングで、カントクとして選手達に重大な通告をしたのだった・・・

{断食をしている選手達は、断食期間が終わるまで合同練習は見学のみとする。
合同練習後の断食をしている選手達による自主練習については個々に委ねるものとし、我々オフィシャルからは一切の自主練習に際しての特別な練習メニューは提示しない}

一気に選手達の間に緊張が走った。
インドネシア代表チームが発足して以来、初めての重大な決断だったからだ。

{イスラム教徒である以上、断食を行うことは当たり前で何で悪いように解釈されるのか!}

断食をしている選手達はこのように受け止め激怒し、もの凄い形相で部屋から出て行った。
この様子を見た他のオフィシャルも断食をしている選手達に怒りを抱き、オフィシャルとの間に亀裂が入った。そして一切のコミュニケーションが絶たれたのである。

{・・・駄目だ“”この状況では話しの続きが出来ない。感情的になっている為、今は何を話しても駄目だ。1日の猶予を持とう・・・}

翌日、断食をしている選手達を集め監督としての胸の内を話した。

{昨夜は感情的な要因からミーティングでは話の続きが出来なかった。話を良く聞いて欲しい。カントクの立場からの注文は、この断食期間中に体重を3KGから5KGを増加して欲しいのだ。体重を減少させてしまった場合その回復には時間が掛かる。
単に体重の減少だけで無く、身体上の他の悪要因を引き起こす可能性も高い。従って逆に体重を増加させてくれ。絶対に体重を落としてならない。夜は食って食って食いまくるんだ。
そして特別に個別の自主練習メニューを作ってやりたいが、仮にカントクとして作ってしまった場合、他の選手達に対して断食を行うことを認知をしてしまうことになる。
これは、あくまでもチームとしての決断であることを理解して欲しい。
体重を増やし基礎トレーニングで体調の維持を保つのがカントクからの注文だ。
また君達ならカントクから要求する自主練習のメニューは既に分かっていると思う。
合同練習後にホテルの部屋の窓から君達の動きを見ているからな。いいな。手は抜くなよ}

エース候補のピッチャーがこう言った。
「カントク、最初に話しを聞いた時は正直戸惑いました。でもカントクの意図することが分かりました。僕たちは大丈夫です。カントクを信じてカントクの注文通りに行います」

・・・最大の危機を乗り越えたインドネシア代表ナショナルチームであった
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宗教と言う勝てない相手

2007年08月10日 13時43分46秒 | インドネシア代表ナショナルチーム(国際大会など)
イスラム教徒にとって「ラマダン」と言う最大の祭典がある。

この「ラマダン」とは、断食を行い、飢えに耐え忍んでいる人たちの痛みを知る、と言う厳粛かつ重要な行為であり、その断食期間は約1ヶ月間に及ぶのです。
1日のうち太陽が昇る前と日没後に限って摂食摂飲が可能であり、それ以外の時間帯での
摂食摂飲は禁じられている。また他宗教の者は、この断食行為を行っている者に敬意を払い、その人の前では摂食摂飲は控えるという決まりもあります。
勿論、カントクにとっても喫煙をも控えなくてはならない辛~~い時期なのです。

さて、我がインドネシア代表チームの選手、オフィシャルの構成は、仏教徒の自分とキリスト教徒の1名の選手以外が全てイスラム教徒である。

従って原則的には断食が決行される。

ただ大病中や妊娠中など何らかの特別な要因により行うことが不可能な場合には、他の時期を代替期として断食を行うことも許されているらしい。
しかしスポーツなどの強化練習における場合には当然のごとく断食は決行されるのである。



インドネシア代表チームのも例外ではなく、エースピッチャーを含むピッチャー陣3名、内野のレギュラー1名、外野のレギュラー1名が断食を行ったのである。

2005年の断食期間は代表チームの強化練習は大幅に軽減されたらしい。そんな経緯から今回の代表チームの強化練習メニューも軽減、または夜間練習に切り替えるなどの提案
が持ち上がったのだった・・・

{野球と言うスポーツはプロ野球でない限り、太陽の下で行うスポーツである。さらに東南アジア競技大会(アジアシーゲーム)で銀メダル以上の獲得を目標にしている以上、練習メニューを軽くするなど考えていない。誰がなんと言おうと、俺には受け入れられない}と、言い切り、首を縦に振らなかった。

絶食を行っている選手達が辛いのは勿論のことなのだが、断食を行っていない周囲の選手達は、断食に耐えて練習をしている彼らの苦しい表情を見るに耐えないのである。
正気も消えうせ、顔色までが変わっている。こんな状況では激励の声はおろか、会話を持ちかけることにも注意を払わなくてはならなくなってしまうのである。

表現が悪いかもしれないが・・・{ゾンビのような形相なのである}

断食を行っている選手達には
{この断食期間の最終の週は、丁度、日本遠征にぶつかる。
日本での活躍は、今後の野球選手としての道が開ける可能性もあるかもしれない。
通常でもこの断食によって体重が落ちるのに、この強化練習メニューをこなした場合には、
体重は10KGから15KGは減少してしまう。
これでは体調を壊すばかりか、断食が終了した後の回復までもが危ぶまれる。
日本遠征どことか、断食が終了した1ヶ月後に控えている東南アジア競技大会(アジアシーゲーム)さえ危険な状況になってしまうと言うことだ。
どうだろうか?他の選手同様に食事を取る事は不可能なものだろうか?}

レギュラーピッチャーの選手が言う、
「カントクのおっしゃる話はその通りです。でも、今、僕がカントクと一緒に野球をしているのもイスラム教の神様である「アラー」の導きです。日本遠征での成果も「アラー」が決めてくれることです。東南アジア競技大会(アジアシーゲーム)での成果も同じです。
全ては「アラー」が決めてくださる事と信じています}

唖然&絶句
言葉を失い・・・何も言えなかった。
自分なりに宗教について理解しているつもりでいたが、理解していた範囲では全然届かない、もっと奥が深いことに気づかされた・・・

これは、良いとか、悪いとか、間違っているとか、間違って無いとかの次元ではない。
もっと壮大で威厳な部分なのです。この部分では混じ合うことが難しいのです。

{分かった。じゃぁ、最善の案を俺が考えるよ}とだけしか言えなかった・・・

会話の後、一人で外野に歩いて行った。
何と表現をして良いのか分からない感情に襲われ心が詰まってしまった。
ボーっとしながら外野をテコテコと歩くのだった。

自然と涙が流れてきた・・・

思い起せば数ヶ月前に女子ソフトボールの国際大会であるアジアカップ大会が、このジャカルタで開催された。先の北京オリンピックで金メダルに輝いた上野投手を始め日本代表女子ソフトボールチームもこのアジアカップに参戦をしていた。俺は生きた教材がジャカルタに来てくれたと解釈し、連日のごとく日本代表の選手個々をビデオで収録して、我が代表チームのミーティングでの理論分析に使用したのであった。


ー女子ソフトボールアジアカップ大会で日本代表ナショナルチームがスナヤンに登場、インドネシア代表女子ソフトボールナショナルチームの選手達と一緒の上野選手、このアジアカップ大会時でも宗教に纏わる相異が試合のルールに現れていたー

だが、宗教に纏わる出来事がこのアジアカップの試合には含まれていたのをしみじみと思い出したのである。イスラム教の礼拝は1日に数回あり、インドネシアで行わる国際大会は、何と試合中においてもイスラム教の礼拝時間を迎えると全てが止まるのだ。どんな試合状況であろうと礼拝時間が終わるまで試合は中断される。その中断時間は15分前後だったと記憶している。中断をする理由はイスラム国家で開催されていると言うことから、イスラム教への敬意を示す為との解釈との説明であったが、他宗教国の代表チームは理解に苦しんだ。

事実、試合の流れが変わってしまうとのクレームをつけた代表国も多くあった。

その時{いやぁ、ここで試合が中断されるのはチームとしては大変だなぁ}と言う、軽めの気持ちで見ていた。しかし今度は自分がその渦中に居るのである。

宗教という偉大な相手を前に・・・ただ呆然とする自分が居た
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする