ここはJR藤野駅だ。ここから出発するよ。今日は、またとない秋晴れの好天だ。雲ひとつない真っ青な空だよ。
いつもそうだが、初めの一踏みのペダルがとても軽い。今日はどんな道、どんな風景が待っているだろう。
鶴峠を目指すなら、上野原駅からの方がいいはずだ。敢えて藤野をスタート駅としたのは、相模川対岸の県道520号線をちょっと走ってみたいと、そう思ったからだよ。
国道20号線を横切って弁天橋へ向かう。ほんとに気持ちのいい空の青さと日の光のすがすがしさだ。自然と胸がわくわくしてくるね。
ただ、今日は気温が低い。11月の終わりから12月はじめ頃の気温だそうだよ。弁天橋へ下る坂道で、身体に当たる風がひどく冷たく感じられる。まあ、上り坂になればすぐに暑くなるだろう。少しの辛抱だ。
9月半ばに上日川峠を走った後から体調を崩してしまったんだ。少し良くなってきたと思うとまたぶり返すといった具合で、すっかり治ったと思う頃には既にひと月もすぎていたよ。歳をとるとなかなか治らないもんだねえ。若いころは2日も寝れば3日目にはもうけろっとしていたもんだが。
すっかり体調が戻って喜んでいたら、それもつかの間、昨日からまたなんとなく喉がいがらっぽくなってきたんだ。別の風邪をひいたのかね。
弁天橋の上から見る相模川の眺めだよ。遠くの山々まですっきりと見ることができる。水は動いているようには見えない。実に静かな眺めだ。空と木々と水の色、いいねえ。
弁天橋を渡り、県道520号線へ出るまでのおよそ400メートルが、かなりきつい勾配の上り坂だよ。11~12%くらいはありそうだ。
ところで、歳をとったみみ爺、坂はなるべく楽に上りたい。上り坂は嫌いじゃないが、やっぱり楽に上りたい。それで、チェーンリングのインナーをそれまでの26Tから24Tに変えたんだ。
24Tのインナーを試す時が来たよ。
今までの26Tより、かなり軽くペダルが回せるようだよ。気のせいかね。いやいや、確かに軽く感じる。いいねえ。これならこれから目指す鶴峠の激坂だって楽に上れるだろう。ペダルを漕ぐのがすごく楽しいよ。
明るい日差しの中だが、ちょっと冷たい朝の空気を切って、名倉集落を走って行くよ。
下り坂の先に、神奈川県と山梨県の県境、境川橋が見えてきた。橋の向こうは上野原市だね。
日陰の下り坂は特に風が冷たいよ。
境川橋からの風景だ。緑の中に紅葉した木々が混じっているよ。空はどこを見ても抜けるような青さだ。
境川橋を渡るとまた上り坂だが、さっきの勾配よりもましだ。
県道520号線をそのまま走り、国道20号線へ出て間もなく、今度は県道33号線へ入るよ。
県道に入って1キロほど先のコンビニ・デイリーヤマザキで水と食料を仕入れる。もちろん、お決まりのあんぱんもだ。
コンビニを出て500メートルあまり走り、県道と別れて裏道に入るよ。県道は鶴川の谷を挟んで左側、裏道は右側だ。
山風呂、向風と、変わった名前の集落を抜けていくと、次第に山が近づいてくるよ。
道が山にさしかかると、前方に古い小さなトラス橋が見えてきた。山陰にひっそりとあって、いい雰囲気の橋だ。
後で調べたら、西沢泉橋というそうだよ。思いがけずこんな橋に出会えるから自転車旅は楽しい。
すこし行くと、今度は一転して立派な新しい橋が現れたよ。橋の先にはトンネルも見える。
橋はゆずり原橋、トンネルは中見山トンネルというんだね。
トンネルを出ると再び橋だ。こちらは中見山橋という橋で、橋の上からは鶴川の対岸を通る県道33号線の尾続大橋の姿が見られるよ。
このあたりは聖武連という集落だね。対岸の尾続大橋が違う角度で見ることができる。
紅葉の山に囲まれた小さな集落の姿は、何かほっこりするものがあるよ。
これは大平橋。山と空がすばらしい。
橋の上からは、こちらもまた谷の向こうに県道が見える。
今度は何という橋だろう。トラス構造の橋だね。
小和田大橋というんだ。橋の上からは鶴川の流れが見下ろせる。
さらに進んでいくと、道は林道のような雰囲気になって来たよ。いいねえ。
景色もいいけど、この古い橋もいいね。さっき通った西沢泉橋とよく似ていて、どっちがどっちだかわからないほどだよ。だけど、こちらの橋の名前はよくわからない。
まもなく道は県道に出た。
鶴川の急流を左手に眺めながら、県道18号線を上って行くよ。距離は500メートルほどとたいしたことはないけれど、この辺りもかなりの急勾配で、10%くらいはあるんじゃないかね。
急勾配の途中にある猪丸橋だ。これもきれいな新しい橋だ。
山や紅葉を楽しみながらペダルを回すよ。
道が狭くなったね。
突然、右手の山の斜面の林の中を、ガサガサと何かが転がり落ちてくるような音がしたんだ。岩でも崩れてきたのかと思ったけれど、見ると黒い塊のようなものが慌てたようによじ登って消えた。ほんの一瞬のことだったが、確かに小熊のようにも見えた。それで、早速クマよけ鈴を付けたんだ。
再び道が広くなった。きれいだなあ。空が青い。山がいろんな色に着飾っている。
山がいちばん美しく見えるのはやっぱり秋じゃないだろかね。日差しが明るい。ほんとに最高の秋晴れだよ。
急な坂を上り切って勾配が落ち着いてくると、大垣外という集落に入った。地元の婦人たちの明るい声が聞こえてきたよ。芋掘りでもしているのだろうかね。
この辺りは沢度という集落になるのだろうか。斜面に作られた畑の様子が、8月はじめに訪ねた和見の山村集落の風景に似ている。のどかな眺めだよ。
芦瀬の集落だよ。
“ゆずり原青少年自然の里”とは、自然体験ができるという青少年教育施設だ。
坂本、梅久保と、集落を過ぎていく。
鶴峠へ向かう道は、少し走っては集落が現れ、また少し進んでは次の集落に入る、といった具合に続くんだ。集落と集落を結ぶ道も、広くて立派な道であったり、まるで林道のような狭い道であったりと、変化があってとても楽しい。
集落もそれぞれ少しずつ雰囲気が違う。一つ一つ集落を数えて走るのも面白い。
右手の崖下に激流が見えるよ。
紅葉がきれいだね。
初戸という集落だよ。
県道18号線は右だ。車がほとんど通らないから県道を走ってもいいんだが、ここはまた裏道を行くことにする。
初戸の集落を出ると、再び急勾配の上り坂が始まるよ。たぶん今日一番のきつい勾配だと思う。特にきついところでは12%以上はあるんじゃないだろうかね。
しかし、インナー24Tのおかげで、それほど息を切らすこともなくペダルを回せる。上り坂が楽しくなるよ。
だいぶ落ち葉が散っているよ。
勾配はきついが、いい雰囲気だ。
やっと斜度が落ち着いたよ。きれいな景色を眺めながら一休みだ。
腰掛という集落だ。
山の中にぽつんぽつんと小さな集落があるんだよ。陰になった山道を走っていて、そうした集落がひょっこり現れると、なぜかホッとするものがある。
谷が深い。水がきれいだ。
いい道だなあ。ペダルをこいでいると無性にうれしくなる。
平野田というのだろうか、また小さな集落だ。
おお~っ!
また集落だ。阿寺沢というんだね。
少し上って行くと岩を背に馬頭観音が並んでいる。ヘタクソな写真で、よく見えないね。
小さな橋の下に鶴川の流れだ。
阿寺沢入口というバス停がある。ここから再び県道18号線へ戻るんだね。
西原という集落だよ。“羽置の里 びりゅう館”という観光施設がある。ここではそば打ち体験ができるらしいね。
鶴川に沿って上って行くよ。ここもいい雰囲気だね。
甲斐国西原郷 一宮神社とある。ここには大きな杉の木がある。高さ50メートル以上あるそうだよ。
平坦で静かな道だ。何か落ち着く風景だよ。飯尾という集落だ。
鶴川の急流だ。
飯尾の集落を過ぎると、1キロほどの距離だが、いくらか勾配のきつい区間になるよ。開いてはいるけれど、ゲートがある。この辺から勾配がきつくなるんだね。
道が急に広くきれいになったよ。しかし勾配はきつい。山の景色に癒されながら頑張る。
やけに長く感じるよ、この上り坂は。
道は申し分なくいいし、車も来ない。左手の谷はとても深くきれいだ。
斜度は少し落ち着いてきた。飯尾橋だよ。
堰堤をかなりの落差で水が落ちている。音もすごいね。
ここが上野原市と小菅村との境になるんだね。
ここには、長作観音堂に併設された農業・自然体験を中心とした体験型の宿泊施設がある。NPO法人“寺子屋自然塾”というんだ。
さて、“寺子屋自然塾”を過ぎてから、鶴峠へのいよいよ最後の急な上り坂が始まるよ。10%を越える勾配がおよそ1,2キロ続き、その後勾配は少し緩くなって峠まで400メートルほどだ。さあ頑張ろう。
車がほとんど来ないので助かるよ。
インナー24Tのギアーは軽くていいねえ。もう手放せないよ。スプロケットのロー側が32Tだから、まるでMTBのギアー構成だね。これでいいのさ、爺ちゃんの乗るランドナーだから。
やっと鶴峠に着いた。
峠は眺望も日差しもなく寒々としている。バス停だけがぽつんとあるきりだ。
しかし、ここへ来るまでの道は実に変化に富んでいて楽しかったね。
お昼にしたいが、持ってきた小型バーナーでお湯を沸かすのに適当な場所がない。風が多少あったので、炎が安定しないだろうし日影は寒い。先へ行くことにしたよ。
さあ、奥多摩まではほとんど下り坂だよ。嬉しいねえ。
ウインドブレーカーを着込んで出発。
うお~!景色がどんどん変わって行く。
静かな道だ。
山がきれいだねえ。
白沢川を挟んだ向こう、葉を落とした木々の枝越しに、縄文時代の竪穴式住居の屋根のようなものが見えるよ。あそこが“原始村”なんだね。
“原始村”には原始時代の竪穴式や横穴式住居に泊まることができる原始時代体験施設があるんだ。ユニークなキャンプ場だ。
白沢川に沿って下り、間もなく余沢という集落に出る。ここからは国道139号線を下って行くよ。
午後2時を過ぎると、日差しがかなり傾いてきた。山陰も暗くなってくる。弱まった西からの日差しで、紅葉が一段と鮮やかに見える。まさに静かな秋の午後といった風景だね。
ここはもう奥多摩湖のはずれになるんだろうかね。
深山橋だ。橋を渡ると国道411号線だね。
ここで遅いお昼にしたよ。弱いが日差しも暖かいし、風もあまり当たらない。お湯を沸かしてカップヌードルとコーヒー。そしてあんぱん。
コーヒーをすすっているうちにも日差しは一段と傾いていきたよ。
さあ、出発しよう。
鮮やかな峰谷橋だ。
先を急ごう。
小河内ダムが見えてきたよ。
これから一歩一歩秋が深まり、紅葉はもっともっと進んでいくんだろうなあ。
西日を浴びて山々の襞がくっきりと現れ、立体感を増している。
奥多摩湖を後に、国道の中山トンネルを抜ける。300メートルほど進んで、折り返すように右手の道を下る。“奥多摩むかし道”への道だ。
山陰はだいぶ暗くなってきて心細いね。
“道所の吊り橋”からの眺めだよ。
さらに道を下って行くと、今度は“しだくらの吊り橋”だ。
吊り橋からの眺めだ。吊り橋の下は惣岳渓谷だね。
この橋は揺れる。下を撮るのが怖いよ。3人以上同時に渡ってはいけないとある。
ますます辺りが暗くなってきたよ。
この“奥多摩むかし道”は、以前2回通ったことがあるんだ。松姫峠、風張峠へ行った時だけど、ともに奥多摩駅側から上って来たので、下るのは初めてだよ。景色の見え方や道の感じがまるで違う。もっとゆっくり下って行きたいところだけれど、時間が遅い。すっかり日が傾いてしまったよ。
ここから国道に戻るよ。むかし道はまだ続くんだが、国道を下ることにした。
鋸山林道の入口の前を通過。
相棒を輪行袋に仕舞って電車の出発時刻を待つ間に、すっかり暗くなってしまったよ。まだ5時を過ぎたばかりなのにね。
ともあれ楽しかったね。上野原側から鶴峠へ上る道はまた何度か走ってみたい。いい道だった。
お疲れ様、みみ爺。
…実は翌日からまた体調を崩してしまった。今度は鼻水とくしゃみだ。歳には勝てないのかねえ。死ぬまでに、あといくつ峠を越えられるかね。どれだけ多くの林道を走れるかね。…心細いね。ああ、若くなりたいよ。
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