Randonneur旅日記

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南高尾山稜を歩いたよ…みみ爺一人山歩き    2021年10月29日 金曜日

2021-11-02 16:50:40 | ハイキング
 一度は歩いてみたかった南高尾山稜。
 南高尾山稜は7サミッツと呼ばれ、7つのピークがあるんだ。距離は15~16キロ。かなりきついコースらしい。みみ爺に最後まで歩くことができるかな。期待と不安でドキドキする。
 京王高尾山口を出発して数分後、リュックの横ポケットに入れておいた地理院地図がなくなっているのに気が付いた。ナビがあるから地図がなくてもいいが、地図には事前にいろいろ調べた書き込みがある。
 駅まで戻り、トイレや自動販売機の前も調べたが見つからなかった。
 仕方がない、地図は諦めよう。出だしから今日はどうも調子が悪いね。大丈夫かな。
 国道の同じ道を再び戻って行くと、何のことはない、歩道の上に木の葉のように舞いながら落ちている地図を見つけることができたんだ。さっきはなぜ見落としたのかな。しかし、まあ、よかった。20分のロスだ。
 
 いよいよ南高尾山稜への登山道の入り口だ。このピンク色の建物の横の細い道へ入っていくんだね。まさかこんな住宅地から山道へ入っていくなんてね。





 しかし、すぐに静かな山道になった。昨日までの雨で足元がぬかるんでいるかと心配したが、そんなことはなかった。雨上がりのひんやりとした空気が気持ちいい。
 細い道が続く。けっこう急な上りだ。





 15分ほどで四辻まで登ってきた。ここからは南高尾山稜へ続く尾根道だ。少しは楽になるかな。



 と思ったが、そう都合よくはいかないね。





 それでも朝の木漏れ日はすがすがしい。





 おやおや、また歩きにくそうなところだよ。蛇のように木の根が斜面を這っている。



 鉄塔の下をくぐって行くと、次は有刺鉄線に沿って上ったり下ったりが続く。







 山はいいなあ。静かだなあ。



 草戸峠に着いたよ。山道に入ってから、およそ1時間15分だ。こんなペースで大丈夫かなあ。はじめての山道はやっぱり不安だよ。





 明るい尾根道だね。こんな歩きやすい道がずっと続けばいいなあ。





 草戸山に着いた。草戸峠からはそれほどかからなかったね。
 松見平休憩所とある。展望台へ上ってみる。素晴らしい。晴れていてよかった。





 こんどは下りだ。いやな階段だなあ。山の階段は奥行きや高さがこちらの脚に合わない。だいたい歩きにくいんだ。文句は言わずに階段の横を歩こう。



 木々の間に城山湖が見えるよ。青空を映してきれいだなあ。







 この分岐は右の階段を上って行くんだね。



 ほどなく榎窪山に着いた。特に展望もないピークだよ。7サミッツ二つ目のピークだ。
 この榎窪山で東高尾山稜は終わり、これから先の尾根道は西へ向かう。南高尾山稜の始まりだ。



 榎窪山からほどなく三沢峠に来た。ここは左のまき道を行くよ。無理をして急勾配の本道を行くことはない。そんなに若くはないからね。



 日差しの明るい歩きやすい道が続く。



 おや、これが地元のボランティアさんが風倒木を利用してチエンソーで彫ったフクロウだね。裏側には鷹が彫られている。
 ベンチやテーブルもボランティアさんたちが造っているそうだよ。







 泰光寺山への急な階段だ。泰光寺山は展望がないらしいので、みみ爺はここでもまき道を行くことにする。



 西山峠だ。
 すぐ先には龍の彫刻があった。背中が平らになっているから、これもベンチなのかなあ。





 南側の、日差しが明るくてとても気持ちのいい道だよ。



 ここは南高尾山稜で一番眺めがいいと言われている見晴台だね。



 丹沢山系が見える。



 う~ん、すばらしい。津久井湖だ。
 あの橋は道志橋だね。遠くから見ると橋はきれいだなあ。



 白く雪をかぶった富士山も見えるぞ。
 手前の石老山の山並みに寝姿観音も確認できるよ。





 ふたたび明るい尾根道を行く。



 中沢山の観音像が見たかったんだけど、中沢山への行く道が分からず、いつの間にか中沢峠に出てしまったんだ。おそらく途中の分岐で、例によってまき道だと思った方へ進んでしまったためなんだろう。
 ここも左のまき道を選んだ。みみ爺はもう急勾配の本道を登る気がしない。もっとも、ここは本道を登っても眺望がないうえにきついだけだそうだ。みみ爺はもう無理はしない。まき道があったらまき道を行く。 



 上りになると急に足が重くなる。でもいい道だよ。



 金毘羅山への急登だ。この上りは本当にきつかったなあ。



 そして金毘羅山からの下りだよ。下りになるとホッとする。



 とうとう南高尾山稜7サミッツ最高峰の大洞山に着いたよ。
 時刻は12時半だ。ここでお昼をいただく。だいぶお腹もすいた。



  

 大洞山からはずっと下りだよ。それもかなり急だ。





 登山道の直下に国道20号線が見えて来た。もうすぐ大垂水峠だね。国道が見えてなぜかホッとしたよ。



 道が細いので、よそ見をしながら歩くと危ないね。崖から足を滑らせて転落しそうだ。
 歩道橋(大垂水峠橋)が見えて来たよ。



 歩道橋を渡るとまた細い山道だ。今度は上りだ。足元に気を付けながら登って行く。



 林道に出たよ。大平林道だね。道は広く勾配も緩やかなのでよかった。
 林道も本当に静かだ。







 林道は緩やかにずっと下っている。山道に比べたら林道はとても歩きやすい。





 大平林道から高尾林道へ。



 横浜方面だろうか、こんなにきれいな景色の眺められるところがあった。





 高尾山の稲荷山コ-スへ向かう階段だ。うんざりするような階段だ。もうみみ爺の足は限界だよ。



 へとへとになって、稲荷山コース出会いにたどり着くことができたよ。一休みだ。



 稲荷山コースは何度も歩いている。なので時間を気にせず、ゆっくりペースで歩くことができる。しかもほとんど下りだ。







 階段は嫌だが、下りだからまあいいか。



 終盤はかなりの急勾配だよ。



 国道20号線も見えて来た。もうすぐ高尾山口だよ。とにかくよかった。7サミッツの7つのピークは全部辿ることができなかったけれど、なんとか無事に南高尾山稜コースを歩きとおすことができたよ。 
 今日、みみ爺は心の中で何度叫んだことだろう。「もうだめだ」「もう登れない」と。
でもよく頑張った。お疲れさん、みみ爺。
 明日から2、3日は筋肉痛で苦しむんだろうなあ。
 あ~あ、きつかったあ~!でも本当に楽しかったあ~!



高水三山へ みみ爺一人山歩き              2019年12月24日 火曜日

2019-12-30 14:58:30 | ハイキング
 何年か前から、いつか登ってみたいと思っていたのが青梅市にある高水三山だ。
 今日はクリスマスイブだ。暮れも押し迫ってきて、山はかなりの寒さに違いないが、まだ雪は積もっていないだろう。
 昨日の雨も上がり、朝から青空が広がっているよ。
 奥多摩線の軍畑に着いたのはもう10時近い。家を出てから3時間近くかかったよ。




 駅を出て、左の細い道を行くと、すぐに小さな踏切がある。
 この踏切を渡るよ。奥多摩線は単線なんだね。



 踏切を渡ってさらに進むと、県道193号に出た。
 県道を向こう側へ渡って、歩道を行く。車はほとんど走っていないが、安全のためだよ。



 平溝川に沿って緩やかな勾配の坂を上って行く。平溝川のきれいな水の流れる姿と、その水音を楽しみながらのんびり歩く。雨上がりで空気が澄んでいて、とても気持ちがいい。





 右側の歩道が途中でなくなったので、左側へ渡り、高い擁壁の下を行く。



 道しるべの、高水山、岩茸石山と指すほうへ、左の道へ。





 さらに平溝川に沿って行くよ。道の勾配にあわせるように、流れも速くなってきたね。心地よい水音も一段と大きくなってくる。





 大きな石碑がある。高水山登山道入り口と標示もある。道はさらに細くなり、勾配が増してくるよ。





 すぐに高源寺山門が見えてくる。



 曹洞宗高源寺本堂だ。静かな佇まいだね。



 高源寺のすぐ横にあるお堂は天之宮神社だ。



 高源寺を過ぎると、道の勾配が急にきびしくなった。丸い滑り止め模様が施されたコンクリート舗装の路面に変わったよ。



 大きな堰堤が現れ、その横の急な階段を上がるんだ。息が切れるほど急で、長い階段だよ。





 堰堤の後ろ側には雪が残っている。昨日か一昨日に降った雪だろうか。空気が急に冷たくなったような気がするよ。



 階段を上り、さらに進むと、道はいよいよ山道だ。
 念のため熊よけ鈴をリュックに下げる。百円均一で買った大きな鈴が二つだ。音色はいまいちだが、音量だけはかなりのものだよ。





 そこここに朽ちた倒木が転がっている。
 危なっかしい小橋を渡る。



 大きな石や岩でゴツゴツした急勾配の道になった。両手も使って這い上がるように登っていくんだ。手も使わないとバランスを崩してしまいそうだよ。



 日陰の斜面にはまだ雪が残り、道はぬかるんでいるよ。



 空が真っ青だ。飛行機雲だよ。なんてきれいな空なんだ。



 杉や檜の植林地帯を登っていく。足元は根っこの階段だ。



 中央左にスカイツリーが見えているよ。



 急な山道、急な階段、根っこの浮き出た急斜面が続く。







 おや、七合目とある。



 そして八合目。



 さらに植林の中を行く。



 道しるべがしっかりあるので迷うことはなさそうだね。



 ぬかるんだところもある。これ以上雪が深くならなければいいね。



 九合目だ。あと少し。



 道の勾配が少し緩やかになったよ。もうすぐ山頂かな。ずいぶん急な上りだったね。





 常福院の山門だね。石段前には杉と檜の巨木が3本そびえているよ。





 山門の扁額には、高水山と書かれている。



 常福院の通称は、高水山不動尊というようだ。真言宗の寺院だ。開創は9世紀(801年~900年)の頃とされている古刹だよ。
 正面には開運守護の剣が飾られている。


 
 この不動堂前に鎮座する狛犬が、珍しい和犬の石像だよ。たれた耳がなんともかわいらしいよ。





 不動堂の裏手から、道しるべにしたがって登っていくよ。



 山の斜面の北側には白く雪が残っているね。肌を切られるような空気の冷たさだよ。



 解けかかった雪でぬかるんだ道を進むと、まもなく高水山の頂上にたどり着いた。





 葉を落とした木々の向こうに青い山並みが眺められる。





 先に登ってきて休んでいる女の子がいたよ。
「こんにちは。空気が冷たいですね」
「お疲れ様、寒いですね」
 と、女の子は笑顔で答えた。顔全体に優しい表情があふれている。
「雪がずいぶん残っていますね」
「ええ、下りは滑りますよ」
 と、印象に残る優しい笑顔だ。
「アイゼンでも持っていればいいけれど、…まだ、それほどでもないね」
「そうですね」
「お先に」
「お気をつけて」
 バーナーで湯を沸かしていたみたいだ。コーヒーでも入れるのかな。
 今日はクリスマスイブなのに、女の子は一人で登ってきたようだ。よほど山歩きが好きなんだね。
笑顔がとてもステキだったよ。
 高水山の山頂付近は雪で道が定かではなかった。道を探しながら、水分の多い雪を踏んでゆっくりと進む。滑らないように一歩一歩慎重に。





ここでもまたゴツゴツした岩の道を登る。両手を使ってよじ登るほどの急な勾配だよ。



 稜線に出たよ。そろそろ岩茸石山の頂上かな。



 とても眺めのいい山頂だ。ただ、すごく寒い。北側の斜面からは、冷たい風が吹き上げてくる。









 山頂には見た限り石のベンチが一つあるだけだったよ。そのベンチには、先に登ってきた男性が一人休んでいた。
 山頂の地面は雪と溶けた水で濡れていて、リュックを下ろすところが見つからない。きょろきょろ周囲を見回していると、男性はベンチいっぱいに広げていた荷物を少し片付けて、場所をあけてくれたよ。ありがたいね。
 みみ爺は場所をあけてくれたベンチの隅にリュックを下ろし、近くにあった一抱えほどの石の陰にバーナーをセットして、インスタント味噌汁用に湯を沸かし始めた。
 バーナーの青い炎に手をかざして暖を取っていると、みみ爺が登って来た道とは反対の惣岳山側から、女性が一人登って来たんだ。
 女性はあきらかにみみ爺の顔を見てニコニコしている。おやっ、誰だろう、と思った。水色のヤッケ姿だ。見覚えがあるような気がする。
「さっきお会いしました」
 と、女性は言う。
「おや、あなたでしたか」
 高水山の山頂で会った女の子だったよ。高水山側からではなく、惣岳山側から登ってきたので、それがわからなかった。
「反対側から登ってきたので、わからなかったですよ。どうしてこっちから?」
「道がよくわかりませんでした。いつの間にか違う道を歩いていたんですね」
 女の子は明るく笑って言う。岩茸石山の山頂を迂回する巻き道へ入ってしまったために、反対側の惣岳山側から登ってきたのだ。
 女の子は、山頂の北側の縁に転がっている丸太に積もった雪を手で払って、その上にリュックを下ろし、ここでもバーナーで湯を沸かしはじめた。湯が沸くまでの間、景色を写真に収めている。
 みみ爺はおにぎりを食べ、コーヒーを入れて飲んだが、寒さがしだいに深く体にしみ込んできて、指先もかじかみ始めた。

 しばらくして、女の子は先に出発した。
「寒いです」
 と、みみ爺にニッコリと笑顔を見せて、さっき登ってきた道を、ふたたび惣岳山の方へ降りていく。
「気をつけてね」
「はい」
 女の子の姿が見えなくなってからしばらくして、みみ爺も寒さに我慢しきれず、かじかむ手で荷物を片付けて立ち上がった。
 頂上にまだ残っている2、3人に、
「お先に」
 と挨拶して歩き始めたよ。



 ここから石や岩だらけの急な道を下っていく。
 足が、どうしたのか、なんだか自分の足ではないような感じだ。自分の意思とは関係なく、足が勝手に動いていくという具合なんだ。しかも、躓いたり滑ったりしそうになる。長い時間休んでいたせいか、足がまだ急な下りの山道になじんでいないのかもしれない。危ない、危ない。



 堆積した落ち葉の下がどうなっているのかわからない。慎重に足を運ぶ。



 道しるべに出会うとホッとする。このコースは道しるべがしっかりしているのでいい。





 気持ちのいい尾根道だよ。だいぶ歩いて来たので、寒さはもう感じない。





 御岳駅まで「関東ふれあいの道」なんだね。駅までの距離も刻まれている。





 また、この辺は雪が残っているよ。



 植林が広く伐採されて明るいところに出たよ。景色の眺めもいい。





 この岩場を登るのか!
 頭上に覆いかぶさってくるような岩場だよ。



 岩場を登ると、三つ目の山頂だ。杉や檜に囲まれて展望がなく、暗い感じの山頂だよ。ひっそりとして誰もいない。



 山頂にあるのは青渭神社奥宮だね。



 三つ目の惣岳山をあとに道を下っていく。もう雪の心配もなさそうだ。



 手入れされた植林の中を行くよ。なんだかとても気持ちのいい道だよ。







 足元の木の根には気をつけよう。疲れている足がけつまずきそうになる。





 ここはきれいな尾根道だ。



 と思うとまたこんな道。





 だいぶ歩いて来た頃、一つ目の鉄塔が見えてきたよ。



 そしてまた木の根の階段だ。





 ここはいい。



 二つ目の鉄塔だ。鉄塔は全部で三つあるはずだよ。



 木の根の階段を下る。





 三つ目の鉄塔だよ。ようやく下界が見えて来たね。



 三つ目の鉄塔は下をくぐるんだね。



 さあ、もうすぐだ。





 慈恩寺の裏手の墓と本堂の屋根がすぐ下に見えるところまで来たよ。



 やっと下りてきたね。



 踏切をわたって右へ行けばすぐ御岳駅だ。



 お疲れさん、みみ爺。
 楽しかったね。寒かったけれど、岩茸石山山頂からの展望はすばらしかった。
 それと、山中で思いがけなく、女の子の印象的な優しい笑顔に出会えたことでも、記憶に残る山歩きになったよ。

ふたたび群馬県の限界集落・南牧村へ行った    2019年11月3日 日曜日

2019-11-11 08:13:26 | ハイキング
 5月に訪ねてから半年振りだ。南牧川の川筋を辿って歩く。とてもワクワクする。
 歩くのは、もちろん、車の頻繁に通る県道側ではなく、川を挟んだ対岸に続く裏道だ。
 5月に来たときは、民宿月形園から道の駅オアシス南牧までは歩いた。今回はその先も含めてすべてを歩く考えなんだ。
 今日は下仁田駅から南牧村の月形園まで歩き、明日は同じ道を引き返す計画だよ。
 なぜそんなに南牧川にこだわるのか。5月に来たときの南牧川の美しさと、川沿いのその道の静かな雰囲気がたまらなく気に入ったからだよ。




 上信電鉄・下仁田駅に着いたのは昼少し前だ。
 着いたらまず、タンメンと餃子を食べようと決めていた「一番」というラーメン店へ向かったが、今日はあいにく休みだったんだ。
 さてそれではどこの店に入ろうかと悩んでいたときに、地元の人に「きよしや食堂」を教えていただいた。
 教えていただいた道を行ってみると、店の前にはすでに人が並んでいた。この店はカツ丼が人気のようだ。
 店に入ると、自分たちも人気の「下仁田カツ丼」を頼んだんだ。
 どんぶりのご飯の上に、上州豚肉のカツが贅沢に2枚ものっている。肉はとてもやわらかく、味は申し分ない。人気店のわけがわかる。



 カツ丼に満足し、店を出て路地を進むと、こんな六地蔵があった。龍栖寺というお寺のようだ。手を合わせ、旅の安全をお願いして歩き出す。
 さあ、出発だよ。南牧村の民宿・月形園まで、10キロほどの道のりだ。



 八千代橋からの鏑川の景色だよ。



 さらに道を進む。左の大きな塊は大崩山というらしい。



 いよいよ県道を離れ、南牧川をはさんで県道と平行して続く裏道へ入るよ。車もバイクも入ってこない静かな道だ。



 少し行くとこんな水場があったよ。山の水だろうがあまり冷たくない。



 とてもいい感じの古い吊り橋だが、すでに橋面の板が落ちている。



 静かな道は続く。対岸の県道を走る車の音もほとんど聞こえてこない。





 古い庚申供養塔がある。年月を感じさせるね。



 11月に入ったので紅葉も始まっているだろうと期待していたが、今年は気温の高い日が続いていたせいか、山の上の方で葉の色がいくらか色付いてきているくらいだ。



 段差を勢いよく落ちる本流の向こうに見えるのは魚道というのだろうか。あんな急流を魚は遡上できるんだろうかね。



 南牧川の水の色は、5月に見たときとは違う。まだ台風の名残が消えてはいないようだ。とても濁っているよ。最初に見た鏑川の水の色とはぜんぜん違うね。



 養蚕が盛んに行われていた頃を偲ばせる造りの家が多く見られる。今は養蚕はおろか、人も住んでいない家が多い。



 道の舗装は切れて、土混じりの砂利道に変わった。左手は崖のような急斜面に杉の木が立ち並んでおり、下のほうに南牧川の急流が見え隠れしている。道の端が崩れそうで怖い。山側によって歩く。





 700~800メートルも歩いたろうか、ようやく未舗装の暗い道を抜けてホッとしたよ。





 台風の雨で崩れたのか通行止めとなっていたけれど、横をすり抜けて通った。



 水は相変わらず濁っている。地元の人にきくと、
「こんなことは今までになかったね。いままでは濁っても水はすぐにきれいになったよ。こんなことは珍しい」
 と、腕組みをして流れを見ている。





 見覚えのある美容室があったよ。
 月形園のおかみさんのお姉さんとご主人が笑顔で出てきた。
「お茶を一杯飲んでいってください」
 しきりに勧める。
「怖かったですね。水と一緒に石がごろごろ転がる音が響いてくるんですよ」
 台風の大雨で南牧川の水かさが増したときの様子をそう語った。
「水は川幅一杯に、道のすぐ下まで来ていました。この辺の人はみんな避難したんですが、私たちは家の横の川がいつ溢れるか心配で家にいたんですよ」
 家のすぐ横に、山から急流で流れてくる細い川があり、家の前の南牧川に落ちている。 
「いつでもすぐ避難できるように車にいろいろ積み込んで様子を見ていたんですよ」
 30分ほどお邪魔して失礼すると、ふたたび歩き出したよ。距離はまだ半分もある。暗くならないうちに宿に着きたい。

 小沢橋から道は黒滝山のほうへ向かう県道202号に合流するが、500~600メートルほど行ったところで大塩沢川に架かる小さな橋を渡ると、また南牧川に沿った道にもどる。
 その橋の手前に、「住吉の滝」という道標があったので降りていくと、岩の間を落ちている滝があったよ。落差はおよそ5メートルと小さいが勢いがあり、水の音も静寂を割るすさまじさだった。「南牧村滝巡り」ガイドのパンフレットにも載っている滝の一つだ。



 足が少し疲れた頃、先方に14%勾配の上り坂が現れたよ。



そして同じ勾配の道を今度は下り、夕暮れせまる静かな景色の中を行くよ。



 5月に来たときにはちゃんとあった橋だが、台風の大雨に壊されたんだろうか。



 対岸の県道には車やバイクがものすごいスピードで走っていく。しかしこちらへはその音もほとんど届かない。とても静かだ。



 安養寺の六地蔵だよ。



 県道へ渡る橋だ。人は通ってもだいじょうぶそうだね。



 橋の上から上流を望む。だいぶ暗くなってきたよ。



 県道側の橋の袂が崩れていた。なるほどこれが通行止めのわけだったんだね。



 大日向の県道はすっかり日が暮れて暗くなっている。
 虹の大橋を渡れば民宿・月形園はもうすぐだよ。





 「お疲れ様。先回りしていましたよ」
 先ほどお会いした月形園のおかみさんのお姉さんが笑顔で迎えてくれた。そのあとでおかみさんもニコニコした顔を見せた。元気そうでよかった。
 きれいな部屋に通された。コタツが用意してあったのはうれしい。



 夕食はやっぱりすばらしい。おかみさんとおかみさんのお姉さんの、温かい心のこもった手料理だよ。
 おっ切り込みうどんも、鮎の塩焼きも、上州豚肉もとてもおいしい。
 柚子味噌をつけて食べたえび芋はみみ爺にはじめてだった。大きな花豆は甘くやわらかく煮てある。
 ずらりと並んだお料理はすべて上品な味付けで、濃くも薄くもない。家内とおかみさんの料理話はいつまでも尽きることがなかった。



 もちろん翌日の朝ごはんも言うことなしだ。なかなか手に入らないという山くらげは噛んだときの触感も味付けも特別だったよ。
 みみ爺は若い頃、塩鮭の細い骨がのどに刺さって、自分ではどうにもならず医者にとってもらったことがあるんだ。それ以来鮭の切り身はどうも苦手になった。家で食べる鮭の切り身には必ず隠れている細い骨があるのに、この塩鮭には不思議と骨が一本も隠れていない。やわらかくて味のしっかりした美味しい鮭だ。焦げ目もなく、どうしたらこんなふうにおいしく焼けるのか不思議だよ。
 それに、ベーコンエッグに野菜サラダ。たっぷりのおかずでご飯が進む。
 やっぱり月形園の食事は最高だよ。





 昨日は曇っていたけれど、今朝は晴れて青空だ。
 今日もまた同じ道を駅まで歩くつもりだよ。昨日とはまた違う景色が見られるだろう。
 おかみさんとおかみさんのお姉さんに見送られて出発したよ。



 民宿の前、川向こうの姿の良い2本の銀杏の木はほんの少し色付いてきていた。
すっかり黄葉するのももうすぐだろう。



 空気はかなり冷たい。



 虹の大橋から西の空を見ると、空に槍を突き立てたような碧岩、大岩の姿が目を引く。



 川は相変わらず今日も濁っている。おかみさんも言ってた。
「こんなにいつまでも濁りが取れないなんてことは一度もなかったですね」



 昨日渡った通行止めの橋だ。この橋の上からも碧岩、大岩がきれいに見えるよ。





 昨日は寄らなかった安養寺だよ。そして昨日も見た六地蔵。





 5月に来たときもこの場所で同じ景色を写していたが、そのときの写真と比べてみてもやはり水の色が全然違う。いま目の前の川の姿はなんとなく殺伐としている。



 それでもこの道を歩くのは楽しい。南牧川を包んだ景色が次々と変化するんだ。飽きることがないよ。





 これもかつて養蚕が行われていた家だね。今は誰も住んでいないようだよ。



 いい道だなあ。







 道の真ん中に蛇がいたんだ。小石を投げたり、地面をけったりして驚かそうとしたが、まったく動く気配がない。仕方なく、道の端を恐る恐る通ったよ。家内はもちろんみみ爺もおっかなびっくり。蛇は嫌いだ。



 このあたりからは未舗装の山道になる。それこそまた蛇に遭遇しそうでなんとなく怖い。





 杉木立の斜面の下には南牧川の濁ったの水面が見えるよ。滑り落ちないように山際をそろそろ歩く。





     (未舗装部分は西北西側から山が迫ってきているあたり)



 案内板のそばに地元の人がいた。説明してくれたが、素人にはなかなかわからない。







 その人は高崎に仕事と家があり、
「休みにはこの近くの実家にもどってきているんですよ」
 指差す方を見ると対岸の県道側に家々の屋根が密集している。
「たくさん家があるんですね」
 と家内。
「家はあっても人がいないんですよ」
 ほとんどが空き家になっているという。
「子供たちは町へ出て行って、ここに残され年をとった親たちも自然にいなくなる」
 自然にいなくなる、という言葉には悲しい響きがこもっている。

 流れは濁っているけれど、景色はとてもいいよ。行きと帰りではまた景色も違う。







 5月に来たときに岩の上でおにぎりを食べた青岩公園だ。岩の上には台風の大雨で流されてきた大小の石がのっかっているよ。大雨の川の水は、巨大な岩を呑み込むほどだったんだね。







 昼少し前に下仁田の町に着いた。電車に乗る前に駅に近い「コロムビア」という店で食事をした。帰りには必ずここへ寄ろうと決めていたんだ。テレビドラマの「孤独のグルメ」という番組に出てきた人気店だ。この店も常に行列ができているそうだよ。
 一番人気の上州豚肉のすき焼きだよ。値段もリーズナブルだ。





 次に来るときは、昨日食べられなかったラーメン店「一番」のタンメンと餃子をぜひ食べたいね。

 みみ爺が勝手に決めたハイキングルート。歩いてそれほどきつくもなく、そして決して飽きることのない景色がつづく。そんな南牧川の川筋に沿って歩くルートはとても楽しかったよ。



群馬県の限界集落・南牧村へ行った。         2019年5月3日 金曜日

2019-05-13 17:54:39 | ハイキング
 蝉の渓谷。





 5月連休の後半、高崎線、上信電鉄、南牧ふるさとバスを乗り継いで、みみ爺は家内と一緒に南牧村を訪ねたんだ。去年の秋、自転車仲間の一人と御荷鉾スーパー林道を走る前日に一泊した民宿へもう一度行ってみたいと思ったのと、美しい渓流の南牧川沿いの道を自分の足で歩いてみたいと考えたからだよ。



 下仁田駅から小さなマイクロバス(南牧ふるさとバス)に乗って、「蝉の渓谷」まで来た。





 観光パンフレットに紹介されているとおり、見ごたえのあるみごとな渓谷だったよ。





 蝉の渓谷をあとに、県道を歩いて下っていく。とにかく今回はなるべく歩くつもりで来たんだ。
 山は新緑に覆われている。川はとてもきれいだ。





 集落の姿は素朴でとてもいい雰囲気だね。しかし人の姿が見当たらない。
 南牧村は日本一高齢化の進む限界集落だ。テレビのニュースか何かでそんなことを報じていたのを思い出しながら眺めると、5月の日ざしをいっぱいにあびている明るい集落の景色がどこか淋しい。



 民宿の近くの川沿いの崖の上にあった庚申塔だよ。旅情を感じるね。



 民宿・月形園のお風呂は二階にある。大きな窓の外には南牧川のきれいな姿を見下ろすことができるんだ。宿に着いてすぐそのお風呂に入り、夕食までの時間河原へ降りてみたよ。南牧村には、夏場、子供たちの水遊びができるスポットがたくさんあるというパンフレットの案内が納得できる。





 宿の夕食は、低料金の民宿とは思えないほどの品数があり、とても豪華だよ。
「今日は特別に多いんですよ」
 と、おかみさん。
「おお~っ!」
 私たちのほかにオートバイのツーリングで来ていた若い人たちの声だ。



 このほかに郷土料理の「おっきりこみうどん」というのがつく。これがまたとてもおいしい。



 みみ爺は全部食べ切れなかった。残した料理をオートバイ・ツーリングの若い人たちに食べてもらったんだ。
「いただきま~す!」
 気持ちよく引き受けてくれたよ。
 料理の味付けはどちらかというと薄味だが上品な味付けでとても美味しい。
 こちらの民宿は、おかみさん一人で切り盛りしているということだった。子供たちは東京へ出てしまっているそうだよ。しかし、忙しいときには近くに住むお姉さん夫婦が手伝いに来てくれるという。今日も来てくれている。とてもてきぱきとした気さくなお姉さんだよ。
「南牧村のよさがもっと広まって、お客さんがたくさん来てくれるといいですね」
「たくさん来てくれなくてもいいわよ」
 本業を持つお姉さんは笑いながらいう。

 部屋は、テレビのある居間とは別に隣に寝室が用意してあった。もちろんシーツや枕カバーは清潔で、布団も温かい。ゆっくり休むことができるよ。
 村に現れる動物たちの話が出たとき、
「鹿の鳴き声は、何というかもの悲しく聞こえるんですよ」
 と、おかみさん。
 秋に来たとき、みみ爺はその声を聞くことができたけれど、今回はぐっすり眠ってしまって聞くことができなっかた。

 翌朝、宿の前の河原に立つ二本の銀杏の木を見ると、萌え出たばかりのやわらかな色の新緑に包まれていたよ。秋に見たときは、きれいに黄葉していてとても美しかった。形のいい姿をした銀杏の木なんだ。



 今日は南牧川に沿って下仁田の町まで10キロほど歩いていくつもりで宿を出たんだ。昨日に引き続きとてもよく晴れているよ。



 県道を歩かなければならない箇所が二つほどあるが、それは数百メートルほどで、あとは県道とは川をはさんで反対側の、ほとんど崖伝いに続く静かな道だよ。県道と違い、車はまったく来ない。どこまでも続く渓谷のような南牧川の美しい景色を右手に眺めながら歩くことができるよ。



 みみ爺は、とにかく南牧川沿いを歩きたいと、以前から思っていたんだ。





 低いガードレールが一本あるだけの、崖っぷちにずっと続く道なのだ。まるで渓谷といってもいいほどに美しい流れに見とれて足を運んでいると、ついガードレールすれすれを歩いていて怖い思いをする。







 岩山も新緑に包まれている。



 すばらしい景色だね。



 道の駅に寄るために県道側へ橋を渡る。かなり古い橋で渡るのがちょっと怖い。



 どこまで行っても渓谷のようなきれいな南牧川だ。



 道の駅「オアシス南牧」には連休ということもあって、たくさんの観光客が訪れていた。ほとんど車できている人たちだ。
 道の駅を出て、しばらくのあいだ県道を進み、対岸へ渡るために次の橋を渡って歩いていると、不意に後ろから女性の声に呼び止められた。振り返ると、民宿のおかみさんのお姉さんだった。
「そろそろ通るかと思って待っていたんですよ。ちょっと上がってコーヒーでも飲んでいってください」
 道を急いでいたけれど、お姉さんの親切を断るわけにはいかない。
 こざっぱりしたまだ新しい美容室内のテーブルで、ドリップ式で本格的に入れてくれた美味しいコーヒーをいただいた。
「結局仕事がないから若い人たちはみんな都会へ出て行っちゃう」
 南牧村では、移住を希望する若い人たちを呼び込むために、空き家を新築物件のようにリフォームして、驚くほどの低い賃貸料で貸すなど、いろいろと考えているようだ。
「移住してくる若い人もいるんですよ。でも、なかなか周囲と馴染めないでまた出て行ってしまう方もいます」
「どんどん若い人が入ってきてくれるといいですね」
「そうですね」
「いいところだと思うんですけどね」
「何も無いところですよ」
「何も無いところがいいんですよ。何か昔の日本の姿があるようで」
 と、家内。
「それはそうですね。原風景といいますか、そういうのはありますね」
 と、お姉さん。
「秋にまた来たいと思っています」
「秋はきれいですよ、紅葉が」
 お姉さんは手作りのウドの味噌づけを出してくれた。ヨウジで刺していただくととても美味しい。家内はその作り方を熱心に聞いている。
「ウドは道の駅に売っていたんですけど、買ってきませんでした。どこかで見つけてぜひ作ってみます」
 家内が言うと、お姉さんは急に立ち上がって、どこかへ電話かけた。
 それからしばらくすると、ニコニコと優しそうな笑顔を見せながら男の人が入ってきた。お姉さんのご主人だという。手にはビニール袋を提げている。
「ウドを買ってきましたよ」
 お姉さんはご主人に電話をしたのだ。こちらの気持ちを聞くこともなく、すばやく手配してくれたお姉さんの行動はてきぱきとして驚くほど早い。
 ご主人が、ウドと一緒に買ってきてくれた、胡桃が上にのった美味しい蒸しパンをいただいていると、お姉さん夫婦はいろいろな話をしてくれた。
「最近この近くで空き家の火事が何件もおきているんですよ」
「付け火でしょうか」
「そうですね」
「ついこの間もすぐそこで」
「怖いですね」

 それからも、とりとめもなく話し込んでいるうちに、いつのまにか小一時間近く過ぎてしまった。
帰りの電車のことも気になるし、下仁田駅までまだ6キロほど距離がある。みみ爺と家内はお礼を言って出発することにした。
「駅の方に用事があって出かけるので、一緒に車に乗っていってください」
 お姉さんの申し出に戸惑ったが、せっかくそう言ってくれたので、
「それでは青岩公園までお願いします。そこで作っていただいたおにぎりを食べようかと」
 ご主人は笑顔で、先ほどの美味しい蒸しパンが入った袋を出して、
「これもどうぞ持っていってください」
 と、持たせてくれた。あまりにいろいろと気を遣ってくれるのでみみ爺たちはすっかり恐縮してしまった。
 お姉さんの運転する車に乗ると、あっという間に道を下って下仁田の町に近い青岩公園についた。
「いろいろと本当にありがとうございました」
「それでは気をつけて」

 暑いほどの日差しが降り注ぐ巨大な青い色の岩の上で宿で握ってもらったおにぎりを食べながら、
「お姉さん、私たちを呼び止めて時間をとらせてしまったので、気を遣って車で送ってくれたのよ」
「そうだね、近くに用事があるなんて言って」
「民宿のおかみさんも、お姉さんも、お姉さんのご主人も、いい人たちね」
「月形園、よかっただろう」
「秋にまた来たいわね」
「秋にまた来よう」



 駅に向かう途中、民宿の料理に出てきたこんにゃくを買って帰るため、教えてもらったお店を探した。
「下仁田で一番美味しいこんにゃくを作っているお店なんですよ。でも、そのお店は今月いっぱいで閉めてしまうんです。残念ですけれど」
 と、おかみさんもお姉さんも口をそろえて言った。
 下仁田の町をうろうろしてようやくその店を見つけた。大きな店だった。
「残念ですね。こちらのお店が一番美味しいこんにゃくを作っていると聞いて来たんですよ」
 みせにいた店員風の若い女性はちょっと返事に困った様子だったよ。

 無事に帰りの電車に乗った。
「秋にまた来ましょう」
 家内はさっきと同じことを繰り返す。みみ爺も同じ考えだ。
 とにかく南牧川が美しい。次に来るときは、今回ひょんなことで実現できなかった道の駅から下仁田までを必ず歩こうと思った。
 南牧村の民宿から下仁田の町までの南牧川沿いの道、県道側ではない山側の崖に沿った道を歩く。それだけでもすばらしいハイキングだとみみ爺は思う。
 南牧村にはすばらしい山や滝がたくさんある。山登りや滝巡りももちろんいいが、美しい南牧川に沿ってのんびとり歩くのも、距離も手距ごろだし、これはこれでかなりいいハイキングコースだよ。






 南牧村には何もないなんてとんでもない。山も滝もたくさんある。美しい南牧川があり、おまけに温かい人情もたくさんある。南牧村はすばらしい。
 頑張れ南牧村!頑張れ月形園!

ハイキング                  2019年4月7日 日曜日

2019-04-16 09:28:30 | ハイキング
 数年前から花粉症になってしまったみみ爺はこの季節がとてもこわい。外に出ると、杉の枝先にびっしり付いた赤茶色いの花粉にどうしても目が行ってしまう。マスクをして自転車に乗るのがいやで、しばらくはどこへも出かけていないんだ。
 そんなときだ。自転車仲間のBさんからハイキングのお誘いがあった。私と同じように花粉症のIWAさんも同行すると言う。ハイキングならマスクをつけていれば大丈夫だろう。

 秩父鉄道の三峰口から道の駅「薬師の湯」までタクシーに乗り、そこから歩き始めたんだ。目的地は秩父観音霊場札所31番観音院とその奥にある観音山だよ。
 道の駅「薬師の湯」から歩き始めてすぐ、古い山門が現れたよ。真言宗の寺、法養寺の山門だ。



 山門もさることながら、その先の薬師堂も見事だったよ。まさに古刹と言うにふさわしい。室町時代末期の創建だからかなり古いね。
 日本三体薬師の一つに数えられているそうだよ。日本三体薬師とは神奈川県の日向薬師、愛知県の鳳来寺薬師、そしてこちらの法養寺薬師。
 本尊の薬師如来は、別名目薬師とも言われ、目の守り神としての信仰を集めているそうだ。なるほど、それで「めめ」と書かれた絵馬やたくさんの千羽鶴が下がっているんだね。
 薬師堂と、IWAさんの向こうに見える石の七重の塔は指定文化財ということだ。
 人々の苦しみや願いの詰まったこのような古刹に出会うと、なぜか心が引き締まる思いがするね。



 県道37号から、巡礼道になっている古道を行くと、小森川支流の薄川に架かる木橋があった。静かな山の中、雰囲気のある木橋だね。欄干のないこの橋は沈下橋だろうか。高麗川流域にいくつも見られる沈下橋と似ているね。
 橋の感触を味わうようにゆっくり歩いていくのはIWAさんだ。
「下が見えますよ」
 と、振り返って注意を促してくれる。
「おっと!」
 足元を見ると、板の一部が割れていて、その隙間から下の水面が見える。



 川は、きれいな水が細くひっそりと流れている。この川の上流では本格的な渓流釣りができることで有名だ。



 木橋を渡り、落ち葉の急な坂道を登る。
 こうして山道を歩くのは久しぶりだよ。落ち葉を踏む感触がとてもいい。



 県道279号へ出て、みごとな枝垂桜のある分かれ道を、「31番観音院⇒」という案内に従って左へ。この先の緩やかな坂道のピークが権五郎落峠だろう。



 権五郎落峠を越え、なだらかな傾斜の山里道をしばらくのんびりと歩き、赤平川を渡る。
 橋の下には水の少なくなった細い流れが冬枯れた木々の中を、上流の方(志賀坂峠)へ続いている。



 国道299号をそれ、静かな巡礼道を進む。のどかな道が続くよ。



 赤い欄干の橋の向こうに、「たらちね観音」の小さなお堂が見えるよ。桜の花もとてもきれいな色をしている。
 たらちねとは、短歌に用いられる母あるいは親にかかる枕詞だね。昔教わったような気がする。
 たらちねの母が釣りたる青蚊帳を~
 長塚節の歌にあった。
 このたらちね観音の光珠院は母と子の未来永劫の幸福を祈願して開山されたそうだ。



 さらに進むと、今度は母と子の悲しみがあふれた水子地蔵寺という寺の前だ。
 数えきれないほどたくさんのお地蔵様が、見渡す限りの周囲の山の斜面を覆う。
 晴れていて明るいけれど、何か空気が重く感じられる。
 山の斜面を覆うお地蔵様の数は14000体あるそうだよ。
 これだけたくさんの水子たち、そしてその同じ数だけいる母たちの悲しみが、周囲の空気を重くしているのかもしれない。
 みみ爺の娘も水子をひとり持っている。
 娘は、ようやく人の形がうかがえるようになったばかりの小さな子を流してしまった。初めてできた子だった。このときの娘の、深く傷つき落ち込んだ姿は今もはっきりと目に浮かぶ。幾日も幾日も黙って涙を浮かべる娘だった。







 秩父札所31番観音院の入り口に着いたよ。
 この鷲窟山観音院は、秩父34霊場のなかで最も険しい難所に建つお寺とされている。まさに秘境にある山寺ということだよ。



 山門には石造りの仁王様が2体。その大きさは、台座を入れると4メートルを超える。石造りの仁王像としては日本一の大きさだそうだ。
 険しい山道では観音山の石切り場から石を運び下ろすのも大変なことだったろう。





 山門をくぐったところから始まる石段の脇に、手助け仁王の巨大な手がある。この手形もまた日本一、「この仁王の手が一年間あなたの手助けをします」ということだよ。



 296段の長い石段を上る。般若心経276字と普回向20字の合計で296段になっているそうだ。
 標高差は53メートルというが、そんなもんじゃないだろうという気がするほどへとへとになって上った。



 ようやくたどり着いたよ。疲れたねえ。山道の上り坂は嫌いじゃないが、石段や階段はどうも好きになれない。
 石段を上り詰めたところに鐘楼があったんだ。
 IWAさんがみみ爺の前にその鐘をついた。大きな音が鳴り響いた。
 鐘をつくなら必ず参拝前にとあったので、みみ爺も鐘をつくことにした。あまり大きな音が出ないようにと、そっとついたつもりだったが、思いもよらぬ大きな音が響いたのでびっくりしたよ。余韻が消えぬうちにあわてて合掌した。



 正面の本堂の屋根の上に、背後から覆いかぶさるように大岩壁そびえているよ。山の上のすごいところにお堂を建てたものだね。秩父観音霊場の中で最も険しい難所に立つお寺という意味がわかるね。
 本尊は聖観音像で、奈良時代のものらしい。



 本堂の左後方にある60メートル以上高くそびえる断崖は、雨が降ると“聖浄の滝”となる。見上げるほどの高さだよ。
 滝の下には不動明王が立っている。その昔、修験者の修行の場だったのだろう。



 手水舎の屋根の上辺りの崖の壁面に文字のようなものが刻まれている。写真ではわかりにくいが、「南無阿弥陀仏」という名号のようだ。
 崖の下に立つと、上から巨大な何かに押さえつけられるようで身が引き締まるよ。



 一行はここで思い思いに用意してきたおにぎりでお腹を満たし、観音山を目指した。
 岩廂の中の石仏群が見える。すごいところにあるなあ。





 みみ爺には恐怖の、杉林の急坂を登っていく。杉の枝にはまだ赤茶色の花粉が無数についているよ。



 一段一段が膝の高さほどもあるきつい階段を上り詰めると、下のほうに合角ダム湖が枯れ枝越しに眺められた。





 やっとのことで観音山の山頂に着いたよ。
 いい眺めだよ。もっと晴れていれば相当にいい景色だろう。
 眼下に見える川に沿って続く道を左へ行き、ちょうど山の斜面に隠れて見えないあたりに、秩父の名水“毘沙門水”があるはずだよ。去年の同じ頃、合角ダムから西秩父林道、土坂峠、下久保ダムと辿ったときに立ち寄った場所だ。BさんIWAさんはあの時も一緒だった。



 頂上を後に山道を下っていく先頭のBさん、そしてIWAさん。その後に続くのは博学の髭の断腸さんだ。断腸さんはしばらく体調を壊していたけれど、今はもうすっかり元気になったようだよ。よかった、よかった。



 ダム湖に架かる合角連大橋と、その先にダム堤がくっきりと眺められるよ。水の色もきれいだなあ。こうしてダム湖を上から見ることができてよかった。ここから見る合角連大橋もすばらしいね。



 くるぶしまで堆積した落ち葉の下り坂をIWAさんが下っていくよ。ザザッ、ザザッと落ち葉を踏む音が響く。これぞ山歩きだ。



 尾根道を間違え、行き止まりになった先の急斜面を、
「確かめてきます」
 と、BさんとIWAさんが枯れた木の枝や幹を伝いながら勢いよく下っていく。道のようで道ではないような急な斜面だ。
 50メートルほども下がった雑木の中でごそごそと動いている様子だが、どうやら二人は行き詰ったようだ。
「危ないから戻ってください!」
「道じゃないですよ!戻りましょう!」
 断腸さんとみみ爺が上から叫ぶ。
 しばらくして、二人は前後して斜面を這い上がってきた。
「だめでした」
 と、がっかりしてとても疲れた様子だったよ。

 その後も途中から道が不明瞭となり、最後は木の枝や根っこにつかまりながらほうほうの体で崖を下り人里にもどってきたよ。
 ここは乗馬もできるという牧場だ。



 Bさん、IWAさん、断腸さんの三人は疲れた様子もなく早足で歩いていく。みみ爺はともすると遅れそうになる。



 お墓の前のみごとな形の桜だ。



 もうこんな季節になったんだね。去年もこんなふうに屋根の上で泳ぐこいのぼりをどこかで見た。あっという間にまた一年が過ぎてしまった。
 この5月には、みみ爺はいよいよ70歳を迎える。…しかしまだまだ負けるもんか。いろんなところへ行くぞ。
 今日は久しぶりに山歩きをして楽しかったよ。Bさん、IWAさん、断腸さんありがとう。



                 (もっと詳しい情報や画像、ルートはBさんのブログ「百尺竿頭/B」をごらんください)