臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

島田幸典作『駅程』所収作鑑賞(其の9)

2016年08月15日 | ビーズのつぶやき
○  つつましき音を立たせて水はカバンに揺るる昼の市バスに

 「思わざる綾」という九首連作中の三首目の作品であるが、三句目中の「水」に「エヴイアン」とのルビが施されているので、三句目は「エヴイアンは」と読むのである。
 ところで「エヴイアン」とは、世界的に有名なあの「エビアン」、即ち「フランス・ダノン社のミネラルウォーターのブランド名」で、我が国に於いては、その製品=ミネラルウォーターがダノン社と提携した伊藤園と伊藤忠商事との合弁会社から一手販売されている。
 思うに、作者は普段からエビアンを愛飲していて、京都市営バスに乗って何処かへ出掛けようとした、この日の「昼」も、ペットボトル入りのエビアンを「カバン」に入れていたのであり、それは飲みかけの状態で「カバン」に入っていたのでありましょう。
 そのエビアンが、彼の乗った「市バス」がかすかに揺れるにつれて、ポトポトと「つつましき音を立たせて」揺れるのでありましょうが、作者の彼は、その「つつましき音」に親しみを感じ、エビアンというミネラルウォーターに我が身を委ねていることにささやかな安息感を覚えたのでもありましょうか。
 私たち本作の読者は、この一首から、この日の「昼の市バス」車内の静寂と共に、エビアンというミネラルウォーターに親しみを感じ、それを常飲しているが故に自分の健康に満足感を覚えている作者の、京都大学大学院の教授らしからぬ側面をも感得するべきでありましょう。


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