少しずつ月を喰らって逃げている獣のように生きるしかない
生きかたが洟かむように恥ずかしく花の影にも背を向けている
見ていれば違っただろう「つる草の一生」というドキュメンタリー
職歴に空白はあり空白を縮めて書けばいなくなるひと
異性はおろか人に不慣れなおれのため開かれる指相撲大会
この夏も一度しかなく空き瓶は発見次第まっすぐ立てる
ゆるしあうことに焦がれて読みだした本を自分の胸に伏せ置く
殴ることができずにおれは手の甲にただ山脈を作りつづける
くれないの京阪特急過ぎてゆきて なんにもしたいことがないんだ
ににんがし、にさんがろくと春の日の一段飛ばしでのぼる階段
鴨川に一番近い自販機のキリンレモンのきれいな背筋
草と風のもつれる秋の底にきて抱き起こすこれは自転車なのか
口笛を吹いて歩けばここに野の来る心地する 果てまで草の
羽虫どもぶぶぶぶぶぶと集まって希望とはその明るさのこと
ジャム売りや飴売りが来てひきこもる家にもそれなりの春っぽさ
パッチワークシティに暮らす人からの手紙や、ばらばらのチェスピース
水際に立ちつくすとき名を呼ばれ振り向くまでがたったひとりだ
走りながら飲み干す水ののみにくさ いつまでおれはおれなんだろう
情けないほうがおれだよ迷ったら強い言葉を投げてごらんよ
弟がおれをみるとき(何だろう)黒目の黒のそのねばっこさ
丁寧に電話を終えて親指は蜜柑の尻に穴をひろげる
電柱のやっぱり硬いことをただ荒れっぱなしの手に触れさせる
ドーナツ化現象のそのドーナツのぱさぱさとしたところに暮らす
ああここも袋小路だ爪のなかに入った土のようにしめって
よれよれのシャツを着てきてその日じゅうよれよれのシャツのひとと言われる
マネキンの首から上を棒につけ田んぼに挿している老母たち
いつも行くハローワークの職員の笑顔のなかに〈みほん〉の印字
雨という命令形に濡れていく桜通りの待ち人として
思いきってあなたの夢に出たけれどそこでもななめ向かいにすわる
目撃者を募集している看板の凹凸に沿い流れる光
ゆきのひかりもみずのひかりであることの、きさらぎに目をほそめみている
あと戻りできないフロアまで行ってそれでもすっぽかしたことがある
防ぎようのなく垂れてくる鼻水のこういうふうに来る金はない
唯一の男らしさが浴室の排水口を詰まらせている
相聞歌からほど遠い人里のわけのわからん踊りを見ろよ
なで肩がこっちを責めていかり肩が空ろに笑う面接だった
肩甲骨だって翼の夢をみる あなたはなにをあざけりますか
まだ長い間奏の途中なんだからアンコールって言うな 帰るな
こんなところで裸足になってしまうから自分のこともわからないのだ
裏山にぎんいろのふね降りてくる わたしはわたしをやめられますか
からんころんさっき遊んでくれていた飴姉さんがどこにもいない
行き止まるたびになにかが咲いていてだんだん楽しくなるいきどまり(2016.8.31)
「生きろ」より「死ぬな」のほうがおれらしくすこし厚着をして冬へ行く(2016.8.26)
あかぎれにアロンアルファを塗っている 国道だけが明るい町だ(2016.8.22)
この夏も一度しかなく空き瓶は発見次第まっすぐ立てる(2016.8.17)
他人から遅れるおれが春先のひかりを受ける着膨れたまま(2016.8.10)
目撃者を募集している看板の凹凸に沿い流れる光(2016.08.5)
おれだけが裸眼であれば他人事に眼鏡交換パーティー終わる(2016.8.2)
この海にぴったりとした蓋がないように繋いだ手からさびしい(2016.7.28)
草と風のもつれる秋の底にきて抱き起こすこれは自転車なのか(2016.7.25)
職歴に空白はあり空白を縮めて書けばいなくなるひと(2016.7.20)
献血の出前バスから黒布の覗くしずかな極東の午後(2016.7.14)
羽虫どもぶぶぶぶぶぶと集まって希望とはその明るさのこと(2016.7.11)
一語一語をちゃんと区切って話されてなにが大事なことだったのか(2016.7.6)
電柱のやっぱり硬いことをただ荒れっぱなしの手に触れさせる(2016.7.1)
満開のなかを歩いて抜けてきたなにも持たない手にも春風(2016.6.28)
リニューアルセールがずっとつづく町 夕日に影をつぎ足しながら(2016.6.23)
あすはきょうの続きではなく太陽がアメリカザリガニ色して落ちる(2016.6.20)
しあわせは夜の電車でうたた寝の誰かにもたれかかられること(2016.6.15)
螺旋階段ひとりだけ逆方向に駆け下りていくあやまりながら(2016.6.10)
少しずつ月を喰らって逃げている獣のように生きるしかない(2016.6.3)
死になさいって渡されているこの縄を わたしは飾ってしまう気がする(2009.5.6)
イチゴ・メロン・レモンのとなり ハワイに行く父に頼んだ青いくだもの(2009.12.4)
日本電波塔落成記念凧揚げ大会の、みんなまっすぐ(2010.3.5)
よりましな絶望に向かうだけなのに それをあなたは希望と呼ぶの(2010.2.18)
「ぬかったな、今宵は新月」路地裏に 忍者が待っていた美人局(2010.2.1)
イチローが一朗になる夕暮れに 老人たちのしずかな眠り(2010.1.22)
二千年前に誰かが生まれた日 きょうも豆腐に十字を刻む(2009.12.25)
えんえんと不遇ごっこのごっこを抜く夢を見ていろ春の城郭(2009.12.25)
氷山も漂流してみたい気分(そうか南も南で苦しい)(2009.12.24)
うちがわの仕事を終えた殺し屋とおれと冬三日月の直列(2009.12.22)
ほんとうの両親はどこと問いかけた夕やけ色のすべり台から(2009.12.16)
亡んだらまだよかったの全身であらゆる風を受ける樹になり(2009.12.16)
ひとすじの煙、の前はあなたでも一歩一歩とのぼってました(2009.12.13)
踏みだせばあっけなくって一歩目で最初の氷を割ることもある(2009.12.13)
激甘のココアを飲んで鼻かんでいつもに戻れたらもう行けよ(2009.12.7)
「いいでしょう白黒はっきりつけましょう」ごちんと牛乳瓶をまず置く(2009.11.22)
吾をして親の仇というほどに吠えたる犬の瞳の宇宙(2009.11.22)
人知れず落ちてつぶれた銀杏も熱く煮えたつ夢を見ていた(2009.11.22)
恋人はやさしくないといやだからビーチサンダルの鼻緒切り待つ(2009.11.19)
角が立つことは避けたい そのための丸いかっこを待ちつづけてる(2009.11.12)
物欲も恋愛欲もおれの背についに翼の種を埋めず(2009.11.8)
のび太・カツオ・高校球児抜き去って「もし」が無くなっていくことを知る(2009.11.4)
さっきまで一緒にテレビを見てたのか親子の親のあかるい「こんにちは!」(2009.10.31)
たいせつにきみがしてきたポケットに現実としてぼくがおさまる(2009.10.10)
十月に三日続けてあらわれる蚊の事情なんてどうでもいい死(2009.10.4)
早秋の夜は自己愛事故につき痛みや傷が渋滞してる(2009.9.23)
思いつめた苦悩の旗を高々と掲げる顔も見たことがある(2009.9.15)
どこかへと風よさらってくれないか りんね、りんね、と鳴く夏空に(2009.9.12)
死まみれの口でごはんを食べている死にたいという死にたくなさよ(2009.9.9)
ペガサスの四角い胴にしがみつくこともできない危急存亡(2009.9.7)
永遠の中学二年生として額の内に目玉を飼ひぬ(2009.9.5)
ビー玉がからんと鳴いて炭酸のように吸われてゆく夏の空(2009.8.26)
歌捨て場と決めてはじめたうたのわの評価をいつの間にか気にする(2009.8.25)
この青がポケット深く押し潰す少年ドラえもんのかなしみ(2009.8.22)
砂浜の白い椅子にもなれなくて部屋の隅にはペヤングの塔(2009.8.9)
薄氷ふたつ重ねてお互いに傷つきやすさを言いあっている(2009.8.6)
どぶ川に落ちたばかりのオレンジがまぶしくてまぶしくて逃げたい(2009.8.6)
あの春の手紙のようなざらざらの桜で終わる蝉の一生(2009.8.6)
火星人 ホイミスライム 夢だけで歩めることもちからのひとつ(2009.7.29)
左利き用のベースを海に埋めおれの地球がまた回りだす(2009.7.25)
ぶるぶると表面張力発揮中 あふれなければただの潤みだ(2009.7.25)
みずうみに蓋をするときおはようのあなたの声を夢見る魚(2009.7.22)
汗だくで冷蔵庫から麦茶出しコップへそそぐこれは麺つゆ(2009.7.20)
首もとでゆれるゴーグル まだ進みたくないなにもまだ見たくない(2009.7.19)
ぬばたまの夜のプールにきみがいてたったひとつの夏のはじまり(2009.7.16)
わたしはべつに爪の模様の変遷を憶えてるけどじっとは見てない(2009.7.14)
三河屋のサブちゃんが正社員でもアルバイトでもため息が出る(2009.7.10)
開封の世界に三日慣れきったサイダーみたいなぼくら 真夏の(2009.7.8)
なんだってしかたがないよどこまでもそう遠くへはいけないのだし(2009.7.2)
黒髪の大河にふかく手をひたす わかったような顔をしながら(2009.6.26)
目の前に黒揚羽舞う朝がありあなたのなにを知ってるだろう(2009.6.26)
砕け散った月はリングになれるけど美しいけど違う夜空だ(2009.6.22)
だってそんな、そこまで言ってそのあとの言葉がうまくまとめられない(2009.6.21)
隠すより全部ばらしてしまうほうが結局楽に行くんじゃないか(2009.6.18)
いつの日か地球緑化につながっていくからちゃんと堂々と泣け(2009.6.13)
たぶんまだなんとかなるさずぶぬれの子犬を不良が拾ってたから(2009.6.9)
人生にまだ意味があるならばこの角から出でよ食パン少女(2009.6.8)
永遠のフランスパンを受け入れる準備を終えてきみに逢いにいく(2009.6.6)
妹がバッタの足を引きちぎるスクールゾーンの標識は青(2009.6.4)
できるなら来世は烏賊か蛸か蜘蛛 たぶんそれでも置いてかれるけど(2009.5.29)
そこだけのまっすぐじゃもうごまかせないふたりの足の指に砂浜(2009.5.28)
ゆびはそう、ジェンガをぬきとるちからかげん 誰も知らない鍵がはずれる(2009.5.22)
きみがプリンを食べてるときのスプーンの凸面いっぱいに、しあわせの(2009.5.18)
まざまざと大統領は吾の目に脳漿をみなぶちまけてをり(2009.5.16)
定食屋で定食を食べるそのようにきみはわたしの世界のはしら(2009.5.12)
なにごとも本気でやれって父さんは言ったよね いま、全力で逃げてる(2009.5.11)
死になさいって渡されているこの縄をわたしは飾ってしまう気がする(2009.5.6)
「この事故で日本人の被害者はいない模様です。よい週末を」(2009.5.4)
一億の視線の上を飛翔する羞恥のあらば砕け散りをり(2009.5.1)
折れやすいかたちのわけを理解して雨上がりの朝ケータイをたたむ(2009.4.25)
ほっといてくれよだなんて言われても誰もお前に目を向けてない(2009.4.23)
そんな雲、そんなまっすぐな電柱、そんな反射するガードレール、(2009.4.23)
しまうまのしまを右から眺めても左から眺めてもしまうま(2009.4.21)
酒鬼薔薇聖斗の赤文字あざやかに消えたきころの我、浮かび来る(2009.4.19)
ローソンがマングローブを売るときのファミリーマートに起こるさざなみ(2009.4.17)
自信なき顔してわたしどうですかと訊きまわる自分好きのくずども(2009.4.16)
若者のニュースを見つつ湯を沸かす 上を目指してはじける数多(2009.4.13)
賞味期限ひとつき過ぎた煉瓦色のココアを崩して溶かす夕暮れ(2009.4.9)
人間のあたたかさだけ受けてきた体温計の背負うべきもの(2009.4.6)
なんだってできると思うかぎりない春の一日を行け飛翔体(2009.4.5)
ミサイルはおそらく夜の海になるローソンの上を横切っていく(2009.4.4)
受け取った螺旋のバトン受け渡す見込みのないまま走りつづける(2009.4.1)
真剣にふざける放物線としてこんなにばかみたいに晴れます(2009.3.30)
あれはまあ怪我の功名だったわといつかお前に話せるように(2009.3.30)
卒業の筒はかっぽんかっぽんと三年分のからっぽの音(2009.3.28)
なにもかもおまかせしますわたくしは石油を量るのにいそがしい(2009.3.26)
空にまでふられてしまう雪のなか拾った傘も破れています(2009.3.26)
どうせなら大きく書けばいい 冬の満月、身長、未来の自分(2009.3.25)
ふるさとの君の怒りを聞きながらまだ東京の月を見ている(2009.3.24)
墓石の下に広がる樹形図の端の小枝の俺も、元気です(2009.3.24)
人はみな押し流されて生まれ来る 川よ永劫ひたむきであれ(2008.11.19)
栃木群馬埼玉長野山梨と岐阜滋賀奈良にはハロー警報(2008.11.19)
生きかたが洟かむように恥ずかしく花の影にも背を向けている
見ていれば違っただろう「つる草の一生」というドキュメンタリー
職歴に空白はあり空白を縮めて書けばいなくなるひと
異性はおろか人に不慣れなおれのため開かれる指相撲大会
この夏も一度しかなく空き瓶は発見次第まっすぐ立てる
ゆるしあうことに焦がれて読みだした本を自分の胸に伏せ置く
殴ることができずにおれは手の甲にただ山脈を作りつづける
くれないの京阪特急過ぎてゆきて なんにもしたいことがないんだ
ににんがし、にさんがろくと春の日の一段飛ばしでのぼる階段
鴨川に一番近い自販機のキリンレモンのきれいな背筋
草と風のもつれる秋の底にきて抱き起こすこれは自転車なのか
口笛を吹いて歩けばここに野の来る心地する 果てまで草の
羽虫どもぶぶぶぶぶぶと集まって希望とはその明るさのこと
ジャム売りや飴売りが来てひきこもる家にもそれなりの春っぽさ
パッチワークシティに暮らす人からの手紙や、ばらばらのチェスピース
水際に立ちつくすとき名を呼ばれ振り向くまでがたったひとりだ
走りながら飲み干す水ののみにくさ いつまでおれはおれなんだろう
情けないほうがおれだよ迷ったら強い言葉を投げてごらんよ
弟がおれをみるとき(何だろう)黒目の黒のそのねばっこさ
丁寧に電話を終えて親指は蜜柑の尻に穴をひろげる
電柱のやっぱり硬いことをただ荒れっぱなしの手に触れさせる
ドーナツ化現象のそのドーナツのぱさぱさとしたところに暮らす
ああここも袋小路だ爪のなかに入った土のようにしめって
よれよれのシャツを着てきてその日じゅうよれよれのシャツのひとと言われる
マネキンの首から上を棒につけ田んぼに挿している老母たち
いつも行くハローワークの職員の笑顔のなかに〈みほん〉の印字
雨という命令形に濡れていく桜通りの待ち人として
思いきってあなたの夢に出たけれどそこでもななめ向かいにすわる
目撃者を募集している看板の凹凸に沿い流れる光
ゆきのひかりもみずのひかりであることの、きさらぎに目をほそめみている
あと戻りできないフロアまで行ってそれでもすっぽかしたことがある
防ぎようのなく垂れてくる鼻水のこういうふうに来る金はない
唯一の男らしさが浴室の排水口を詰まらせている
相聞歌からほど遠い人里のわけのわからん踊りを見ろよ
なで肩がこっちを責めていかり肩が空ろに笑う面接だった
肩甲骨だって翼の夢をみる あなたはなにをあざけりますか
まだ長い間奏の途中なんだからアンコールって言うな 帰るな
こんなところで裸足になってしまうから自分のこともわからないのだ
裏山にぎんいろのふね降りてくる わたしはわたしをやめられますか
からんころんさっき遊んでくれていた飴姉さんがどこにもいない
行き止まるたびになにかが咲いていてだんだん楽しくなるいきどまり(2016.8.31)
「生きろ」より「死ぬな」のほうがおれらしくすこし厚着をして冬へ行く(2016.8.26)
あかぎれにアロンアルファを塗っている 国道だけが明るい町だ(2016.8.22)
この夏も一度しかなく空き瓶は発見次第まっすぐ立てる(2016.8.17)
他人から遅れるおれが春先のひかりを受ける着膨れたまま(2016.8.10)
目撃者を募集している看板の凹凸に沿い流れる光(2016.08.5)
おれだけが裸眼であれば他人事に眼鏡交換パーティー終わる(2016.8.2)
この海にぴったりとした蓋がないように繋いだ手からさびしい(2016.7.28)
草と風のもつれる秋の底にきて抱き起こすこれは自転車なのか(2016.7.25)
職歴に空白はあり空白を縮めて書けばいなくなるひと(2016.7.20)
献血の出前バスから黒布の覗くしずかな極東の午後(2016.7.14)
羽虫どもぶぶぶぶぶぶと集まって希望とはその明るさのこと(2016.7.11)
一語一語をちゃんと区切って話されてなにが大事なことだったのか(2016.7.6)
電柱のやっぱり硬いことをただ荒れっぱなしの手に触れさせる(2016.7.1)
満開のなかを歩いて抜けてきたなにも持たない手にも春風(2016.6.28)
リニューアルセールがずっとつづく町 夕日に影をつぎ足しながら(2016.6.23)
あすはきょうの続きではなく太陽がアメリカザリガニ色して落ちる(2016.6.20)
しあわせは夜の電車でうたた寝の誰かにもたれかかられること(2016.6.15)
螺旋階段ひとりだけ逆方向に駆け下りていくあやまりながら(2016.6.10)
少しずつ月を喰らって逃げている獣のように生きるしかない(2016.6.3)
死になさいって渡されているこの縄を わたしは飾ってしまう気がする(2009.5.6)
イチゴ・メロン・レモンのとなり ハワイに行く父に頼んだ青いくだもの(2009.12.4)
日本電波塔落成記念凧揚げ大会の、みんなまっすぐ(2010.3.5)
よりましな絶望に向かうだけなのに それをあなたは希望と呼ぶの(2010.2.18)
「ぬかったな、今宵は新月」路地裏に 忍者が待っていた美人局(2010.2.1)
イチローが一朗になる夕暮れに 老人たちのしずかな眠り(2010.1.22)
二千年前に誰かが生まれた日 きょうも豆腐に十字を刻む(2009.12.25)
えんえんと不遇ごっこのごっこを抜く夢を見ていろ春の城郭(2009.12.25)
氷山も漂流してみたい気分(そうか南も南で苦しい)(2009.12.24)
うちがわの仕事を終えた殺し屋とおれと冬三日月の直列(2009.12.22)
ほんとうの両親はどこと問いかけた夕やけ色のすべり台から(2009.12.16)
亡んだらまだよかったの全身であらゆる風を受ける樹になり(2009.12.16)
ひとすじの煙、の前はあなたでも一歩一歩とのぼってました(2009.12.13)
踏みだせばあっけなくって一歩目で最初の氷を割ることもある(2009.12.13)
激甘のココアを飲んで鼻かんでいつもに戻れたらもう行けよ(2009.12.7)
「いいでしょう白黒はっきりつけましょう」ごちんと牛乳瓶をまず置く(2009.11.22)
吾をして親の仇というほどに吠えたる犬の瞳の宇宙(2009.11.22)
人知れず落ちてつぶれた銀杏も熱く煮えたつ夢を見ていた(2009.11.22)
恋人はやさしくないといやだからビーチサンダルの鼻緒切り待つ(2009.11.19)
角が立つことは避けたい そのための丸いかっこを待ちつづけてる(2009.11.12)
物欲も恋愛欲もおれの背についに翼の種を埋めず(2009.11.8)
のび太・カツオ・高校球児抜き去って「もし」が無くなっていくことを知る(2009.11.4)
さっきまで一緒にテレビを見てたのか親子の親のあかるい「こんにちは!」(2009.10.31)
たいせつにきみがしてきたポケットに現実としてぼくがおさまる(2009.10.10)
十月に三日続けてあらわれる蚊の事情なんてどうでもいい死(2009.10.4)
早秋の夜は自己愛事故につき痛みや傷が渋滞してる(2009.9.23)
思いつめた苦悩の旗を高々と掲げる顔も見たことがある(2009.9.15)
どこかへと風よさらってくれないか りんね、りんね、と鳴く夏空に(2009.9.12)
死まみれの口でごはんを食べている死にたいという死にたくなさよ(2009.9.9)
ペガサスの四角い胴にしがみつくこともできない危急存亡(2009.9.7)
永遠の中学二年生として額の内に目玉を飼ひぬ(2009.9.5)
ビー玉がからんと鳴いて炭酸のように吸われてゆく夏の空(2009.8.26)
歌捨て場と決めてはじめたうたのわの評価をいつの間にか気にする(2009.8.25)
この青がポケット深く押し潰す少年ドラえもんのかなしみ(2009.8.22)
砂浜の白い椅子にもなれなくて部屋の隅にはペヤングの塔(2009.8.9)
薄氷ふたつ重ねてお互いに傷つきやすさを言いあっている(2009.8.6)
どぶ川に落ちたばかりのオレンジがまぶしくてまぶしくて逃げたい(2009.8.6)
あの春の手紙のようなざらざらの桜で終わる蝉の一生(2009.8.6)
火星人 ホイミスライム 夢だけで歩めることもちからのひとつ(2009.7.29)
左利き用のベースを海に埋めおれの地球がまた回りだす(2009.7.25)
ぶるぶると表面張力発揮中 あふれなければただの潤みだ(2009.7.25)
みずうみに蓋をするときおはようのあなたの声を夢見る魚(2009.7.22)
汗だくで冷蔵庫から麦茶出しコップへそそぐこれは麺つゆ(2009.7.20)
首もとでゆれるゴーグル まだ進みたくないなにもまだ見たくない(2009.7.19)
ぬばたまの夜のプールにきみがいてたったひとつの夏のはじまり(2009.7.16)
わたしはべつに爪の模様の変遷を憶えてるけどじっとは見てない(2009.7.14)
三河屋のサブちゃんが正社員でもアルバイトでもため息が出る(2009.7.10)
開封の世界に三日慣れきったサイダーみたいなぼくら 真夏の(2009.7.8)
なんだってしかたがないよどこまでもそう遠くへはいけないのだし(2009.7.2)
黒髪の大河にふかく手をひたす わかったような顔をしながら(2009.6.26)
目の前に黒揚羽舞う朝がありあなたのなにを知ってるだろう(2009.6.26)
砕け散った月はリングになれるけど美しいけど違う夜空だ(2009.6.22)
だってそんな、そこまで言ってそのあとの言葉がうまくまとめられない(2009.6.21)
隠すより全部ばらしてしまうほうが結局楽に行くんじゃないか(2009.6.18)
いつの日か地球緑化につながっていくからちゃんと堂々と泣け(2009.6.13)
たぶんまだなんとかなるさずぶぬれの子犬を不良が拾ってたから(2009.6.9)
人生にまだ意味があるならばこの角から出でよ食パン少女(2009.6.8)
永遠のフランスパンを受け入れる準備を終えてきみに逢いにいく(2009.6.6)
妹がバッタの足を引きちぎるスクールゾーンの標識は青(2009.6.4)
できるなら来世は烏賊か蛸か蜘蛛 たぶんそれでも置いてかれるけど(2009.5.29)
そこだけのまっすぐじゃもうごまかせないふたりの足の指に砂浜(2009.5.28)
ゆびはそう、ジェンガをぬきとるちからかげん 誰も知らない鍵がはずれる(2009.5.22)
きみがプリンを食べてるときのスプーンの凸面いっぱいに、しあわせの(2009.5.18)
まざまざと大統領は吾の目に脳漿をみなぶちまけてをり(2009.5.16)
定食屋で定食を食べるそのようにきみはわたしの世界のはしら(2009.5.12)
なにごとも本気でやれって父さんは言ったよね いま、全力で逃げてる(2009.5.11)
死になさいって渡されているこの縄をわたしは飾ってしまう気がする(2009.5.6)
「この事故で日本人の被害者はいない模様です。よい週末を」(2009.5.4)
一億の視線の上を飛翔する羞恥のあらば砕け散りをり(2009.5.1)
折れやすいかたちのわけを理解して雨上がりの朝ケータイをたたむ(2009.4.25)
ほっといてくれよだなんて言われても誰もお前に目を向けてない(2009.4.23)
そんな雲、そんなまっすぐな電柱、そんな反射するガードレール、(2009.4.23)
しまうまのしまを右から眺めても左から眺めてもしまうま(2009.4.21)
酒鬼薔薇聖斗の赤文字あざやかに消えたきころの我、浮かび来る(2009.4.19)
ローソンがマングローブを売るときのファミリーマートに起こるさざなみ(2009.4.17)
自信なき顔してわたしどうですかと訊きまわる自分好きのくずども(2009.4.16)
若者のニュースを見つつ湯を沸かす 上を目指してはじける数多(2009.4.13)
賞味期限ひとつき過ぎた煉瓦色のココアを崩して溶かす夕暮れ(2009.4.9)
人間のあたたかさだけ受けてきた体温計の背負うべきもの(2009.4.6)
なんだってできると思うかぎりない春の一日を行け飛翔体(2009.4.5)
ミサイルはおそらく夜の海になるローソンの上を横切っていく(2009.4.4)
受け取った螺旋のバトン受け渡す見込みのないまま走りつづける(2009.4.1)
真剣にふざける放物線としてこんなにばかみたいに晴れます(2009.3.30)
あれはまあ怪我の功名だったわといつかお前に話せるように(2009.3.30)
卒業の筒はかっぽんかっぽんと三年分のからっぽの音(2009.3.28)
なにもかもおまかせしますわたくしは石油を量るのにいそがしい(2009.3.26)
空にまでふられてしまう雪のなか拾った傘も破れています(2009.3.26)
どうせなら大きく書けばいい 冬の満月、身長、未来の自分(2009.3.25)
ふるさとの君の怒りを聞きながらまだ東京の月を見ている(2009.3.24)
墓石の下に広がる樹形図の端の小枝の俺も、元気です(2009.3.24)
人はみな押し流されて生まれ来る 川よ永劫ひたむきであれ(2008.11.19)
栃木群馬埼玉長野山梨と岐阜滋賀奈良にはハロー警報(2008.11.19)