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著者がコペル君の精神的成長に託して語り伝えようとしたものは何か。それは、人生いかに生くべきかと問うとき、常にその問いが社会科学的認識とは何かという問題と切り離すことなく問われねばならぬ、というメッセージであった。著者の没後追悼の意をこめて書かれた「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」(丸山真男)を付載。
出版社:岩波書店(岩波文庫)
『君たちはどう生きるか』という題名からして、いかにも説教臭い内容、というイメージが湧いてしまう。
実際本書には倫理面を追及する感じの描写はある。
しかし実際読んでみると、まったく説教臭くはないのである。
それもこれも、説教(というかテーマ?)の語り方にあることはまちがいない。
主人公はコペルくんという中学生の生徒である。
本作は、彼視点の物語と、彼の叔父さんからの意見を並行して語る形で進んでいく。
コペルくんの観察力はなかなかすてきだ。
ビルの上から人々を見下ろすところから、自分を客体的に見ることをぼんやりと発見したり、粉ミルクから世界の人が何かしらの形でつながっていることを発見する。
こういった自身の体験から、世の中や自分の心の立ち位置を発見していく様はすばらしい。
それに叔父さんの意見も的確なのだ。
ビルの上から人々を見下ろすパートでは、地動説を持ちだして、人間は自分を中心に、とかく物事を判断してしまいがちだということを説得力をもって述べている。
またニュートンの林檎の説明でも、当たり前の問題を、どう意識を拡大して見ていくかについて説明している。
また人々がつながっている問題を論じながら、ヒューマニティの重要性を訴えるところなども感心して読んだ。
またナポレオンのところを述べるところでも、暗に戦争に傾斜していこうとする時局を批判しているようにも読めておもしろい。
叔父さんの意見には、知性が感じられ、非常に公正で極めて倫理的で、ヒューマニティにあふれている。
こんな内容の文章を、盧溝橋事件の起きた年に書いたということに驚くほかなかった。
物語としては「雪の日の出来事」に心を動かされる。
保身のため、友達のために行動することができず、罪悪感に苦しむところなんかは、非常に理解できるために、心に響いた。
この中で訴える内容は実にすばらしく、読み物としてもおもしろい。
本書は内容的に、子供向けだが、大人になってから読んでも充分に心に届く。
そんな見事な一品と思った次第である。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)