私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『少年時代』 ロバート・マキャモン

2009-01-29 22:48:56 | 小説(海外ミステリ等)

12歳、なにもかもがきらめいて見えていたあのころ…アメリカ南部の田舎町で暮らす空想好きの少年コーリーはある朝、父とともに不可思議な殺人事件を目撃してしまう。そこからコーリーの冒険に満ちた一年間が始まった!底なしの湖に車と共に沈んだ無惨な死体は誰なのか?悪夢にうなされる父はしだいにやつれてゆき、コーリーは現場に残された緑の羽根を手がかりに、謎解きをはじめる。その過程で友や愛犬と体験する忘れ得ぬ体験の数々―誰もが子どものころに持っていながらも、大人になって忘れてしまった魔法を信じる心をよみがえらせ、世界中の読書好きを夢中にさせた珠玉の名作。
二宮磬 訳
出版社:ソニー・マガジンズ(ヴィレッジブックス)


本書はジャンルとしては一応ミステリということになっている。
確かに最初の方にいきなり死体が登場するし、その犯人もラストで示される。犯人との対決シーンなどのミステリ・パートのシーンにドキドキすることも事実だ。

だが、本書の魅力はそのようなミステリ要素の中以上に、多数の脇エピソードの中にこそあると感じられた。
そのわき道のために本書はここまで長い作品になってしまったのだが、そのどれもが魅力的であり、そこはかとない切なさがにじみ出ているものが多く、胸を揺さぶられる。

好きなエピソードはいくつもあるのだが、個人的に特に良かったのは、墓場のシーンだ。
人が死ねば悲しいのは当たり前だけど、そこで感傷的になりすぎることなく、淡々と思惟していくコーリーの叙述がすばらしい。そこには表面的に見える以上の切なさが流れているように感じられ、僕の心は完全に捕らえられてしまった。

ほかにもレベルの死のシーンには胸を突くような苦しさが感じられるし、チリ・ウィローとの初恋を思わせるシーンには、甘酸っぱさと胸苦しさが流れていて、心に染みるものがある。
また、ブランリン兄弟との対決や、ブレイロック一家からの逃亡や対決シーンにはドキドキとさせられ(特にキャンディスティック・キッドが最高)、エンタメとしてのおもしろさにもあふれている。

そういった脇エピソードを支える上で、キャラクターの存在も際立った力を発揮している。
個人的にはヴァーノン・サクスターがいい味を出していたと思う。
町中を素っ裸で歩いているという変人にもかかわらず、非常に知的な人というのが僕好み。また心に傷を負っていることをうかがわせる描写などは、読んでいても、きゅっと胸を締め付けられる。

転校生のネモ・カーティスの才能がありながら、環境がそれを生かすことを許さない切ない境遇や、ザ・レディのふしぎな雰囲気も優れている。人物じゃないが、トリケラトプスも存在感としては抜群だ。
どれも個性的で、よくもここまでキャラクターを味付けできたものだ、と感心してしまった。

ともかくも、この作品は細かいところまで魅力に詰まっている。
おかげで、こんな羅列ばかりの散漫な感想になってしまったが、言い方を換えればそれだけ盛りだくさんの楽しみに満ちた作品ということなのだ。
少年時代の郷愁をも呼び起こしてくれ、読んでいても楽しい。本書はそんな優れた青春小説なのである。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (けんちゃん)
2009-01-30 11:25:37
初めて訪問させていただきました。
私も「少年時代」を読みました。
ミステリーといいながらも自分の少年時代を思い出しワクワクして読みました。
今後ともよろしくお願いいたします。
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コメントありがとうございます (qwer0987)
2009-01-30 21:38:32
はじめまして。コメントありがとうございます。
こちらこそよろしくお願いします。

確かにこの本を読むと、少年時代を思い出しますね。必ずしも体験したことじゃないけど、どこかなつかしい。
男の子ってのは洋の東西を問わず、似たり寄ったりなのかもしれません。
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はじめまして (hiro)
2012-09-20 07:33:35
「少年時代」について書かれているページを検索していて辿り着きました。
文春文庫で発売された当時、コーリーと同じ12歳でこの作品を読んで以来、未だに大好きな作品です。(24歳の今となっては、この本に手を伸ばすとはマセガキだな、と思うのですが笑)

失礼を承知で、書評に対するコメントをすっ飛ばして質問させて頂きたいのですが、この「少年時代」に似た作品、同じ系統の作品をご存知だったら、是非お教え願えませんでしょうか。
翻訳物で青春小説・成長小説、と言うのになかなか出逢えず、探しています。
刊行や受賞から随分と時が経ち、「マキャモンみたいな作品知らない?」と言っても通じなくなりつつあるので、失礼を承知でお尋ねしてみました。
返信する
コメントありがとうございます (qwer0987)
2012-09-20 22:07:43
hiroさん、コメントありがとうございます。

12歳で『少年時代』を読んだのですか。
当時マンガしか読んでいなかった僕としては、すごいな、と驚いてしまいます。

さて質問ですが、難しいですね。ハードル高いな。

真っ先に思いついたのが、ケストナー『飛ぶ教室』ですけど、『少年時代』とは方向性が違う気がするし、次に思いついたのが、スティーブン・キング『スタンド・バイ・ミー』だけどやはり違和感が…
個人的にはマーク・トウェイン『ハックルベリイ・フィンの冒険』が好きだけど、少年が主人公という以外に共通点はなく、僕の好みが前面に出過ぎてる感が…

とりあえず思っているのと違うかもしれませんが、おずおずおずおずと、上記の作品を示しておきます。
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ありがとうございます。 (hiro)
2012-09-23 20:37:34
ご丁寧なレスを頂き、ありがとうございます。
12歳当時、キングにはまっていたので、その走りでマキャモンに手をのばしたのを覚えています。

やはり、難しいですね(^^;
飛ぶ教室を挙げられていてふと思ったのですが、意外と十五少年漂流記とかも近いのですかね。
無人島、と言う要素さえ抜けば、少年時代に通じていなくもないような…。
ハックルベリイ・フィンの冒険は知らなかったので、今度読んでみようと思います。

半年前、我が家の犬が老衰で死んだのを期に、読み返したのですが(レベルのエピソードと重ねて辛くなっただけでしたが笑)、今読むと、初読12歳当時では分からなかったお父さんの辛さが沁みました。
この歳となっては、帰りたくても帰れない場所の方が多いですし、エピローグがずしんときました。
たまに空を見上げて、ネモが投げたボールが落ちて来ないかと、空想しています。
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返信ありがとうございます (qwer0987)
2012-09-23 22:07:07
『十五少年漂流記』も確かに、通じなくもないですね。
『ハックルベリイ・フィン』は、さっきパラ見しましたが、やっぱ違うよな、という気がします。
ただ作品自体はおもしろいと思うので、お手隙のときにでもどうぞ。

年を取ると、見え方もちがうし、本に対する受け止め方もちがってきますよね。
思い入れのある本だとよけいそれが際立つのかな、と感じます。
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Unknown (hiro)
2012-09-23 23:05:40
エピソードとしては小粒ですが、亡くなったネヴィル先生が夢に出てきて、コーリーに小説を書くように薦めるシーンで先生が言った言葉など、今じゃないと感銘を受けなかったなぁ、と。
"But I'll tell you a secret, Cory. Want to hear it?"
I nodded.
"No one," Mrs. Neville whispered. "ever grows up."
すいません、今、手元に原著しかないので、邦訳がどうなっているのかが分かりませんが、「誰も大人になんてならないのよ」って台詞です。

少年時代は登場人物が多い分、読み返した時に入れ込むキャラクターが違って、再読が楽しいですね。
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返信ありがとうございます (qwer0987)
2012-09-24 20:49:00
手元に本がないのですが、そういやそんなシーンがあったような、なかったような気がします。くやしいけれど、結構忘れています。

書いてくださったセリフは、でもすてきです。
前後のエピソードや、感情の動きに細かな記憶は残っていなくても、それだけ抜き出しても、ああ何かいいわ、って思えてきます。すてきな秘密です。

魅力的なキャラクターはこの作品には多いけれど、こういう一個一個の細かな部分には魅力が宿っているのだな、とつくづくと思い知らされました。ありがとうございます。
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