私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「ダーウィンの悪夢」

2007-02-04 14:28:59 | 映画(た行)


2004年度作品。フランス=オーストリア=ベルギー映画。
かつて"ダーウィンの箱庭"と呼ばれたタンザニアにあるヴィクトリア湖。そこで捕らえられる外来魚ナイルパーチが巻き起こす悪夢の連鎖を描いたドキュメンタリー。
各国の映画祭で賞を獲得。
監督はフーベルト・ザウパー。


これはつくられる意味のある作品である。
舞台はタンザニア、ヴィクトリア湖畔で、そこで行なわれるナイルパーチ漁を描いている。その魚にクローズアップすることでアフリカが抱える現実が浮かび上がる。
そこにあるのは貧困である。ナイルパーチ漁で工場は潤うが、その町の住民は貧しいままで、食べるのもうじのたかったナイルパーチの頭部などでしかない。貧困から女は売春を行ない、AIDSが蔓延している。それによって男が死に、残された女が売春で生活を稼ぎ、AIDSが途絶えないという悪循環に陥っている。そしてナイルパーチを積むための飛行機はヨーロッパや旧ソ連から武器を運び、それによって戦乱が混迷の度合いを深めるという悲惨な構図が浮かび上がってくる。

はっきり言ってこれは実に理不尽かつ不条理な話だ。
平和で飽食の国に住む人間が言うのも、後ろめたいのだけど、グローバリズムと南北問題の典型的な問題点が丁寧にあぶりだされている。
この悪循環としかいうほかにない悲惨で残酷な状況を告発したという点で本作は意味がある。日本人に問題意識と後ろめたさを呼び起こす意味でも、自分たちの暮らしの裏で起こっている事実を知る上でも一見の価値はある作品であった。

と、テーマ性に関しては、100点に近いのだけど、映画として見るなら、本作はつまらない。それはテーマが重いからではない。単純に構成が悪いからだ。
まず冒頭でタンザニアで起こっている事例をほとんどアトランダムに提示していく。そこに貧困があるのは見て取れるが、つながりが見て取れず、きわめてわかりにくかった。中盤以降で、ようやくいろんな問題がリンクしていくのが見えてくるのが、そこに至るまでが遅すぎるような気がする。そして監督が伝えたいことがようやくラストで見えてくるが、それもなんとなく、という程度でしか提示していないのが不満だった。

僕は基本的に、伝えたいことを観客に説明して理解させる作品よりも、観客にそれとなく悟らせる作品の方が好みである。だが、この場合はもう少し説明があってもよかったのではないか、と思った。
テーマ性ゆえに一見の価値はある。だがともかく映画としてはあまり評価できない作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)

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