私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

プラトン『ソクラテスの弁明・クリトン』

2014-02-24 20:58:24 | 本(人文系)

不敬神の罪に問われた法廷で死刑を恐れず所信を貫き、老友クリトンを説得して脱獄計画を思い止まらせるソクラテス。「よく生きる」ことを基底に、宗教性と哲学的懐疑、不知の自覚と知、個人と国家と国法等の普遍的問題を提起した表題二作に加え、クセノポンの『ソクラテスの弁明』も併載。各々に懇切な訳註と解題を付し、多角的な視点からソクラテスの実像に迫る。新訳を得ていま甦る古典中の古典。
三嶋輝夫・田中享英 訳
出版社:講談社(講談社学術文庫)




ソクラテスについて、僕は基礎的なことしか知らない。
知っていることと言えば、プラトンに影響を与えた人で、無知の知で知られる哲学者という程度のものだ。

今回『ソクラテスの弁明』を読んで、そんなソクラテスの人間性を知ることができた。
一言で言うならば、誇り高い老人、といったところだろう。


ソクラテスは言われなき非難を周囲から受けて、死刑を求刑される。それに対してソクラテスは自分の言葉で陪審員たちに向かって、自分の思うところを弁明していく。
それが『ソクラテスの弁明』の内容だ。

そこでのソクラテスの弁明には、一本筋の通った彼の信念が見える。
もっともそれは、若者を堕落させているという訴訟内容が、難癖としか思えないからというのも大きいかもしれない。
彼は若い世代と議論を交わして、教育を施していくことに喜びを感じているだけだからだ。


弁明の中で彼は、いわゆる無知の知を基盤にして訴訟相手を非難し、死をも恐れぬ態度で訴訟相手に立ち向かう。
「人がいちばんよいと考えて自分を配置したり、あるいは指揮官によって配置されるその場所に、人は踏みとどまって危険を冒さなければならないのです」などは、そんなソクラテスの勇気を存分に示している。
そして「弁明して生き延びるよりも、このように弁明して死を迎えるほうがずっとましだと思うのです」と懸命に戦い、訴訟内容の不公正を糾弾していく。
その姿は心に残る。


しかし判決が自分に不利に傾くとわかれば、逃げることなく死刑を従容と受け入れる。
『クリトン』の中でも述べられているが、それは法には従おうという思いが強いからだろう。

ソクラテスは「よく生きること」と「正義しい」ことを追い求めた人だ。
そのため不正に生きることを否定している。

彼からすれば、自分の死刑ですら、たとえそれがいわれなきものだとしても、逃げることを許されないものなのだ。
なぜなら国家の法が定めた死刑に反抗することも、不正であるからである。

徹底しているとも見えるが、その考えの元に死を受け入れていく彼の姿はすごい、と思う。
そしてそんな「正義しい」ことを追及する彼の態度は、人間の知に対する信頼さえ見えるような気がして印象的だ。

ともあれ、一度読んでみて良かったと素直に思える古典であった。

評価:★★★(満点は★★★★★)

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