2012年度作品。日本映画。
山陰の港町、上終(カミハテ)で、亡くなった母が残した店を守り、毎朝、コッペパンを焼いて暮らす千代。近くの断崖は、自殺の名所と言われ、見知らぬ人が1人でこの町に来ると、大抵は、生きて帰らない。自殺する人は、最期に牛乳とコッペパンを買うとネットで噂になり、冷やかしで店に訪れる客もいた。千代の父親もその断崖で死んだ。「死にたい人は死ねばいい」と呟きながら、千代は、自分が焼くコッペパンを憎んでいた…。
監督は山本起也。
出演は高橋恵子、寺島進ら。
いかにも文学的な作品である。
描写は思わせぶりで、トーンは抑え気味。そういう意味合いにおいて文学的。人によっては退屈とすら映るだろう。
そして本作は、それゆえにもどかしく、同時に心地よい作品でもあるのだ。
内容は上終(カミハテ)という土地で小さな商店を営む初老の女の物語である。
最初は作品の背景はまったく描かれない。
しかし、徐々にその集落には自殺の名所として有名な断崖があり、女の店で自殺者がコッペパンと牛乳を購入しているということが明かされる。
女は自殺者にパンを売り、その後断崖へ行き、相手の靴と牛乳ビンと遺書を回収する。ちょうど彼女が幼い頃父が自殺したときと同じように、だ。
そういった内容の話ということもあってか、全体の雰囲気は映像も含めてやや暗めだ。
しかしそんな暗い雰囲気からは、自殺者にパンを売る女が、自殺していく者を見送っていくことに傷つき、腹を立てていることが伝わってくる。
腹を立てるという点に関しては、靴を回収するという行為がまさにそうだ。
そうやって、相手の自殺の痕跡を消していくことで、彼女は最後の食事に自分の店を選ぶなんて後味の悪いことをする相手に対して復讐しているかもしれない。
そしてそれは、家族を残して自殺した父への復讐かもしれないとも思えてくる。
深読みかもしれないが、そう思わせる余地がある点がすばらしい。
もちろん、彼女なりに自殺する人を止めたい気持ちはある。
最初の方の女子二人組には、皮肉めいた口も利いたし、何でうちなのか、と相手に問いただしたこともあった。実際自殺を止めたこともある。
自殺していく者を見送るなんて、やはりずっと続けるには耐えがたい行為なのだ。
当然ながら、そんな彼女の行動が報われないこともあった。それは悲劇的だが、そういうこともあるのだろう。
だがいつまでも報われないとも限らないのだ。
ある自殺志願者の女が、自殺せずに帰って行ったと聞かされたときの彼女の表情が、どこか清々しくて忘れがたい。
物語は、彼女の前に新たな自殺志願の女が現われるところで終わる。
その後どうなるかはわからないが、たぶん彼女は自殺を考えている女を止めるのだろう。
ついでに言うと、借金を抱えている老女の弟も責任ある行動を取るにちがいない。
見終わった後は、そんな風に、登場人物たちのヒューマニティを単純に信じることができる。
そしてそんなポジティブなことを信じられるような、この映画の雰囲気が、静かに胸を震わせるのである。
評価:★★★(満点は★★★★★)
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