
最終学年を迎えた「私」は卒論のテーマ「芥川龍之介」を掘り下げていく一方、田崎信全集の編集作業に追われる出版社で初めてのアルバイトを経験する。その縁あって、図らずも文壇の長老から芥川の謎めいた言葉を聞くことに。「あれは玉突きだね。…いや、というよりはキャッチボールだ」―王朝物の短編「六の宮の姫君」に寄せられた言辞を巡って、「私」の探偵が始まった…。
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
北上次郎が記しているように、本書は「芥川龍之介の短編「六の宮の姫君」が書かれた意図をめぐって推理するだけの話」である。
見ようによってはシンプルだし、題材的にはどうにも地味だ。
なのに、なぜかくもおもしろいのだろう。そう驚かされてしまう。
理由はいろいろあるが、僕の場合、「わたし」の日常を含めた雰囲気がいいことと、「六の宮の姫君」と芥川と菊池寛を巡る考察がとても刺激的だからだろう、と思う。
本書は「円紫さんとわたし」シリーズの第四作目である。
うっかりしたもので、僕は三作目の『秋の花』を読んでなかったことに後になってから気づいたが、それでも本書の感興をさまたげるものではなかった。
一冊読み飛ばしても問題ないよう、丁寧に「わたし」の日常が描かれていて心に残る。
「わたし」は文学部の学生で、卒論を間近にひかえ、その合間に出版社で初めてのアルバイトをしている。
そこにあるのは平凡な日常なのだが、ともかく丁寧に描いていて、非常に好ましい。
それもこれも、北村薫のやわらかい視線があってのことだろう。
個人的には「わたし」と正ちゃんの裏磐梯での旅行なんかは楽しく読めた。
二人の会話は楽しいし(ただし口調は気になるが)、読んでいるとにやにやしてしまう。
また円紫さんの落語『六尺棒』に関するやり取りは、このシリーズの空気のすべて、すなわちは、しんみりとした優しさ、を体現していて忘れがたい。
もちろん本書の肝である芥川龍之介『六の宮の姫君』のやり取りも見事だ。
だがそこに触れる前に、まず、僕個人の芥川龍之介『六の宮の姫君』の感想を述べよう。
一言でまとめるなら、芥川の『六の宮の姫君』は悲劇である。
だがその悲劇の原因は、流されるように生きて、自己決定できず、その結果零落する一方だった女のキャラそのものにある。
現世で何も決定できず、結局能動的に動けなかった女は、そのツケをはらうように、どこにもたどりつけず来世をさまよっている。そこにある皮肉が、何とも物悲しい。
感想としてはそんなところだ。
しかし本書を読んでいて、そんな視点もあったのかと思い知らされる。
特に今昔物語との関連性などは、知らないことだっただけに、どきどきしながら読んだ。
『往生絵巻』との関わりについて触れるところも、すごく新鮮で印象的である。
長くなるので、多くは語らないが、ここに展開されている論を読んでいると、本ってヤツには本当にいろんな読み方があるのだと思い知らされ、感動すら覚える。
さらに驚いたのは、芥川のみならず、菊池寛の作品論にも話が及んでいる点だ。
芥川の作品論から始まった本作は、そこからやがて菊池寛の作品論へと移り、さらには芥川龍之介との友情関係へと話は発展する。そしてその結果、『六の宮の姫君』の誕生過程について、一つの推理が成されるに至る。
その流れがため息が出るほど、すばらしかった。
しかもそこから芥川龍之介と菊池寛の二人の深いきずなが見えるようで、感動も覚える。
ともあれ、学術論文か?と言いたくなるような内容を、エンタテイメントに仕上げる手腕には感服する他なかった。
とりあえず菊池寛と芥川龍之介を読んでみようかな、と読み手に思わせる点も見事である。
北村薫の優しさと、本に対する愛情がひしひしと伝わる、本好きにはたまらない一品だ。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
そのほかの北村薫作品感想
『玻璃の天』
でも私、芥川龍之介の話、少ししか知らないんです。しかも菊池寛は全然読んだ事ないです。そんな感じでも大丈夫でしょうか?
それからいきなりシリーズの4作目から読むより、ちゃんと1作目から読んだ方がいいですか?別に4作目からでもお話わかりますか?すごく難しそうなお話みたいな気がしますが、私に理解できるかちょっぴり不安です。
でもすごく興味が湧いたので、もし見つけたら読んでみたいなと思います(*^_^*)
僕はばりばりの文学オタクなので、ドツボでしたが、シリーズの一番最初に読むにはふさわしくないかなあと。。。
とりあえず、もしもこのシリーズを手に取られるのだとしたら、一作目の『空飛ぶ馬』を読んで、合うかどうかを確認してからの方が良いかと思います。
いわゆる日常系のミステリーです。
北村薫は、まったりのんびりした感じの、優しい作風ですので、その空気が合えば、楽しめるかもしれません。
BOOKOFFで探す時間がなかったので、今回はAmazonで注文しました。1円であったので良かったです!後、配送料と手数料がかかりトータル251円になりましたが。人気作品でも綺麗な状態の物が安く手に入るので有り難いです!
『六の宮の姫君』は結構マニアックなんですね。読む人を選ぶ作品なのかなぁ。
私、まったり、のんびりした雰囲気は好きなので楽しめたらいいのですが。また届いたら少しずつ読んでみようと思います♪
う~ん、やっぱりAmazon安いですね。中古品はチェックしたことなかったので盲点でした。
それに基本は楽天派だったから、なおのこと。
もっと使いこなさねば、と思います。
『空飛ぶ馬』、かなさんの趣味に合っていればいいですね
感想ですが、とても好みのお話でした~♪
主人公の女の子と円紫さんの関係、何だかいいですよね!二人とも、とても素敵な空気感でやり取りもすごく微笑ましく感じました(^ ^)
円紫さんの推理力も素晴らしく読んでいて気持ち良かったです!
日常の疑問な不思議をお話からの限られた材料で深いところまで推理する円紫さんがとてもカッコよかったです♪
最後の章の空飛ぶ馬のお話、最後に相応しく、心がほっこりしました!
北村薫さんを読むの初めてでしたが、とても素敵な作家さんですね!まるで女性が書かれているような文章なのに男性だから驚きました!とても柔らかい優しいお話ですごく好きなタイプのお話でした!
北村薫さん の『スキップ』も購入してみたのですが、まだ読めてません。結構分厚かったので時間かかりそうですが、また今度、読んでみようと思っています!
僕なんか本を読む時間がつくれないって言い訳して、ほぼ読まない日もあるので、僕よりダントツで早いです。
このシリーズは言われてるように、空気感がいいと僕も思います。
知的な円紫さんと、「わたし」の関係が非常に優しげで、結構好きです。円紫さんも探偵役なんで当然かもしれないけど、いやいやすごいな、この人、と思います。
北村薫はもう男性作家にはないタイプだな、と思います。
『空飛ぶ馬』でデビューした時は覆面作家だったから、女と思われていた、って聞きますけど、そりゃそうだよな、と僕も初めて読んだとき思いました。
この人の感性はすごいな、って感心します。
『スキップ』も買われたんですね。なつかしいな。僕は十年以上前に読んだ作品です。年がばれますが。
細かいことはほとんど忘れてるけれど、良かった記憶だけは残ってます。
お仕事されてるから、お忙しいのに映画もたくさん観に行かれて、読書もたくさんされて、しかもこうしてブログで丁寧な感想を書かれていてスゴイと思います!
円紫さんと主人公のやり取りとか雰囲気、本当に心地良くて素敵ですよね♪円紫さんシリーズこれからも読んでみたいと思います!qwer0987さんがオススメされてなければ多分、自分では手に取らなかったんじゃないかなと思うので、教えて頂いて良かったです!ありがとうございました(*^_^*)
『スキップ』も昔、読まれたんですね!私、本のタイトルとか知っていたのですが読んだ事なかったんです。プロフィール拝見しましたが、qwer0987さんと私、年齢結構近いですね(^ ^)
今、違う本を読んでるのですが、読み終わったら『スキップ』読んでみようと思っています!
いつもコメントからも、おわかりだと思いますが、私、おっちょこちょいで慌てん坊なんです。誤字脱字も多くて申し訳ありません。恥ずかしいです。
円紫さんシリーズを気に入ってもらえてよかったです。
結構人に本を薦めるのは、ビクビクものなので(合うかどうかはその人の感性なので)、だいぶほっとしてます。
『スキップ』も楽しめるといいですね。
年齢はかなさんの方が若いと思いますよ。
僕は結構おっさんです。アラサーと名乗ってもまだ許される程度の年齢です。
いろいろ気にされないでください。
私いつもqwer0987さんのブログ拝見していて、感性近いと思っているので、結構qwer0987さんの評価の★の数は信用しています(^ ^)だいたい私も同じ評価をつけているものが多いので。
やっぱりqwer0987さんの方が私よりお若いですね!年代は同じだと思いますが私の方が年上みたいです。もう、おばさんですが(笑)これからもブログ参考にさせてもらいますね!よろしくお願いします♪