私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『新選組 幕末の青嵐』 木内昇

2011-09-14 20:16:06 | 小説(歴史小説)

身分をのりこえたい、剣を極めたい、世間から認められたい―京都警護という名目のもとに結成された新選組だが、思いはそれぞれ異なっていた。土方歳三、近藤勇、沖田聡司、永倉新八、斎藤一…。ひとりひとりの人物にスポットをあてることによって、隊の全体像を鮮やかに描き出す。迷ったり、悩んだり、特別ではないふつうの若者たちがそこにいる。切なくもさわやかな新選組小説の最高傑作。
出版社:集英社(集英社文庫)




基本的には目新しさのない小説だと思う。

僕の新選組に関する知識は、司馬遼太郎の『燃えよ剣』と『新選組血風録』、大河ドラマの『新選組!』、歴史雑学本や新選組関連のマンガで得た程度のものでしかない。
それと比較しても、オーソドックスなつくりと思う。

時系列通りに事件を扱っているため、展開に驚きはないし、キャラクターの造形も、いままで先人が積み重ねてきたキャラクターを借りてきているという印象を抱く。

しかし、にもかかわらず、本作は大変おもしろい作品であった。
それはこの作品が丁寧に人物の姿を描いているからだろう。


先述した通り、登場人物の基本的な性格は、これまでの小説などと似通っている部分は多い。
そういう点、本作はあまり冒険をしてはいない。

しかし人物の描写力は非常に優れており、人間に対する観察力や洞察力も卓越している。
おかげでどの人物もリアリティにあふれており、生き生きとした存在感を発することになる。


優しさの示し方が不器用で、あくまで近藤を支えるため、鬼の副長として徹するところが印象的な、土方。
感情の浮き沈みは少なく淡々としているけれど、情が深いところすてきな、永倉。
学を追い求める姿は一途で、人はいいけれど、それがゆえにやがて新選組内で孤立する様が切ない、山南。
飄々として、子どものようだけど、意外にするどいところがおもしろい、沖田。
怜悧だが、御陵衛士の場面で見せた人間臭いところが心に残る、斎藤。
直情的なところが痛々しい、藤堂。
虚勢を張る姿が、あまりに危うい、芹沢。 
個人的には、過小評価されすぎていて残念だが、出世して無邪気に喜ぶところや、不器用なくらいにまっすぐなところが忘れがたい、近藤。
など、どの人物も魅力的に描かれている。


彼らの魅力やそれぞれの欠点は、読んでいてもたいへん心地よく、各人なりにいろいろ考えていることが伝わり、読んでいてもおもしろい。
特に彼ら自身がいろいろな悩みを抱えている点が良い。
彼らはいまとなっては歴史上の人物だけど、そんな彼らだって、理想を追い求める、当たり前の若者だったのだな、と気づかされる。
そこからはまるで、青春小説のような味わいすら感じられる

話そのものには目新しさはなく、いくぶん新選組の歴史ダイジェスト版って感じはするし、キャラクター造形も借り物の印象もする。
しかしそのキャラクター描写に関しては、一級のものがある。
新選組ファンも、そうでない人も、楽しめる一品だろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

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