勝ち残り生き残るたびに、人の恨みを背負わねばならぬ。それが剣客の宿命なのだ――剣術ひとすじに生きる白髪頭の粋な小男・秋山小兵衛と浅黒く巌のように逞しい息子・大治郎の名コンビが、剣に命を賭けて、江戸の悪事を叩き斬る――
田沼意次の権勢はなやかなりし江戸中期を舞台に剣客父子の縦横の活躍を描く、吉川英治文学賞受賞の好評シリーズ第一作。全7編収録。
出版社:新潮社(新潮文庫)
『剣客商売』は池波正太郎の代表作の一つであり、今でも人気のあるシリーズだ。
僕は初めてこの作品を読むのだが、ざっくり読んだ感じ、人気のある理由は、キャラクターの魅力によるところが大きいのではないか、と思った。
もちろん最大の魅力あるキャラクターは、主人公である小兵衛である。
解説にもあるが、小兵衛は本当に食えないじいさんだ。
小柄な体型をしていて、どこか飄々とした雰囲気さえ感じられるし、若い女おはるを女房にしているということもあり、ちょっぴりエロい。ぱっと読んだ感じだと、のほほんとした、ただの好々爺である。
それが剣を持つと、雰囲気ががらりと変わる。発する気迫はすさまじく、小柄という体型を生かして敏捷に動き、相手を斬って捨てるあたりなどはしびれてしまう。
行動力も旺盛で、頼まれれば、事件に首をつっこみ、物事を解決していくあたりも、なかなかカッコいい。
それでいて、人間臭さも感じさせるから、すてきだ。
特に『まゆ墨の金ちゃん』の小兵衛はかなり良い。
大治郎が狙われているという話を聞き、小兵衛は息子である大治郎を突き放すような態度をとる。それなのに、やっぱり心配になって、影からこっそり見守るところなどは、ちょっと笑ってしまう。
大治郎が敵をやっつけるのを見て、小躍りせんばかりに喜ぶところもおもしろい。
そういう場面を読むと、何て、かわいいじいさんなんだ、と思ってしまう。本当にすばらしいキャラ造形だ。
それ以外にもいいキャラクターは多い。
くそマジメな堅物だけど、父同様に恐ろしく強い大治郎もいい味を出しているし、男装の麗人とも言うべき、三冬も印象的だ。
この巻の最後の章で、大治郎と三冬の二人が出会うところなんかは良かった。
ああ、この人は読者が何を期待しているのか、ちゃんとわかっているんだな、と感心してしまう。基本的にサービス精神が旺盛な人なのだろう。
ストーリーだけを見れば、結構ご都合主義な部分はあると思う。
だが謎を適度に散りばめ、悪事の真相を後半で暴いていき、最終的に、チャンバラを持ってくるあたりには、カタルシスを得ることができる。
これは本当に楽しいエンタテイメントだ。
魅力あふれるキャラクター、楽しめるストーリー展開は本当に見事。
『剣客商売』は本当に楽しいシリーズである。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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