町外れの砂原に建つ<緑の家>、中世を思わせる生活が営まれている密林の中の修道院、石器時代そのままの世界が残るインディオの集落……。豊饒な想像力と現実描写で、小説の面白さ、醍醐味を十二分に味わわせてくれる、現代ラテンアメリカ文学の傑作。
出版社:岩波書店(岩波文庫)
たぶん読んだ人全員が思うことだろうが、『緑の家』は、構成がかなり複雑なお話である。
本作では、いくつかのストーリーを並列的に語るというスタイルを取っている。
具体的には、シスターたちが軍と一緒になってインディオの集落から少女をさらい、修道院へ連れて行く話。ブラジルから逃れてきた日系人の盗賊フシーアの話。監獄から故郷に帰還したリトゥーマの話。安値でインディオからゴムを買占め、富を得ているフリオ・リアテギの話。緑の家誕生秘話。などなどだ。
正直最初の方は、情報量が多いわ、登場人物は多いわ、ペルー人の名前が覚えづらいわ(ドン・フリオとドン・ファビオを最初の方はごっちゃにしていた)、エピソードは断片的だわ、時系列もむちゃくちゃだわ、フシーアの章は過去と現在を混在させるという特殊な語りだわ、で整理して読むのは相当難儀だった。
読んでいる間は、何度もメモを取ったし、上巻と、エピローグ直前までを読んだ段階で、自分の中で内容を整理するため、ざっくりと読み直す必要もあった。
しかし読み進むにつれ、ブツ切れでバラバラとしか見えなかった各エピソードが、次々とリンクするようになる。
別のエピソードで登場した人物が、それとは関係ないと思っていたところで顔を出したり、ある章で語られていた話がそれとはちがうエピソードにつながっていったりする。
そのリンクの仕方は本当に巧妙で、演出もすばらしく、おかげでワクワクしながら読み進めることができた。
最後の方は、物語が拡散してしまったきらいがあるとは思う。
結局リトゥーマはどんな理由で捕まったのかわからないし、ニエベスのその後をもう少し知りたかった気もするし、リアテギの話も後半はぞんざいだ。
それでも、まったくバラバラだった物語が、それぞれ、ときにゆるく、ときに強固につながり、一つの物語を織り上げていく過程を追っていくのは、極めて楽しい体験であった。
しかしこれだけ大きな物語だと、個々のエピソードも力強く、臨場感に富んでいたりで、実におもしろい。
リトゥーマとセミナリオのロシアンルーレットの話や、ボニファシアがピウラに向かうときの場面は印象に残る。
そんな中、個人的にもっとも楽しかったエピソードはアンセルモが緑の家を建てる流れと、後半の緑の家が燃える場面だ。
特に前者は、『百年の孤独』にも通じる神話的な雰囲気があり、非常におもしろく読むことができた。
また、後者はガルシーア神父が、エピローグも含めて、いい味を出していたと思う。
何か感想が非常に散漫になってしまった。
だがここだけは力説したいのだが、本書は実に大きな物語だと心から感じるのだ。すべてを読み終えた後には、壮大な物語を読み終えたという、しっかりとした手応えを覚える。
読みづらい作品であることは断言するけれど、それでもチャレンジして読んでみるだけの価値はある。
『緑の家』はそう思わせるだけの力強い作品であった。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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