われわれの直面する未来には、過去の歴史の延長からある程度類推できる部分もかなりある。
しかし、未来の歴史の中には、単なる過去の歴史の延長によっては、
決して類推できない未知の、暗黒の部分もあるのだ。
過去において、そんなことが一度も起らなかったからといって、
それが未来にも決して起こらないとは、誰が言いえよう!
まして、わずか数万年の現生人類の中で、
われわれがどれほどの”過去”を体験してきたというのか?
わずか2世紀足らずの近代科学の探求の中で、
われわれがどれほど〝人類以前の過去〟の歴史について知りえたか?
地球史を区切るといわれるいくつもの大造山運動についても、
われわれ哺乳類の時代の新生代中新世
~つい2500万年前に起こったグリーンタフ造山運動についてすら、
われわれは、その地下に残る痕跡から、その変動の激しさをおぼろげに描き出すことができるのみであり、
その最もはげしい時期に、どんなことが起こったか、直接体験したわけではない。
〝過去の地殻大変動〟といっても、われわれは変動の死骸を見るのみで、
それが生きて、雄たけびをあげ、この地上を荒れ狂っていた様子を知っているわけではないのだ。
現代の災厄においてすらそうではないか?
地震による大被害、台風洪水による被害についても、
それが起こってしまってから、はじめてわれわれは災厄のすさまじさを知らされる。
このとおりなのだ、諸君。
「日本沈没」/ 小松左京・作
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