platea/プラテア

『ゲキxシネ五右衛門ロック』『The Musical AIDA』など、ミュージカルの話題作に出演の青山航士さんについて。

記憶のソファ

2006-01-16 | グランドホテル ザ ミュージカル
「ダンスシーンが少ない」そうした噂を耳にして、一ダンスファンとしては正直なところ気落ちしていたのが嘘のような、深く静かな満足感を『グランドホテル』は与えてくれました。昨夜も書いたチャールストンをCDでエンドレス再生しながら、香気立つようなステップを頭の中で反芻して楽しんでいます。蒸留酒をスピリット、と呼ぶのをなんとなく不思議に思っていましたが、青山さんのチャールストンは、まさにチャールストンの精霊/spiritが姿を現したように、人の心を酔わせて芳香を放つスピリットそのものでした。

 そして心も体も踊る様なチャールストンと対照的に、インフレの進む敗戦国であったドイツで、「ベルリンで最低のこの仕事」をしながら生きる労働者の気持ちを吐き出す"Some have, some have not"があることで、抑圧される黒人の深い悲しみと激情を分け合うように「ジミーズ」(BW版はアフリカ系アメリカ人)がジャズに魅了されているような気がして、改めてこの日本版のプロットの有機的な連続に引き込まれてしまいました。

 確かに舞台上のスペースはとても狭くて、街のバレエ教室でもこの倍くらいは・・・とは思います。自身ブロードウェイのダンサーであったトミー・チューン版で来日公演があり、まして宝塚もチューン本人を迎えて上演しているとなれば、今回の公演でダンスをフューチャーする、というのは最初から方向としてなかったのかもしれません。でも、ダンスに適しているとはいえない条件下で、アンサンブルの方たちがここまで精度の高いダンスで魅せてくれるとは誰も思っていなかったでしょう。『ウエストサイドストーリー』『ボーイ フロム オズ』『テネシーワルツ』などで拝見している佐々木誠さん、中村元紀さん、上野聖太さんたちが、満員の会場の空気を何度も吸って、どんどん魅力的になっておられるのが観ていて楽しいです。

 作品の冒頭、あゆあゆさんが書いてくださったとおり、青山さんたちがスローなマイムでホテルの中を動きます。それを見ていると、まるで当時のロビーのソファで、その光景を眺めていた方の記憶の中に滑り込んでいくような気持ちになります。この『グランドホテル』の重層的な空間は一度や二度では味わいきれないかもしれません。お近くの方、わたしはとっても羨ましいです、どうぞまた足をお運びください。


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