platea/プラテア

『ゲキxシネ五右衛門ロック』『The Musical AIDA』など、ミュージカルの話題作に出演の青山航士さんについて。

ルドルフ RUDOLF The Last Kiss/119年前の今夜、マイヤーリンクで

2008-01-29 | RUDOLF The Last Kiss
 1889年、1月29日深夜から30日にかけて、皇太子ルドルフと男爵令嬢マリー・ヴェッツェラの二人は彼岸へと旅立ちました。
 健康を損なったうえ、政治的な挫折によって精神的にも追い詰められたルドルフは、87年3月には遺書を書いています。89年1月の地中海旅行から帰ると彼の心身の状態はますます悪化し、皇太子妃ステファニーは従僕にとりつぎを頼んで、思い切って皇帝フランツ・ヨーゼフに相談をしました。が、心配はない、といなされ、彼女の勇気をふりしぼっての接見は早々に切り上げられたといいます。
 ルドルフとステファニーの夫婦仲は良いとはいえず、事件直前にもルドルフが教皇に離婚許可を求めていたことが記録に残されています。が、この時ルドルフの変化に気付いた「家族」は彼女だけなのだそうです。在位中、朝5時に起きて夜11時に就寝というリズムをまったく崩すことなく皇帝としての執務に専念していた父帝と、ウィーンを離れることの多かったヨーロッパ随一の美女である母后の二人を、ルドルフは敬愛していたようなのですが・・・。
 もうひとり、ルドルフとマリーを引き合わせたラリッシュ夫人も、一片の嘘をはさみながらも、皇太子が自殺しようとしている、と警察に事前に報告していたといいます。そして前にも触れたように、ルドルフの愛人ミッツィー・カスパーもルドルフの自殺願望について帝国警察に報告しているのです。もしも誰かひとりでも彼女達3人の言うことに耳を傾けて全力で対応していたら、マイヤーリンク事件は起きなかったかもしれません。女性というものが社会的に軽んじられていた時代だったこともありますが、それ以上にルドルフが王宮で味わっていた孤独が痛いほど感じられるエピソードです。
 ルドルフが外出する際、いつも手綱を握ったブラットフィッシュは、119年前の今夜もルドルフの側にいました。事件後、とある出版社が彼に膨大な金額を提示して事件のいきさつを語るように持ち掛けたそうですが、忠実な彼は一切口を割らなかったそうです。ルドルフもまた身分を越えて心からの信頼を寄せていたというブラットフィッシュは、その夜、何を想ったでしょうか。 

ルドルフ RUDOLF The Last Kiss/ブラトフィッシュの口笛は

2008-01-27 | RUDOLF The Last Kiss
 「音楽の都、ウィーン」というとき、なんとなくクラシックを想像しますが、皇太子ルドルフ(井上芳雄さん)は一般庶民が口ずさむ民謡がお気に入りだったそうです。ルドルフ専従の御者・ブラトフィッシュ(三谷六九さん)は、マイヤーリンク事件前夜、ルドルフに頼まれて得意の歌と口笛で『ツバメの挨拶』という曲を、二人に聴かせたそうです。
 英ロイヤルバレエの"Mayerling"だと、声を発する代わりにブラトフィッシュの見事なソロダンスが披露される場面ですが、その間ルドルフはダンスに一瞥もくれません。自分から頼んでおきながら、視線を定めることのないルドルフに、どうしようもないほどの昂ぶりが感じられて、ダンスの素晴らしさ(オタクの妄想としては青山航士さんに踊ってもらいたい)と共にとても印象的なシーンでした。バレエの「声のない」世界の緊迫感を生かした場面が、宮本亜門版ミュージカルではどうなるのでしょう。
 ウィーンの街中のレストランで何時間も民謡を聞くことがあったというルドルフ。1887年、自分の狩猟仲間のための音楽会で、ルドルフは『ああ、それはウィーン。ウィーンの血が』という歌曲をリクエストします。が、御者兼歌手のブラトフィッシュが、メロディは知っているが歌詞はうろ覚えだというので、ルドルフは歌詞をラテン文字で書いて渡したのだそうです。それに対し「こんなものは読めない」と率直に答えたのをルドルフが気に入って自分の御者にし、家を買い与え、彼の母親の手料理を味わうほど親しい間柄になったといいます。マイヤーリンクにマリーを連れて行ったのも彼で、最期の「旅」もまた、彼が手綱を取るのだという了解が二人の間にはあったのかもしれません。
 ルドルフとマリーを引き合わせたというラリッシュ夫人(香寿たつきさん)の自伝にも、ブラトフィッシュの善良さ、忠義さが書き残されています。「もしルドルフが『地獄まで行け!』と命じたとしたら、彼は近道を見つけようとするだろう・・・」実際、ブラトフィッシュの協力を得て、帝国警察の監視をすり抜け、ルドルフは生涯を閉じました。そしてマリー・ヴェッツェラの遺書には「追伸」として、「ブラトフィッシュの口笛は今夜も素晴らしかった」と記されていたそうです。 

ルドルフ RUDOLF The Last Kiss/ミッツィー・カスパー

2008-01-24 | RUDOLF The Last Kiss
 ハンガリー版には役名としてリストアップされていたミッツィー・カスパー。東宝公式サイトには役名がないので、女性アンサンブルのどなたかが演じられるのでしょうか。自称オペラ歌手というこの女性は、皇太子ルドルフお気に入りの娼婦で、マイヤーリンク事件の直前、一緒に死んでくれないかとルドルフが持ちかけていたといいます。
 娼婦、とはいっても身分の高い顧客専門の仲介人による、日本で言えば「傾城(けいせい)」、「松の位の太夫」といった感じの存在でしょうか。後のドイツ皇帝ヴィルヘルム2世がその仲介人の世話になっているところに、ルドルフと懇意にしている娼婦がスパイとしてもぐりこんだとか。当時のウィーンにはそんな「やんごとなき方々」の遊興の場があったようです。また、当時の宮廷は恋愛に関してかなりおおらかだったうえ、年若いプリンスであるルドルフはアイドル的な人気があった(写真を宝物にする女性も多かったそうです)ので、いつも女性からアプローチされ、恋多き男性だったようですね。
 そのなかでもミッツィーには家や高価な装飾品を与えたり、公式の場に同伴したり、皇太子妃ステファニーの感情を逆なでするようなことも少なくなかったようです。また、彼女との逢瀬には帝国警察の尾行がついていたため、ルドルフが繰り返し自殺をほのめかしていたこと、父帝が長命なので自分は政権の座にはつけない、ともらしていたことなどが記録として残されているそうです。ミッツィーはルドルフが自殺しないように厳重な監視をすすめたそうですが、それでもマイヤーリンク事件は起きてしまいました。
 遺書にも、ミッツィーには可能な限りの現金を与えるように書かれていながら、不思議とこの女性の「その後」を語るものがまったく見当たりません(ま、こういう付け焼刃な人間なので私が見つけられないだけなのかもしれませんが)。マイヤーリンク事件に関して、ハプスブルク家は厳然たる沈黙を守ってきたといいます。帝国警察とのやりとりがあったミッツィーもまた口止めされたことは想像に難くありませんが、知っていて止められなかったルドルフの死を彼女はどう背負っていったのでしょうか。歴史から姿を消したミッツィー・カスパー、日本の舞台ではどんな女性として蘇るでしょう。それとも、帝国劇場では姿を消したままになる? 

追記: 先週、閲覧数27万pv超えていました。いつもお付き合い頂いてありがとうございます。知らないことばかりですので、間違っているときは教えていただけると、とても嬉しいです。よろしくお願いします。 

ルドルフ RUDOLF The Last Kiss/最後の皇妃ツィタの証言

2008-01-22 | RUDOLF The Last Kiss
 オーストリア=ハンガリー帝国皇太子ルドルフ(井上芳雄さん)と男爵令嬢マリー・ヴェッツェラ(笹本玲奈さん)の二人が短い生涯を閉じたマイヤーリンク事件、ヨーロッパでは1889年の発生以来、人々の関心を集めてきた稀な事件で、何十という説があるとも言われています。約百年を経過してもその熱は冷めやらず、帝国最後の皇妃ツィタの1983年の証言によるルドルフ暗殺説は特に注目を集めました。
 父フランツ・ヨーゼフ(壌晴彦さん)と王宮の政策に批判的で、プロイセンのヴィルヘルム2世(岸祐二さん)との軍事同盟に反対するルドルフに、皇帝廃位をたくらむ一派が接触してきた。しかし皇太子としてそんなことはできない、と拒否したルドルフは口封じのために暗殺された・・・というのが彼女の言い分です。このインタビューは一大センセーションを巻き起こしましたが、「暗殺説」自体は1918年以前にもあるのだそうです。また、35年以降にはルドルフの遺書、自殺の意思が示された書簡が発見・公開され、マリーの手紙にも二人で自殺する、と書かれていていることから、「暗殺ではない」と断言する研究家も多いのだとか。また、ご当地ではおじいちゃんが王宮の猟師だったとか、皇太子の親戚(!)だとかいってマスコミにしょっちゅう電話や手紙が舞い込むのだそうです。
 事実をこの島国にいて探ることは到底無理ですが、作品として見るなら、そのあたりがどう描かれるかで全く違ったものになりますね。バレエ"Mayerling"では、マリーはついたての向こうに姿を消し、次に姿を見せたときにはすでに息絶えてベッドに横たわっている、そしてルドルフは観客の前でピストルの引き金を引く、という演出です。ハンガリー版ミュージカル"RUDOLF"はどうだったんでしょうか、それに宮本亜門版はいったい・・・?
 ツィタは非常に誇り高い女性で、89年に96才でなくなるまでハプスブルク家の再びの隆盛を信じていたといいます。一族の歴史に残り、憶測の飛び交うこの事件から、スキャンダル的な要素を払拭することを希望していたことでしょう。このラスト・エンプレスにも、ある意味「演出家」のようなところがあるのかもしれません。

ルドルフ RUDOLF The Last Kiss/岡幸二郎さん演じるターフェ首相

2008-01-20 | RUDOLF The Last Kiss
 ミュージカル『ルドルフ RUDOLF The Last Kiss』で岡幸二郎さんが演じるオーストリア=ハンガリー帝国首相、エドゥアルド・ターフェ。『グランドホテル』では日程が合わず「岡男爵」を見ていない私にとってはリベンジになるのですが、「全ての民族を適度にバランスのとれた穏やかな不満の状態におく」がモットーだったとかで、老獪な感じです。役どころとしてはかなり違いますね
 ルドルフ皇太子存命中のオーストリア=ハンガリー帝国の特徴は、15以上の民族がひしめき合う多民族性といいますから、ヨーロッパのなかのアメリカみたいな感じだったんでしょうか。公用語はドイツ語で、チェコ人のカフカやリルケはドイツ語で創作したから世界的作家として今も名を残していると言われています。
 ですが、それを変えようと「言語令」を出したのが、チェコ人のターフェ。帝国内のマイナー言語であったチェコ語をドイツ語と同じ公用語扱いにしました。すると殆どのチェコ人はドイツ語を話し、ドイツ人はチェコ語を話さないために、役人として採用されるのは殆どがチェコ人になったそうです。今のアメリカ西海岸の街中では英語とスペイン語の両方が表示されていて、ヒスパニック系を中心にスペイン語を公用語に、という意見も多いのですが、なるほど、政治的な影響がそんな形で出るのですね。
 そんな思い切った政策をとるターフェ首相の14年間の在任中には、チェコ民族の文化・経済が飛躍的に発展したそうです。が、当然ながらドイツ人側の反発を買い、ドイツ民族至上主義者が声を上げることになります。そんなウィーンにのちに画学生だったアドルフ・ヒットラーが住むのですから、ターフェ首相はその後のヨーロッパの運命を大きく動かした一人ということになりそうです。(ルドルフはこの首相を嫌い、またドイツ帝国のヴィルヘルム(岸祐二さん)をも嫌っていたそうです。)
 ・・・ダンスオタクにとっては「コトバ」から離れて身体の言語を目にするのがとても癒されることなんですが、人と人との間にいっぱい渦巻いている「言語」の力って凄いですね。青山航士さんのダンスには明瞭に発音されるコトバのような明晰さと雄弁さを感じますが、一般のミュージカルって「歌=公用語、ダンス=第2の言語」みたいなものかもしれません。『ルドルフ RUDOLF The Last Kiss』では、ダンスも公用語にしてほしいな~

ルドルフ RUDOLF The Last Kiss/宮本亜門版スタッフ

2008-01-17 | RUDOLF The Last Kiss
 『ルドルフ RUDOLF The Last Kiss』東宝公式サイトで宮本亜門版のスタッフが発表されましたね
 宮本亜門さんがアジア人演出家として初のブロードウェイ進出を遂げた『太平洋序曲』で、トニー賞にノミネートされた松井るみさんが装置を担当、宮本さんとのブロードウェイコンビが再現されます 青山航士さんが出演されるのでミュージカルを見るようにはなっても、根はダンスファン、だんぜん視覚派の私にとっては嬉しいニュースです。
 視覚、といえば照明が『グランドホテル』『SHOW店街組曲』を担当された高見和義さんというのもビンゴですね~。『グランドホテル』は光と影の重なり具合がとても綺麗でしたし、『SHOW店街組曲』は(私はDVDでしか見る事が出来ませんでしたが)冒頭の曙光のような照明がすごく綺麗なんですよね。青山さんのソロ”Introduction”の照明も、光なのに直線的でないというか、青山さんの動線が描く流線型を浮かび上がらせるような、独特の質感が素敵でした。
 そして振付が上島雪夫さん。コンテンポラリーやミュージカルで数多くの振付をされていますが、ご自身もダンサーとしての活動を続けておられます。だけど『ウエストサイドストーリー』『キャッツ』などに出演されているとは知りませんでしたダンスファンの風上にもおけない人間ですみません 正直言ってハンガリー版公式サイトを見たときは「ダンス少なそう・・・」と心配になっていたのですが、上島さんのお名前を見て安心しました。是非ダンサーの眼で青山さんたちを限界まで動かしていただきたいな、と思います。
 私がどれだけ青山航士という表現者を知っているのかは心もとないのですが、これまで舞台を見てきて、私の知っている限りでもそのうちの何割かしか見えないように感じる事がありました。個々の作品や振付への不満というよりも、青山さんが「言葉によっては表現されえないもの」をありありと見せてくれる幅の広い表現者だということが、常にそんな感触を残していくんですよね。また、このボーダーレスの時代に、まして『ウエストサイドストーリー』から50年を経て、ミュージカルにそこまでのダンスは要求されていない、とは思えません。原作は1888年から1889年の一年間を描いているということですが、その一年間に当時の人々が抱いた感情や、事実の与えた衝撃が舞台上で「視覚的に」克明に蘇るようなダンス、期待してしまいます。

ルドルフ RUDOLF The Last Kiss/原作者フレデリック・モートン

2008-01-15 | RUDOLF The Last Kiss
 ミュージカル『ルドルフ RUDOLF The Last Kiss』の原作はニューヨーク在住・フレデリック・モートンの"A Nervous Splendor"。書評を見ると「ノンフィクション」に区分されているので、かなり史実に忠実な内容のようです。原作も音楽もアメリカ製なのにハンガリー発?と少し不思議に思っていましたが、モートンの履歴を少したどると(勝手な思い込みかもしれませんが)納得がいきました。
 1924年ウィーンでユダヤ人の家庭に生まれたモートンは、ユダヤ人迫害が日常化した1940年に一家でいったんイギリスへ逃れたあと、改名し、アメリカに移住しています。アメリカという国は自由で平和そうに見えて、今も癒やし様のない傷を背負った方がたくさんおられますが、『ルドルフ RUDOLF The Last Kiss』の作者もその一人のようです。
 皇太子ルドルフの父、フランツ・ヨーゼフが即位した1848年にはユダヤ人に移動の自由が認められ、その後67年には居住と職業の自由も法的に認められるなど、ルドルフの存命中はユダヤ人に対する差別が解消する方向にあったようです。が、第一次世界大戦中にユダヤ系難民がオーストリアに集中したことから、食糧難・住宅難など問題が多発しました。国中に反難民感情が高まり、後のナチス・ドイツによるユダヤ人差別にその反感が増幅される形になったようです。オーストリアにも強制収容所が造られ、多くのユダヤ人が殺戮の対象になりました。自由主義者だったルドルフが即位していたら・・・? 多くの人の運命が変わっていたかもしれないですね。
 原作には当時を生きたフロイト、ブラームス、ブルックナー、クリムト、マーラー、シェーンベルク、そしてヒットラーの肖像も書き込まれているといいますが、自分自身の家族の運命が、その時間と空間に織り込まれていた人が作者だという重みが、この物語をかつてのオーストリア=ハンガリー帝国の都市で再生しようという想いにつながったのだという気がします。
 東宝公式サイトの宮本亜門さんのメッセージにも、ルドルフが生きていたら世界は今とまったく違っていたと言われている、とありますが、誰よりもモートン自身が痛感していることなのかもしれません。

ルドルフ RUDOLF The Last Kiss/うたかたの・・・

2008-01-14 | RUDOLF The Last Kiss
 ミュージカル『ルドルフ RUDOLF The Last Kiss』はさておき、1889年のマイヤーリンク事件にまつわる映画・お芝居・バレエはみな『うたかたの恋』、と邦題がつけられていますね。皇太子ルドルフと年若い下級貴族令嬢の恋、「うたかたの=泡のように儚い」という言葉がぴったりだ、ということでしょうか。・・・が、たぶんこの言葉は前の記事で触れたルードウィヒ王のシュタルンベルク湖での溺死(1886)に材料を得た森鷗外の『うたかたの記』からとったんじゃないかな、と思います。
 この時代のミュンヘンにはすでにたくさんの日本人留学生が訪れていて、「国王の溺死」というショッキングなニュースを現地で見聞した青年たちのなかに、24才の軍医・森鷗外がいました。
 19世紀半ばに、精神医学がヨーロッパで学問として定着し始めたということですが、その「最新の」医学がくだした「パラノイア(偏執狂)」という診断により、ルードウィヒはシュタルンベルク湖畔のベルク宮に護送され、事実上の退位となりました。そして翌日、ルードウィヒとともに遺体で発見されたのは、お抱えの精神科医グッデン。医師・森鷗外にとって非常に衝撃的な事件であったようです。
 ルードウィヒの従姉であるオーストリア皇妃エリザベートが、ベルク宮対岸のポッセンホーフェンで、自分を深く慕うこの従弟を救出しようと画策し失敗したという噂も残されているそうです。その三年後、息子ルドルフも生涯を閉じようとは、彼女も思っていなかったことでしょう。「うたかたの」という言葉とは裏腹に、残された者の傷はどんなに深く重かったでしょうか。

ルドルフ RUDOLF The Last Kiss/不在の皇妃エリザベート

2008-01-12 | RUDOLF The Last Kiss
 アンサンブルキャストが発表された『ルドルフ』東宝公式サイトにも、ハンガリー版同様、エリザベート役はやっぱりありませんね。
 政略結婚で勢力を拡大し続けたハプスブルク家としては例外的に、ルドルフの両親フランツ・ヨーゼフとバイエルンの王女だったエリザベートは恋愛結婚です。当初はエリザベートの姉がお妃候補だったのに、フランツ・ヨーゼフがエリザベートの美貌に一目ぼれして強引に結婚したのだとか。彼は生涯を通じてこの美しい妻の虜だったそうです。
 エリザベートが血を受け継いだバイエルン王家には強い近親婚に起因するとされる精神障害の遺伝が認められ、エリザベートの従弟はあの狂王ルードウィヒ2世です。ベジャールが振付け、シルヴィ・ギエムが踊った『シシィ(エリザベートのあだ名)』には、空気が破片になって飛び散るようなエリザベートの神経の昂ぶりが描かれていますが、彼女は皇妃としての生活に精神的に耐えられず、宮殿から姿を消すことも多かったそうです。
 ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画『ルードウィヒ 神々の黄昏』にも、ルードウィヒの城をエリザベートがふらりと訪ねるシーンがあります。映画を見た当時はてっきり演出かと思っていましたが、これは事実で、今思えばウィーンには夫とまだ幼いルドルフが残されていたのですね。
 ルドルフのマイヤーリンク事件にも、読んでいて息のつまるような精神の閉塞を感じますが、それがバイエルン王家の血によるものなのか、そうした近親者の姿を見て抱く強迫観念によるものなのか、複雑に入り乱れていて言葉が出ません。
 舞台上では不在でも、ルドルフの、あるいはフランツ・ヨーゼフの心を常にかきたて、揺さぶるエリザベート・・・フランク・ワイルドホーンのこの作品では、彼女の存在そのものが、人の心の交錯する「舞台」なのかもしれません。

ルドルフ RUDOLF The Last Kiss/弟と息子と妻と甥

2008-01-09 | RUDOLF The Last Kiss
 ミュージカル『ルドルフ』で壌晴彦さんが演じるルドルフの父親フランツ・ヨーゼフ1世。なんと在位は昭和天皇よりも長い68年! 1916年、86才で亡くなっていますが、後継者カール1世は在位2年足らずで退位させられていることを思うと、時代とともに生きて去っていったような皇帝です。権力者ならば誰もが羨むような長命ぶりですが、その間、彼は3人の肉親と妻の不幸な死を見届けなければいけませんでした。
 メキシコにハプスブルク帝国を築くために派遣した弟は民族主義者の軍事裁判によって銃殺刑、息子ルドルフはマイヤーリンクで31才の生涯を閉じ、妻のエリザベートは無政府主義者によって刺殺され、ルドルフ亡きあと皇太子とした甥フランツ・フェルディナンドはサラエヴォで暗殺され第一次世界大戦のきっかけとなり・・・皇帝冠が悪魔との契約書つきに思えてしまうほどですね。
 フランツ・ヨーゼフ1世が、皇太子という立場でありながら自由主義に傾倒する息子を厳しく叱責した数日後、マイヤーリンク事件が起きてしまうのですが、時代も身分も越えて、「親子」の結びつきというのは深く複雑だと思い知らされます。
 フランツ・ヨーゼフ皇帝は常に軍服を着用していたとかで、上の画像、W.Gauseの"State Ball"という華やかな舞踏会を描いた絵画のなかでも軍服姿です。
 東洋の島国から見ると音楽の都、という印象の強いウィーンの宮廷に生身の体を堅い布で幾重にも包んだ皇帝・・・。その勲章で飾られた胸のうちに音楽は入り込む事が出来なかったのでしょうか。
 

RUDOLF The Last Kiss/『うたかたの恋』

2008-01-07 | RUDOLF The Last Kiss
 青山航士さんが『RUDOLF The Last Kiss』に出演されると聞いて、ミュージカルファンならさしずめオーストリア=ハンガリー帝国皇太子ルドルフの母親を主人公とした『エリザベート』を連想するところだと思いますが、バレエファンの頭に最初に浮かんだのは英ロイヤルバレエの"Mayerling~うたかたの恋"です。
 演劇性の高さを特徴とする同バレエ団のこの作品は、皇太子ルドルフが心中とも暗殺とも自殺ともいわれる死をとげた「マイヤーリンク事件」で幕を閉じます。哀しみの滴り落ちるような作品で、振付のケネス・マクミランの代表作でもあります。・・・そういえば、東宝サイトのクレジットには「振付」がないのですよね、ということは宮本亜門さんがなさるのかな、とも思いますが、気になりますね~。
 
 さて、このバレエ版『RUDOLF』といってもいい『うたかたの恋』には、母を慕うルドルフと、およそ普通の女性の持つ「母性」というものとはかけ離れた存在である母后エリザベートとの関係が、そっと描き込まれていますが、ハンガリー版ミュージカルではエリザベートの役がないようですね。ハンガリーで制作されたオリジナル作品に、ハンガリーを愛し自治を認め、ハンガリーの民衆から愛された彼女が出てこない・・・? なんだか意味ありげでつい気をひかれてしまいます。早くもフランク・ワイルドホーンの術中に落ちてるな、私・・・。
 

RUDOLF The Last Kiss/ハンガリー版キャストを見てみると・・・

2008-01-04 | RUDOLF The Last Kiss
 遅くなりましたが明けましておめでとうございます。年末年始さぼっていた間もたくさんの方にご覧頂き、本当に有難うございます。本年も迷走必至ですが、どうぞよろしくお願いします。
 さて最高にハッピーな『All Shook Up』が幕を下ろし、年始は完全脱力する予定でしたが、年末に飛び込んだ青山航士さん『RUDOLF The Last Kiss』出演のニュースに気もそぞろです。
 ちょっと落ち着こうとハンガリー版公式サイトを覗いてみると、東宝の公式サイトで発表されている以外の役名が11もあるわ、読めない役名もあるわでかえって落ち着かなくなりました。東宝サイトに発表されていない役はというと・・・

Bratfisch (ルドルフの御者)
Willigut (ターフェのエージェント・・・「スパイ」ということでしょうか)
Kàrolyi Istvàn (ハンガリーの貴族)
Andrássy Gyula (ハンガリーの貴族)
Lònyal Ferenc (ハンガリーの貴族)
Prince of Braganza (ブラガンザは現在のポルトガル・・・と思います
     1月19日補足:マリー・ヴェッツェラに求婚していたポルトガルの公爵、ルドルフの狩猟仲間)
Mitzi(ルドルフの寵愛を長く受けていた高級娼婦)
Sophie
Kathrin
Meisner (Willigutのアシスタント)
Helga(市民)

 いや~、ハンガリーの名前って読めないですわ~ いつものことですが今年も知らないことばかりのスタートです。でもやっぱり嬉しいな