platea/プラテア

『ゲキxシネ五右衛門ロック』『The Musical AIDA』など、ミュージカルの話題作に出演の青山航士さんについて。

上質のブランデーのような"The Grand Charleston"を

2006-01-15 | グランドホテル ザ ミュージカル
やっと見ました『グランドホテル』。音楽は前評判どおりですが、私は台詞も人物像が浮き上がるようで、素晴らしいと思いました。作品そのものについてもいくらでも書くことはありますが、やはり今夜は青山さんのチャールストンです。

 舞台下手から出ていきなりのピルエット/ジュッテ・アン・トールナン+ドゥブル・トゥール・アン・レールと、ファンなら「待ってました!」のこの曲、パンフレットにもあるように、1920年代に入ってから流行した「観るだけでなく踊るためのダンス」には違いないんですが、洒脱な、という表現がぴったりの青山さんのチャールストンは、そのだれもが楽しむダンスを蒸留して、内側から光るブランデーに仕上げたような感じ(酔ってる)。音楽とはじきあうようにして刻まれる軽妙なステップは言うまでもなく、ポーズからポーズへ移る時のスリリングでいて流麗な動き、肩にも指先にもあふれる表情、どれをとっても本当に素敵でした。これだけの踊りが見られる場所は他にはそうありません。

 しかもそれはただ素晴らしいダンス、というだけでなく、全編が『グランドホテル』の時代を語る「演技」であるということを強く感じさせてくれるものでした。「バレエは流行おくれ、これからはジャズ」という台詞の示している時代、若い国アメリカから入り込んできたリズムに、ヨーロッパの伝統と敗戦の疲労のなかで生活している青年の目の前がパッと開かれるような感触が伝わってきます。たまたま私がバレエファンで、19世紀から20世紀初頭に作られた作品に親しんでいることもあるかもしれませんが、人種のるつぼの新しい国がアフリカのリズムを吸い上げて生んだ新しい音楽が、このとき見慣れぬ美しい獣のようにヨーロッパの人々を魅了した、そのことが実感できるダンスでした。

 そしてまた一方で、青山さんがターンするたび燕尾服のテールがすーっと綺麗に宙を切るのを観ていると、脳の中で日本舞を見て美しいと感じるのと同じ部位が刺激されている気がしました。「三忍者」を見ても明らかなように、「欧米のダンサーのように」素晴らしいのではなく、青山さんの身体の描線というのは、あれだけのリズム感に矛盾することなく、どこかにいつも「所作事」の美しさに通じるところがあるのです。今に始まった事ではないけれど、青山さんのダンスの複雑で魅力的な多面性が、いつもより強く感じられる舞台でした。皆さんがおっしゃるようにダンスはそう多くない、多くないんだけど、長いリハーサルで費やされた時間が、きちんと結実しているということなのだと思います。

 今夜はまだ言葉が追いついてきません。この作品、とにかく語りたいことが一杯です。理想はブランデー片手に夜の明けるまで、なんですが・・・。


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