copyright (c)ち ふ
とうとうあの人が結婚を申し込んでくれたわ。
今夜は私の部屋に訪ねて来てくれるという。
待遠しいわ。
すだれが揺れてる。
さあ、あの人の言う通りにして待っていよう。
肌着も新しいものに取り替えてお風呂にも入った。
常世の願いをもたらしてくれるという橘の実も浮かべたの。
ああ香久わしい匂い。
あの人に何をご馳走しようかしら?
蘇も出そうかしら。
濁り酒もつけようかな。
黒酒それとも白酒がいいかしら。
でも、まだお父さんやお母さんに見つかってはいけないの。
お母さんは奥に寝ているけれど、
外床に居るお父さんに気づかれはしないかしら。
もし、見つかったら、あれは風の音なのよと言うことにしよう。
あの人、もう少しお金が貯まるまで、
正式な申し込みは待ってくれと言っていた。
いいわ。
いつまでも待ってあげる。
裏紐は、どうしておけばいいのかしら。
あら、こんなこと考えて・・・ はしたないわね。
まそ鏡の中に入って隠れていたい。
夜よ、早く更けて、今宵を黒く包んでおくれ。
(うまくいった。
岩踏む道、遠い道のりといえども、苦にはならない。
石川の清の川原で、身も浄めてきた。
部屋の中は狭いが雪香の匂いがいっぱい詰まっていて、
心が安らぐ。
オレは、何処に座って良いか分からなかったので、
隅に寄っていた)
{遠 慮 し な い で 、 こ こ は あ な た の へ や よ}
つづく