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(雪香がこっくりとうなづいて、目を閉じてくれた。
オレは生まれて初めてだ。
人間の男と女がそうしているのは、
神杉のすき間から何回となく見ている。
あんなことして、何がいいのかと思っていたが、
体と体を合わせることは、いいものだ。
雪香の手の平に触れるだけでもドキドキするのに、
あの可愛い声が出る、
柔かそうでほんのりと赤い唇に触れるなんて考えただけでも、
血が頭のてっぺんまで上ってきて卒倒しそうだ)
あの人ったら、初めてなのね。
歯と歯がぶっかってしまった。
お陰で私の唇も切れてしまったわ。
でも嬉しい。
あの人の初めての、唇に接した女の子になれたんだもの。
もちろん私も、はじめて。
頭からすーっと血がひいて、天に昇るようだった。
(あの子の唇に触れた瞬間、赤電が走った。
何がなんだか分からなくなった。
これでますますあの子がオレのものになったと思った。
あの子とオレの細い繋がりの糸が大きくなったように感じた)
まだ、唇が痛い。
お母さんに見つかるときっと追求されるわ。
女の直感で分かってしまうかしら。
唇を少しだけ結んでおこう。
唇にはまだあの人が残っている。
憎い人。
ああ、ずっとそばに居たいのに、
結婚の申し込みはしてはくれなかった。
言い出せないのね、とても気が弱そうだから。
(身体が火照る。
咽喉が乾く。
口あわせとはあんなにいいものだったのか?
つづく