1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

1月22日・森敦の歩幅

2014-01-22 | 文学
1月22日は、英国の詩人、バイロン卿が生まれた日(1788年)だが、作家、森敦の誕生日でもある。
自分は、森敦の小説『月山』を学生のころに読んだ。作家の宮本輝がかつて、
「数ある芥川賞受賞作のなかでも『月山』と『限りなく透明に近いブルー』は別格だ」
と言っていたが、自分も両作品は優れていると思った。『ブルー』は村上龍が24歳のころ、『月山』は森敦が61歳だったときの作品である。

森敦は、1912年、長崎で生まれた。父親は書家で、母親は従軍看護婦だった。男ばかりの4人兄弟の、敦は三男だった。敦が5歳のとき、一家は朝鮮半島の京城(現在のソウル)に引っ越し、彼は京城の学校を出た。
18歳の年に父親が没し、同じ年、京城に講演会にやってきた菊池寛、横光利一の講演を聞き、話す機会を得、これが縁で「小説の神様」横光利一に師事することになった。
一浪した後、19歳で旧制一高に入学したが、翌年には退学。
22歳のとき、横光の推薦を受けて、小説『酩酊舟』を新聞に連載した。
新聞小説以後、森は捕鯨船に乗りこんだり、樺太に渡ったり、山形の山奥に住みついたりと、各地を放浪するようになった。放浪して、お金がなくなると、機械工場や建設現場で働き、しばらくするとまた放浪の旅に出るという人生を送った。
それでも、29歳のときには結婚し、いっしょに暮らしたり、離れて暮らしたりしながらも、妻が没して死別するまでずっと結婚は続けていた。
流転の生活のなかで、ときどき小説や随想を書いたが、完成しないものが多かった。
61歳のとき、同人誌に『月山』を発表。これが芥川賞候補となり、芥川賞はもともと新人作家のために設けられた賞だったため、62歳の新人がいてよいのか、との議論もあったが、結局受賞が決まり、以後、森は作家生活に入った。
芥川賞受賞の翌年、妻が没。
1989年7月、森は腹部大動脈瘤破裂のため没した。77歳だった。著書に『鳥海山』『わが青春 わが放浪』『われ逝くもののごとく』『意味の変容』などがある。

自分は横光利一のファンなので、モダンで感覚鋭い横光とはおよそ対照的な作風の森敦が、師弟関係にあるのには驚かされた。

ずっと以前、自分に「森敦ブーム」の一時期があって、『わが青春 わが放浪』『われ逝くもののごとく』『意味の変容』など、そのころいろいろ読んだ。
細かな内容については忘れてしまったけれど、その人生を歩く歩幅の大きさ、その歩調のゆったりとした悠然としてたさまに驚かされ、強く印象に残っている。
おおよそ、十年働いて、十年さすらい、また十年働く、という感じで人生を送った人で、自分のように、こせこせと始終せわしなくしている小者の多い現代日本のなかで、これだけ姿の大きな人は、めったに見当たらないと思う。
こういう人の横に並ぶと、たいていの人は、みな忙しく動きまわっている小ねずみのようなものである。細かなことにこだわらず、森敦のように、ゆったりとした歩幅でわが道を歩みたいなぁ、とは自分も願うのだが、根が小心者のせいか、なかなかそうはいかない。それで、せめて束の間の気分だけでもと『月山』や『われ逝くもののごとく』を読み返す。マイ・ペース、いいなあ、と。
(2014年1月22日)



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