1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

3/25・「ミズ」のグロリア・スタイネム

2013-03-25 | 歴史と人生
3月25日は、伝説のテニスプレイヤー、清水善造が生まれた日(1891年)だが、米国のフェミニスト、グロリア・スタイネムさんの誕生日でもある。
自分は専門が米国1960年代文化史なので、1960年代後半から米国内で盛んになった女性解放運動(ウーマン・リヴ)について、学生時代からすこし勉強していて、スタイネムさんというえらい女性がいることは、当時から知っていた。
女性解放を前面に押しだしたフェミニズム雑誌「ミズ(Ms.)」が米国で創刊されたのが1972年。この創刊時の発行者がスタイネムさんで、同時に、彼女は執筆者としてこの雑誌にずっと原稿を寄せ続けた。
その昔、未婚女性は「ミス(Miss)」、既婚女性は「ミセス(Mrs.)」と分けていたところ、女性だけが結婚で変わるのはおかしいと、新たにできた「ミズ(Ms.)」を掲げ、一般に定着させたのが、スタイネムさんの雑誌である。
スタイネムさんは、避妊や出産、性教育、衛生指導、平等な労働条件、女性が生き方を選ぶ権利などについて積極的に発言し、米国をはじめ全世界の人々の意識を変えるのに絶大な貢献があった。
ほとんどの人はその名前さえ知らないと思うけれど、日本の全女性と、それを含む世界の女性のほとんどが、なんらかの形で彼女の恩恵を受けている。スタイネムさんは、それくらいのことをやってきた偉大な人だと思う。

グロリア・スタイネムさんは、1934年、米国オハイオ州のトレドで生まれた。「スタイネム」の名前から明らかなようにユダヤ系で、骨董品のセールスマンだった父親は、ドイツ、ポーランドから米国にやってきたユダヤ人移民の息子だった。グロリアの母親は、ドイツ、スコットランド系である。
スタイネムさんが3歳のとき、母親が深刻な神経症にかかった。
そして、10歳のとき、両親が離婚。父親は西海岸へ行ってしまい、残されたスタイネムさんは、それから17歳のころまで、幻覚症状におびえる母親をほとんどひとりで面倒をみた。このときの経験が彼女に、社会の不公正さを教えた。
大学を出た後、チェスター・ボウルズ・アジアン・フェローの資格を得て、インドに2年間滞在。
帰国後は、政府系機関などで働いた後、ジャーナリズムの世界に飛び込み、28歳のころ「エスクワイア」誌で書いた記事を皮切りに、フリーのライターとして活躍。
29歳のとき、プレイボーイクラブにバニーガールとして入り込み、みずからバニーの衣裳を身につけて働き、その内部事情を暴露した「プレイボーイクラブ潜入記」を発表。一躍、世界的に有名なジャーナリストとなった。
1969年、35歳のとき、「ニューヨーク・マガジン」誌の企画で、妊娠中絶について語る会を開催。彼女自身、中絶手術を受けたことがあることを告白した。これは、当時、米国で否定的に扱われていた人工中絶手術を、もっと開かれたものとし、子どもを生む、産まないの選択権を女性に与えよう、女性を自由にしようとする議論で、大論争を巻き起こした。
38歳になるすこし前に「ミズ」創刊。それ以後も、雑誌媒体への寄稿、各地を巡っての講演活動、女性団体の設立など、幅広い分野で、男女同権、女性の自由獲得のための活動を続けてきた。
2000年、66歳のとき、7歳年下の実業家の男性と結婚し、「あのスタイネムが結婚」と世界的に話題になった。

自分はスタイネムさんのファンで、彼女の著書をいくつか読んでいる。有名な「プレイボーイクラブ潜入記」も読んだし、そのほかの短い文章や、マリリン・モンローの人間像に迫った『マリリン』も読んだ。
『マリリン』には、感心した。これは、スタイネムさんから見たノーマ・ジーン(マリリン・モンローの本名)論だけれど、ノーマ・ジーンという女性の知性、人間性、努力と苦闘、そして社会の女性差別のなかで犠牲となった悲劇をみごとに描き上げている。
スタイネムさんのように、マリリン・モンローという人を、ひとりの生きた女性として、ちゃんと考えた人は、それ以前にはいなかった。それまでのはたいてい、セックスがらみのスキャンダル本や、死を巡るミステリー本ばかりで、マリリン・モンローを人間とも思わない扱いをしたものがほとんどだった。
「彼女の伝記作家の大半は、彼女が独学しようとする努力をけなすか、もしくはばかにしてきた。たとえばノーマン・メイラーの言葉によると、『教養がない(美しい金髪に共通するこの悩み)うえに、彼女にはまったく文化というものもなかった……』」(道下匡子訳『マリリン』草思社)

この本のなかに引用されているマリリン・モンローのつぎのことばが、スタイネムさんが闘ってきた対象の本質をよく言いあらわしていると思う。
「『ハリウッドでは女の子の貞操など、彼女の髪形ほどの価値もないのです』と彼女はハリウッドに対する痛烈な批判を書いている。『あなたは自分の中身によってではなく、単に外見だけで判断されるのです。ハリウッドは、ひとつのキスのためにはあなたに1000ドル支払い、あなたの魂には50セントしか支払わぬところです。私はよく知っています。なぜなら私は最初のほうの申し出をずいぶん断り、50セントのほうに手を差し伸べたのですから」(同前)
強烈に現代性を感じる。現代の日本でも、そのまま通じる批判だと思われるのは、自分の勘違いだろうか。
(2013年3月25日)

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