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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

3月12日・葉山嘉樹の真実

2014-03-12 | 文学
3月12日は、天才舞踏家、ニジンスキーが生まれた日(1890年)だが、作家、葉山嘉樹(はやまよしき)の誕生日でもある。
葉山嘉樹がすぐれたプロレタリア文学作家だということは、若いころから耳にしていた。でも、自分は左翼運動とか学生運動とかを嫌うノンポリ学生だったので、その作品をながらく読まなかった。社会人になってからようやく葉山嘉樹をいくつか読んだ。まさにすぐれた作家だと思った。

葉山嘉樹は、1894年、福岡県で生まれた。武士の家系の出で、早稲田大学の予科に入学したが、学費を滞納して除籍となった。
除籍後は、外国航路の船の船員をへて、26歳で名古屋のセメント工場の工員になった。名古屋では労働運動に参加し、29歳のとき、検挙されて投獄された。
獄中で小説『淫売婦』を書き、労働運動から離れるという「転向」を誓う陳情書を書いて31歳で出獄。水力発電所の工事現場へ行き『セメント樽の中の手紙』を書いた。
32歳のとき『海に生くる人々』が出版され、葉山は注目作家となった。
工事現場で働きながら小説を書き、50歳のころから満州への開拓団運動にかかわり、満州へ渡った。敗戦直後の1945年10月、日本へ帰国するために乗った列車内で、脳溢血のため没した。51歳だった。

未完の小説『死霊』を書いた埴谷雄高が、自分の文学的態度についてこう書いている。
「『暗夜航路』『都会の憂鬱』『雪国』は吾国の代表作だと思い、横光利一に関心をもち、葉山嘉樹に無条件賛成で、梶井基次郎、牧野信一、北条民雄などの夭逝作家に深い親近感をもったといった具合です。」(『虹と睡蓮』未來社)
自分はこの文章を社会人になってから読んだ。自分の好みも、埴谷雄高の意見にかなり近いので、
「これは、やっぱり、葉山嘉樹を読まなくては」
と思い、『セメント樽の中の手紙』や『海に生くる人々』を読んだ。まったく脱帽するべき傑作で、『セメント樽』の趣向や、『海に生くる人々』に登場する人間の一人ひとりが血が通っている人間だというリアルな感触に感服した。
同じプロレタリア系の文学でも、小林多喜二の作品となると、自分にはちょっとむずかしくて読みづらいのだけれど、葉山嘉樹は読みやすく、かつ、圧倒的な説得力を感じた。

葉山嘉樹はこう書いている。
「馬鹿にはされるが真実を語るものがもっと多くなるといい」
自分を含めて、現代の日本人が耳を傾けるべきことばだという気がする。
(2014年3月12日)


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