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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

3月10日・松田聖子論

2014-03-10 | 音楽
3月10日は1945年、米軍B29爆撃機344機が飛来した東京大空襲の日。この日は「ツィゴイネルワイゼン」の作曲家、サラサーテが生まれた日(1844年)だが、歌手の松田聖子(敬称略)の誕生日でもある。
自分がはじめて松田聖子を見たのは、1980年の夏、青森駅でだった。北海道をヒッチハイクしてきた帰り、青森駅前の露天で買い求めたリンゴをかじりながら、ふと駅の待合室のテレビを見上げた。朝のワイドショーが映っていて、ゲストの見知らぬ女性歌手が紹介され「青い珊瑚礁」という歌を歌いだした。いい歌だなあ、と思った。その夏が終わるころには、周囲で知らぬ者のいない存在に彼女はのし上がっていた。レイヤードの髪型「聖子ちゃんカット」が若い女性のあいだで大流行しだした。

松田聖子は、1962年、福岡の久留米で生まれた。本名は、蒲池法子(かまちのりこ)。蒲池家は柳川城城主の家系で、父親は厚生省の役人だった。由紀さおりの歌声にあこがれる歌好きの少女だった彼女は、ミョション系の高校に進んだ。高校1年、15歳のとき、歌手コンテストに出場。九州大会で優勝し、主催者のレコード会社にスカウトされ、歌手デビューを勧められた。しかし両親が反対し、彼女は高校生を続けた。その後も、東京のレコード会社側はときどき九州の久留米まで出向いて親を口説きつづけたという。
法子は高校3年生のときに芸能プロダクションと契約。上京し、東京都内の高校へ転校した。歌や踊りのレッスンを受けた後、18歳の4月に「裸足の季節」で歌手デビュー。同曲はテレビCMで流れ、続く「青い珊瑚礁」が大ヒット。以後「夏の扉」「赤いスイートピー」「秘密の花園」「Rock'n Rouge」「天使のウィンク」などヒット曲を量産し、アイドル歌手の頂点に君臨した。もちろん現在も活躍中である。

1982年に発売が開始されCD(コンパクトディスク)の、記念すべき世界初のCD60枚のうちの1枚が松田聖子の名盤「Pineapple」だった。ほかのアイドル歌手の楽曲とちがい、彼女の場合はシングルのB面や、アルバム中の収録曲も広く聴かれた。

松田聖子がデビューしたころ、自分は洋楽ばかり聴くロック少年だった。
当時、自分は新しい音楽を求めていた。大好きなデヴィッド・ボウイの新曲はいつも新しかったが、それ以外には海外のロック・シーンに目新しいサウンドがなかなか見つからなかった。新しい音が切実に聴きたかった。そんなときに発見したのが松田聖子だった。彼女の楽曲は、プロの作詞家や作曲家、プロデューサー、ミュージシャンたちが集まって作り上げた音楽産業の一商品である。ジョン・レノンやボウイの新譜を聴くのとはまったく意味がちがうけれど、それでも松田聖子の音は新しかった。
松田聖子はポップスを歌うためにこの世に生まれてきた人である。曲の解釈能力と歌唱表現のイメージ喚起力が抜群で、彼女が歌うと、歌を通して松田聖子は聴く者の頭のなかへ強引に押し入り、曲のイメージする風景をそこへ勝手に作り上げてしまう。作詞家の松本隆は自作「渚のバルコニー」を歌った彼女の圧倒的な説得力に脱帽したという。
当時の日本のスタジオ・ミュージシャンのセンスや技術レベルは世界最高の水準にあった。そこに、歌うために生まれた稀代のポップスシンガーが加わり、最後のワンピースがはまった。それで世界の最先端、最高品質の音楽が出現したのだと思う。

松田聖子のデビューアルバム「SQUALL」を聴いたときの衝撃は忘れられない。若い躍動感がスピーカーから押し寄せてくるようだった。そして「チェリーブラッサム」。ぐいぐい引っ張っていく伸びのあるボーカル。それと掛け合うギターサウンドのうねり。聴いた瞬間、日本の歌謡曲は完全に英米のロックを消化したと自分は確信した。しかもタイトルは日本の象徴「桜の花」である。
日本のポップスが世界の頂点に達した瞬間の記念碑。それが松田聖子だと思う。
(2014年3月10日)


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