料理人に万雷の拍手を!
今年の大型連休は大したものになりそうにない。新型コロナウィルスの脅威はひところより落ち着いたとはいえ、全く払拭されたわけではないし、天気も晴れたり雨だったりで不安定だとテレビは言うし、諸々の出費がかさんで懐具合は実に頼りなく、大手を振ってバカンスを満喫する勇気もなくなっているからである。
それでも気晴らしは心の健康に必要ということで、連休初日、ほぼ一年振りに海を見に行った。と言っても、本当にただ海を見た、というくらいのことである。今回は犬を連れて行った。日々飼い主につれなくされ、欲求不満の溜まっている我が家の番犬である。おかげで行動には大幅な制限がかかった。犬連れでは、食堂に入り日本海の幸に舌鼓を打つこともできない。誰もいない砂浜を選び、犬を走らせ、久々の自由に興奮した犬が日本海の荒波に脚を踏み入れようとしたところで、まさに潮時だと引き上げた。
帰途、能生の道の駅に立ち寄った。そこは大型連休らしく活気にあふれていた。ハサミを手に蟹を食べている親子連れ、大きな発泡スチロールの箱を抱えて車に戻る夫婦、威勢のいい声で観光客を呼び込む鉢巻きをした兄さんたち────。
いつしか我々夫婦も感化され、何か威勢よく買い物したい気分に駆られていた。せっかく海に来たのだ。このままでは帰れない。ふと見ると、氷を敷き詰めたケースに魚が様々並べられている。どれも一ケース千円。安い。訊くと、さばかずそのまま売るから安いのだそうだ。「新鮮だから、三枚に下ろして刺身でも食べられるよ」と言われ、夫婦ともども三枚下ろしなどしたこともないのに、さらに興奮してしまった。ユーチューブを見ながらやれば何とかなる、とお互いに言い聞かせ、結局、小さな鯛四尾、ホウボウ六尾、名も知らぬ魚二尾ほど入ったケースを買い求めてしまった。
自宅に戻ってからが災難だった。
ただでさえ素人な上に包丁が切れない。三枚に下ろすつもりがいつの間にか細切れ状態である。鱗や内臓が散乱し、手は生臭くなり、食卓に並ぶ頃にはこちらの食欲が減退してしまった。焼いてもみたし、アラ汁も作ったが、そんなに似たような魚ばかり食べられない。
今後二度と分不相応なことに手を出さない、と二人で誓い合った。
店に行き、料理を作って出してもらう、という当たり前のことが、いかにあり難いことか。今回の一件で身をもって知ることができた。だからこそ夜の暖簾をひょいとくぐりたいところだが、そこは懐の隙間風が待ったをかける。
まだ連休は後半を残す。取り敢えず金のかからない山登りをするつもりである。庭の雑草も呼んでいる。
魚たちにも謝っておこう。
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