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国道沿いの洋食屋

2024年02月23日 | essay

 久しぶりにいいレストランを見つけた。

 国道19号、松本と長野を結ぶ二車線は、山沿いや貯水池脇を走る、意外と閑散とした道路である。高速道路が平行に走っているせいもあろう。

 その国道沿いに看板が立っているので、通るたびに何となく気になっていた。しかしドライブイン式の食い物屋は外れが多い、という通念に従い、立ち寄るのを避けていた。それでもやっぱり通るたびに気になる。何が気になるのか、正直わからない。看板に惚れたわけでも、店の外観が特別好みなわけでもない。それでもなんとなく外ににじみ出る雰囲気、というものがあるのだ。これだけ気になるんだから、ひょっとしたら悪くないのかも知れない。二月初旬、半分冒険心で立ち寄った。

 笑顔で迎え入れられた。天井が高く、椅子やテーブルには昭和の名残があり、観葉植物が手すりを這っている。いかにも昔からある町の洋食屋である。店内は段差があり、その分空間が広く見えた。

 少し高くなったフロアにあるテーブルに夫婦で陣取る。

 ハンバーグが売り物らしいので、二人ともハンバーグ定食を注文する。

 待っている間、水を飲む。アーチ形の窓から外を見ると、淡く宵闇が落ちつつある。少しだけ日が長くなったか。店内を見渡す。一、二組食事をしている。観葉植物を見る。また水を口に含む。不思議と心が落ち着く。

 不思議と、心が落ち着くのだ。向かいに座る妻も、同じ思いを伝える表情をしていた。特別洒落た造りでもなければ、高価な置物も純白のナプキンもない。しかし、長年真面目にフライパンを振り続けてきた亭主が厨房にいて、言葉少ない信頼関係で結ばれた家族がフロアを切り盛りしている、そう思わせる何かがあった。

 出てきたハンバーグは、実直で、飾り気がなく、旨かった。ゆっくりと嚙み締めて食べた。

 充分だ。これで充分だと思った。

 気取らず、年を重ね、しかしどんな客に対しても温かく、きちんとしたものを提供し続ける。

 こういう店が少なくなった。

 金を払って店を出ながら、また来ようと思った。 

 

 翌週、我々はまたその扉を開けることとなる。

 

(終)

 

 

 

 

 

 

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