た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

休載

2015年07月27日 | 連続物語
生業が繁忙期に入るため、『火炎少女ヒロコ』の更新は八月下旬までお休みさせていただきます。

という告知がどれほど必要とされているかはいざ知らず。





※写真は新潟の海。海無し県にいるせいか、どうしても海が見たいという欲求に駆られ、車を走らせる。
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白骨温泉

2015年07月20日 | essay
先日、半日予定が空いたので、猛暑の街を飛び出し、車を走らせてはるばる白骨温泉に辿り着く。何をしているのやら。



俗塵を拭い去り  葉陰に沐浴す

青山海の如し 吾小舟の如し 

漂う果てを知らず 願わくば骨となりて浮かばん



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火炎少女ヒロコ 第三話(草稿) ~11~

2015年07月14日 | 連続物語

 『シャイフ・アブドゥル=ラフマーン様がお越しです』
 若い通訳は慌てて身を退いた。アラビア語のわからないヒロコも、名前だけは聞き取ることができる。彼女は火照った頬に手を当て、ひどくうろたえながら姿勢を正した。
 香の煙が乱れる。
 幕が開き、族長が姿を現した。
 白い長衣に何重にも巻いた首飾りを下げ、その上に族長だけが身に着けることを許された彩り豊かな外套を羽織っている。ここ数か月のアル・イルハムの軍事的躍進が、彼の威信をかつてないほど高めていた。腰には宝石を散りばめた金色の短剣。威風堂々とした立ち姿に似つかわしい、長く黒々としたあごひげ。
 族長はじろりと室内を見渡し、部屋の隅に小さくなっているサリムを見やった。
 『なぜお前がここにいる』
 『ヒロコ様のご命令で、戦況について説明していました』
 『ふむ。まあ、お前がいると都合がよい。わしの話すことを英語で伝えろ』
 『かしこまりました』
 族長は正面を向き、超人的な力を持つ女を見据えた。ヒロコは動揺を悟られないよう努めて彼を見返した。
 族長は片膝を立てて腰を沈めた。
 『同志ヒロコに神のご加護を。時が来た。多国籍軍がこちらに向かっている』
 サリムは目を見開いたが、すぐに英語に訳した。
 族長は続ける。
 『あなたの一層の活躍を、我々は期待している』
 ヒロコは身じろぎもせず、族長のアラビア語とサリムの英語に耳を傾ける。
 『今度の戦いは、今までのように簡単にはいかない』
 族長は自らを落ち着かせるために言葉を切った。貫くような視線でヒロコを捉える。
 胸を膨らませ、深呼吸を一つ。それからヒロコににじり寄った。
 『同志ヒロコ。時は来たのだ。我々は本当の意味で団結して、一つになって外敵に当たらなければいけない。一つにならなければいけないのだ。ヒロコ。あなたは砂漠にかかる月のように美しい。あなたは私の妻として相応しい。私もあなたの夫として相応しい男である。一つになろう。これは、あなたがムスリムに改宗する絶好の機会でもある。どうか、私と結婚してほしい』
 ヒロコは青ざめた。語られたのが求愛の言葉であることを、雰囲気で察知した。しかし、確かなことが知りたい。肝心の英語が聞こえてこない。若き通訳は、あまりに愕然として声が出なかったのだ。
 族長の鋭い視線が通訳を捉えた。
 『どうした。サリム。なぜ訳さない』
 『いえ、はい。ただいま』
 『なぜ汗を掻いている。なぜ顔が赤い』
 シャリフ・アブドゥル=ラフマーンは、怒りに満ちた形相で、若い通訳と東洋の女を見比べた。明敏な彼は直観ですべてを悟った。
 『おのれ、サリム。身の程を知れ!』
 黄金の短剣が抜かれ、鋭いうなりを立てて弧を描いた。青年の首が血しぶきを上げて胴体から離れた。あっという間の出来事であった。首は、絶叫を上げることもできず天幕にぶつかり、床に転がった。
 ヒロコは癲癇を起こしたように全身を痙攣させた。あまりの恐怖に腰が砕け、逃げ出したくても後ずさりすらできなかった。ヒロコは恐れおののいた。数多の人を焼き殺しながら、今初めて、彼女は死の恐怖というものを味わった。大量の鮮血。血痕が彼女の衣服にかかっている。アブドゥル=ラフマーンも、首のない胴体が倒れるときの返り血で真っ赤である。足元には血の池。
 天幕の裾から、ジャミラががたがたと震えながら中を見つめていた。
 顔までも血に染めた族長が、凄まじい形相でヒロコを睨みつけた。
 もちろん、彼自身も命の危険と隣り合わせであった。火炎少女に燃やされる恐れがある。だが、彼の気迫ははるかにヒロコの能力を上回った。ヒロコは怒りを覚える余裕すら与えられなかった。彼女は子犬のように怯えた。
 アブドゥル=ラフマーンは短剣を鞘に納めた。荒い息で肩が上下する。
 『敵の襲来に備えろ』
 彼は広い背中を向けた。
 『血の付いた物はすべて替えさせる。通訳も新しいのを見つける』
 そう言い捨てると、彼は天幕の外に立ち去った。もちろん全てアラビア語だったが、ヒロコは不思議とその内容を正確に理解できた。彼のオーラから読み取ったのだ。剣を抜いた後の族長からは、今までになく強力なオーラが発散されていた。彼は、ほとんど特殊能力者に近い力を持っていた。
 あとに、凄惨な胴体と首と、大量の血と、ヒロコが残された。ランプの灯りがそれらを無情にもくっきりと照らした。
 ヒロコは嗚咽した。
 夜風で天幕がばた、ばた、とはためいた。

(つづく)

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車山

2015年07月13日 | essay
 涼を求めて、車山高原を歩く。高原でもやっぱり暑かった。本格的な登山者は皆暑い顔をして登っていた。こういうときはいい加減に歩くに限る。手製のサンドイッチを食べると早々に下山。サンドイッチを食べに行ったようなものである。あとは車山高原スキー場のテラスに移動して昼寝を決め込んだ。

 蝶が舞い、ため池にカルガモが浮かび、日蔭には心地よい風が吹いていた。



 写真はニッコウキスゲ。そういう花があることを初めて知った。
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火炎少女ヒロコ 第三話(草稿) ~10~

2015年07月07日 | 連続物語

 「アイスが食べたい」
 日本語で言い放った。
 ジャミラは眉を顰め、顔を覗き込んだ。「What?」
 「アイス。アイスよ。アイスクリーム」
 「Oh. No. No ice cream」
 「わかってるわよ。どうせここには冷蔵庫がないもの。こんな砂漠のど真ん中じゃ」
 「マーファヒムトアレーク」
 ヒロコの苛立ちは頂点に達した。「アラビア語でしゃべらないでよ。イングリッシュ。イングリッシュ!」
 ジャミラはうろたえて天幕を出て行った。
 残されたヒロコは舌打ちする。宝石を嵌めた指が震え、髪が乱れる。自分はこんなところで何をしているのだろう、と彼女は思った。日本語の通じない、暑くてもアイスも食べられないような辺鄙な場所で。
 何をしているか? 殺人をしているのだ。殺人────それ自体は、回を重ねるごとに、ヒロコの心を前ほどかき乱さなくなっていた。そのことも彼女自身驚きであった。彼女は自分が人の死に関して不感症になっているのを自覚した。だが、ずっしりと重い、まるで焼け焦げた死体が自分の胸に次々と折り重なっていくような重苦しさを、日を追うごとに強く感じていた。
 ヒロコは吐息をついた。
 ジャミラは背の高い通訳の男を連れて戻ってきた。彼の名はサリム=カルハシュ。ヒロコがこの地で意識を回復して以来彼女の通訳を任されている。この部族で唯一英語のできる男である。鼻髭を蓄え、彫りの深い目をしている。
 彼が入ってくると、ヒロコの様子が変わった。さりげなく髪の乱れを直し、毅然とした態度を取る。頬がうっすらと紅潮している。
 サリムは深くお辞儀をした。それから、『何をお望みですか』と英語で尋ねた。
 ヒロコは伏し目になり、小声の英語で答えた。
 『彼女を外へ』
 サリムは頷き、ジャミラにアラビア語で外へ出るよう指示した。ジャミラは驚きと憤りの表情でじっとヒロコを見つめると、部屋を出て行った。
 広い天幕に、青年と二人きりになった。ヒロコは脇の天幕を見つめながら、熱い吐息をついた。
 サリムは凛々しい眉の奥にある情熱的な眼差しで女主人を見つめた。その視線を、目を合わさなくともヒロコは痛いほど感じ取っていた。ユウスケは────ユウスケはもちろん、彼女の思い出の中で依然として大きな位置を占めていたが、いかんせん、彼はここにいなかった。会える見込みもなかった。果てしない砂漠と打ち続く戦闘は、ヒロコの精神をひどく疲弊させた。どれだけもてはやされても、心は洞穴のように空虚であった。虚しさのあまり死んでしまうのではないかと思った。何より彼女は若かった! 彼女は慰めを欲していた。また、慰めを求めても許される地位にあった。
 紅潮した顔をさらに火照らせ、ヒロコは視線を落としたまま、小さく頷いて見せた。それが合図だった。サリムは興奮した眼差しで彼女を見つめたまま足元まで近寄ると、その場でひざまずき、額が床に突くほどの礼拝をした。
 「サイェート(ご主人様)」
 そうつぶやくと彼は面を上げ、ヒロコの右の素足を両手に取り、接吻した。
 ヒロコは目を閉じた。
 足の甲に潤いを感じた。そして情熱。接吻は儀礼的なものに終わらなかった。柔らかく離れ、また柔らかく戻ってきた。足の甲から、指先、土踏まずへと。ヒロコは目を閉じて口を半開きにし、官能の疼きに身を委ねた。
 なぜか哀しくて涙が目に溢れた。
 絶えず監視される身である主人と下僕に許された、これはぎりぎりの戯れであった。どちらが言い出したわけでもなく、始まり、続いてきた戯れであった。これ以上は決して進んではいけない、という暗黙のルールだけがそこにはあった。
 だが今日はサリムの方が興奮していた。彼は我慢ができなくなったのか、思わずヒロコの足首を強く掴んだ。あっ、とヒロコが思ったちょうどその刹那、天幕の外からジャミラのアラビア語が聞こえてきた。
 『シャイフ・アブドゥル=ラフマーン様がお越しです』

(つづく)


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梅雨一句

2015年07月03日 | 俳句
梅雨に入り、全国の未曽有の豪雨を連日テレビが伝える。




たれか知る 平成の果てや 車軸雨








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