叔父は白髪頭をぽんぽん叩きながら急にへりくだった。
「唐島さんか、どうか、ほらどうか、この哀れなわしの甥に御焼香してくだされ。わしは、うん、ええと、喉が渇いたからビールをもらう」
自らの体を転がすようにして、叔父はようやく座を譲った。代わって唐島章一郎が仏壇の前に座る。どこで教わったか知らないが、私の親族に対する見せつけのように金襴の座布団を外して慎ましく座る。焼香を済ますと、嘆息して我が棺桶を見つめた。黙っているがどうせろくなことを考えていまい。本をついに一冊も出せずじまいだった私を、心中であざけっているのか。
背後を振り返る。
「仏の顔は拝めませんか」
「はあ、それが」
家政婦の大仁田が太った図体を揺らしながら歩み出て、唐島に耳打ちした。耳打ちといっても平生が声のでかい女だから、耳打ちにならない。メガホンを口に添えているようなものである。
「お亡くなりになるとき、何だかその、苦しまれでもしたのでしょうか、はい、少々歪んだ感じで、その、硬直なされているので、はい、できれば・・・はい、でも、それでも、強いてとおっしゃられれば」
「いや、じゃあ遠慮しておきましょう」
唐島は何の未練もないように手を振ってみせた。
「うん、先生、それよりこっちへ来て一緒に飲みましょう」
大裕叔父が唐島に手招きをする。叔父は弔問客をみんな飲み会に引っ張りこむ算段らしい。
(ちいとずつ つづく)
「唐島さんか、どうか、ほらどうか、この哀れなわしの甥に御焼香してくだされ。わしは、うん、ええと、喉が渇いたからビールをもらう」
自らの体を転がすようにして、叔父はようやく座を譲った。代わって唐島章一郎が仏壇の前に座る。どこで教わったか知らないが、私の親族に対する見せつけのように金襴の座布団を外して慎ましく座る。焼香を済ますと、嘆息して我が棺桶を見つめた。黙っているがどうせろくなことを考えていまい。本をついに一冊も出せずじまいだった私を、心中であざけっているのか。
背後を振り返る。
「仏の顔は拝めませんか」
「はあ、それが」
家政婦の大仁田が太った図体を揺らしながら歩み出て、唐島に耳打ちした。耳打ちといっても平生が声のでかい女だから、耳打ちにならない。メガホンを口に添えているようなものである。
「お亡くなりになるとき、何だかその、苦しまれでもしたのでしょうか、はい、少々歪んだ感じで、その、硬直なされているので、はい、できれば・・・はい、でも、それでも、強いてとおっしゃられれば」
「いや、じゃあ遠慮しておきましょう」
唐島は何の未練もないように手を振ってみせた。
「うん、先生、それよりこっちへ来て一緒に飲みましょう」
大裕叔父が唐島に手招きをする。叔父は弔問客をみんな飲み会に引っ張りこむ算段らしい。
(ちいとずつ つづく)
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